虚化篇
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私が七番隊隊長に就任してから、早くも五年が経った。
私が隊長に就任した一年後に、宣言していた通り小椿副隊長は引退した。そこから私は新しい副隊長とともに七番隊を取り仕切っている。
七番隊はラブさんが率いていた頃と比べると、隊士が三分の一ほどになった。それでも、七十人程度の隊士が所属している。
全員回道が使える者たちである。この数年でようやくここまで持ってくることが出来た。
総隊長も、四番隊まではいかずとも回道が使用可能で、それなりに戦うことができる七番隊を認めてくれているらしい。
おかげで最近死者が少なくなってきたという。
コンコン
「隊長、失礼します。」
執務室で一人、書類仕事をしていた私は、副隊長の芦谷雫の声に顔を上げた。
芦谷雫は、私が鬼道衆にいた時に教育係だった芦谷の妹である。元々四番隊にいた雫は、私の作る七番隊の方針に賛同し、移隊してきたのだ。
「どうぞ〜」
律儀に私の返事を待ってから扉を開けた雫は、肩につかないくらいの真っ直ぐな銀色の髪を靡かせている。髪と同色の睫毛に縁取られた青い瞳は無気力そうで感情があまりない。
小椿副隊長が引退すると同時に副隊長に任命した雫は、元四番隊の席官だったこともあり、回道が得意だ。七番隊にきて私が一対一で指導したこともあり、回道の腕がさらに上達した。そのせいか、卯ノ花隊長に戻ってこないかとよく声を掛けられている。
瞬歩も速く、戦闘能力も問題ないため、副隊長に任命したのだ。
そんな雫は私の前までくると、数枚の書類を机に置いた。
「こちらが終われば本日の書類は終了です。」
「じゃあこれやったら休むね。」
七番隊隊長になるにあたって、総隊長と取り決めたように、私はやるべきことが終われば勤務時間でも眠るようにしている。
書類数枚なんてすぐに終わり、大きく伸びをした。残っていたお茶を飲んでから、筆を動かす雫に声をかける。
「じゃあ、寝てくるからあとはよろしくね。」
「はい、おやすみなさい隊長。」
雫に見送られながら、執務室に隣接している扉を開けた。
そこは私専用の仮眠室になっており、ベッドが置いてある。部屋に結界を張ってから隊長羽織を脱いで衣紋掛けにかける。そして死覇装の帯を少し緩め、身体を布団の中に潜り込ませた。
真子の温もりがないここは少し寒いけれど、今は真子も修行中だ。甘えてばかりはいられない。
そう思いながら、私はやってきた睡魔に目を閉じた。
意識が浮上する。
時計を見なくてもわかる。三時間ほど寝ていたようだ。身体を起こして大きく伸びをしていると、扉が叩かれた。
「隊長、起きていらっしゃいますか。」
雫の声だ。何かあったのだろうか。
まぁ執務室にある霊圧でなんとなく予想できる。
「はーい、今行くわ。」
私は乱れた死覇装を鏡の前で整えたあと、隊長羽織を羽織って仮眠室を出た。
そこには案の定、六番隊隊長の朽木銀嶺がいた。
シワだらけの顔を僅かに緩めた銀嶺さんは、申し訳なさそうに私を見た。
「すまんのう。起こしてしまったか。」
「いいえ、そろそろ起きようと思っていたので構いませんよ。」
銀嶺さんがここまで来るということは、用件は一つだろう。
「すまんが、白哉が六十番台の鬼道を教えろと煩くてのう。また頼めるか。」
そう、私は銀嶺さんのお孫さんの白哉君に鬼道を教えているのだ。元鬼道衆で鬼道が得意な私に、ぜひ孫に鬼道を教えてもらいたいと、七番隊隊長になってすぐ銀嶺さんにお願いされた。
夜一さんから時折聞いていた白哉君がちょっと気になっていた私は、快く頷いたのだ。
まだ真央霊術院生の白哉君はそんな急がなくてもいいのに、と思いつつ、白哉君の一生懸命な様子に熱く教えてしまう私がいる。
「では明日はいかがでしょうか?」
「うむ。では明日屋敷にて待っておる。」
銀嶺さんはそれだけ告げると執務室を後にした。あの人も孫馬鹿だよねぇ。
+ + +
翌日。
私は四大貴族の一角、朽木家の屋敷を訪れていた。
その広い庭園に、白哉君はいた。
艶のある黒髪を結い上げ、真央霊術院の制服の袖を捲り上げて固定した白哉君は、設置された的に向かって鬼道を放っているようだ。
「こんにちは、白哉君。元気だった?」
私が声をかけると、白哉君は嬉しそうにこちらを向いた。
「涼森先生!来てくださったのですね!!」
夜一さんから生意気な白哉君の話を聞いていた私は、初めて会ったとき想像と違って素直な良い子で驚いたのだ。きっと、夜一さんが揶揄って遊んでいたから生意気そうに見えていたのだろう。でも時々、夜一さんから聞いていた生意気な白哉君が顔を覗かせることもあって、ちょっと面白い。
「先生、今日は六十番台の縛道を教えていただきたいのです!」
「ふふ、わかったわ。」
私は日が暮れるまで白哉君に鬼道を教え続けた。
藍染のこととか、仕事のこととか。現実を忘れて、こうやって一生懸命になる時間も大事よね。
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