尸魂界篇
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「朽木女史が霊力譲渡の重罪?」
美桜は自席で雫に入れてもらったお茶を飲みながら、雫の言葉を聞き返した。やけどをしないように音を立てながら少しずつ啜る。
どうやら、十三番隊の朽木ルキアが現世駐在任務中に禁忌である霊力譲渡を行い、現世から連れ戻されたらしい。
(朽木ルキアねぇ....。)
聞き覚えのある名前にため息をつきたくなった。喜助が言っていたのはこのことだろう。とすれば、きっともう、奴は動き出している。
美桜は立ち上がって窓の外を見た。どこかに書類を届けにいく死神、友人と道端で世間話に花を咲かせる死神、真面目に素振りをする死神。ここにあるのは全て仮初の平和だ。あと数ヶ月で、百余年保たれてきたそれが崩れようとしている。
美桜の心とは裏腹に、雲ひとつない青空が広がっていた。
+ + +
美桜は今日の隊首会で告知された中央四十六室の決定に、違和感を覚えたまま帰宅した。
暗く冷たい部屋が美桜を出迎える。まだ真子は帰ってきていないらしい。
真子たちも藍染が動き始めたことを察したのだろう。より一層修行に励んでいるようだ。
あれから何十年という時を経た今も、美桜と真子は同じ家で暮らし、毎日同じベッドで寝ている。もちろんラブラブだ。百年以上一緒にいれば性格も似てくるのか、喧嘩なんてほとんどしない。といっても、大きな喧嘩がないだけで、思い出せばくだらなすぎて穴に埋まりたくなるような小さい喧嘩というか、言い争いはする。
美桜は夕食に使う里芋の皮を剥きながら先程の隊首会の内容を思い出した。
「....人間への霊力譲渡は確かに禁忌。でも双極を解放してまで処刑を行う必要があるの?」
「ないな。」
声と同時に美桜のお腹に腕が回る。肩には顎が乗せられ、耳に息をふぅーと吹きかけられる。くすぐったいし、そういう気分になりそうだからやめて欲しいと何度も言ってもやめてくれない。でもやめて欲しくない気もする。
美桜は皮剥きを一度止めて振り返り、同じ高さにある薄い唇にチュッと音を立ててキスをした。
「おかえり。」
「おん、ただいま。」
何十年何百年経っても変わらないやり取り。そんなやり取りができるこの日常がずっと続きますように。そう願わずにはいられない。
「美桜チャン、今日の夕飯何やろかー?」
「今日は里芋と大根のそぼろあんかけとサラダ、お味噌汁でーす!」
真子のちょっとふざけた話し方に、美桜も同じように返す。真子は「お、美味そうやな」と言った後、着ている服の裾を何回か折り返した。
「俺もやるわ。」
「ありがとう。」
美桜は真子の申し出に微笑んだ。一般的な男性のように女に家事を任せることなく、自分から率先してやってくれる。前に家事が好きなのか聞いたことがある。返ってきた答えは、「好きでも嫌いでもない」。じゃあなんでやってくれるの、と聞けば、やらなければ美桜がやることになるし、二人でやれば早く終わってその分一緒にいれるから。要約するとそんな理由だった。美桜が惚れ直したのは言うまででもない。
二人でやればあっという間に夕食が出来上がる。それをテーブルに並べて手を合わせる。まずは腹ごしらえだ。二人ともお腹が空いているから一言二言だけ交わしてあとは食べることに集中する。
半分程食べ進めた時、真子はジュースの入ったグラスを傾けながら美桜を見た。
「で、なんや。」
美桜は噛んでいた里芋を飲み込んでから答える。
「現世に駐在任務中だった朽木ルキアが、人間に死神の力の譲渡をしたのは知ってるよね?」
真子は記憶を辿るように上を見た。その口には大根が入っている。
「あー、この前出現したあの馬鹿でかい霊圧のやつか。」
「多分その子。それに対する四十六室の決定が双極による処刑って、おかしくなーい?」
真子は味噌汁の入ったお椀を傾けながら、美桜の意見に賛同した。
「おかしいな。やりすぎや。そいつ隊長格なんか?」
「ううん、ただの一般隊士よ。確かに義理とはいえ四大貴族だけど、そこまでやる必要あるかしら。」
「過去に双極使うて処刑したんは隊長格だけや。やけど今回はただの平隊士を双極で処刑。どう考えてもおかしいわ。」
真子は何かに気付いたように箸を止めた。
「なぁ美桜。四十六室、生きとるか?」
「まさか....!」
「そのまさか、かもなぁ。」
美桜は真子の言葉を否定することができなかった。むしろ考えれば考えるほどその可能性が濃厚になる。
藍染の斬魄刀である鏡花水月の能力は完全催眠。一度でも始解を見た者は、藍染の思うがままに五感を支配される。しかもそれに気付くことができない。
中央四十六室のある場所は第一級禁踏区域。護廷十三隊の隊長ですら許可なく立ち入ることを禁止されている。言い換えれば、中で何が起きても外から気付かれることがない。
もし、既に中央四十六室が殺害されていて、議事堂全体に鏡花水月がかけられている場合、外から見ても異常がないため、中ではいつも通り審議が行われていると思うだろう。しかし実際は四十六人の遺体があるだけだ。審議などしていない。
それでも何か中央四十六室から告知があれば、それは藍染の都合の良い決定というわけだ。となれば尸魂界は既に、藍染の掌の上ということになる。
「....っ!」
美桜は気付きたくなかった恐ろしい可能性に、手をギュッと握りしめた。その可能性を否定できる要素が一つもない。
真子は美桜の力が入って白くなった手に上から優しく触れた。すぐに力が抜けた手に自分の手を絡める。不安そうに眉を下げた美桜の顔を見て、手に力を入れた。
「ええか、美桜。もう四十六室は藍染の手に堕ちた思っとった方がええ。しゃーけど命令に背いたらあかん。奴らに勘付かれんよういつも通り行動せぇ。約束やで。」
「....うん。」
「ええ子や。」
真子はこの話はもう終わりと言わんばかりに、美桜から手を離して箸を持った。そしてサラダの胡瓜を口に運び、シャクシャクと良い音を立てて噛む。
美桜は手から離れた熱に寂しさを覚えつつ、箸を持って少し冷めた味噌汁に口を付けた。
片付けを終えて、二人でソファに深く座る。美桜は静かに本を読む真子に戯れるようにもたれかかるように体重を預けた。テレビからは何年か前に公開された洋画が独りでに流れている。
「ねぇ真子。今日一緒にお風呂入ろう?」
珍しい美桜の誘いに、真子は読んでいた本を落としそうになった。言葉の意味を理解した後、その整った歯並びを見せつけるように口角を上げた。
「ええんか?俺、我慢せんで?」
「....うん、いいよ」
何回やっても慣れないお誘いに美桜は顔を赤くした。きっと慣れるときなんて来ない。そんな確信があった。いつだって、真子にドキドキしているのだ。
+ + +
ライトを落として、アロマキャンドルだけの灯りの中、二人でお湯に浸かる。
「「ふぅ〜〜」」
二人して情けない声が出る。
浴槽は広いからくっつく必要なんてないが、美桜は真子に背中を預けて寄っ掛かった。真子の右手を両手で持ち上げると、骨や筋肉を指でなぞる。女の自分にはない男の部分を見ると、心臓がうるさいのだ。
「前から思っとったけど、俺の手好きやな。」
「えへへ、バレちゃった?」
「あほ。そんだけ触っとったらバレバレや。」
美桜は手フェチなのだ。もちろん真子限定の。真子の右手の掌に自分の左手のそれを重ね合わせる。大きい手。真子の指の第一関節に自分の指が届かない。
掌には硬くなったマメがある。真子の頑張ってきた証であるこれを指でそっと撫でる。
ちなみに、斬魄刀を抜かない美桜の手にマメはない。あるのは柔らかい皮膚だけだ。
自分で真子の右手を左頬にあてる。顔が包まれてる感じがして安心する。そのまま「ふふっ」と笑うと、それまでされるがままだった真子が美桜の頸にキスをした。
「...んっ.......」
美桜は目の前にあった真子の親指を口に含むと歯で甘噛みし、舌で舐めまわした。
真子の左手が美桜の胸をゆるゆると触り始める。真子の親指を咥えて、漏れそうになる声を必死で抑えた。熱を帯びた吐息が浴室に反響する。
美桜は後ろを振り返って真子の目を見る。そこに映る自分と同じ願いに、美桜は舐めていた親指を離した。
「上がろっか。」
「おん。」
美桜たちは浴室を後にした。