虚化篇
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名前を呼ばれた私は書き途中の書類から顔を上げた。
「涼森五席、お客様です。」
どうやら私にお客さんらしい。珍しい。しかもわざわざ鬼道衆にまで来るなんて。
寂しい人のように聞こえるが、私は友だちが多くない。真央霊術院でもいつも真子たちといたことが大きい。
六年間同級生だった子とも会えば挨拶はするがそれだけ、という関係である。
一体誰だろうか?そう思いながら席を立った。
扉を出ると、すぐにそこにお客さんがいた。見慣れたその三つ編みと眼鏡に少し驚く。
「どうしたのリサ。こんなところまで。」
リサは眼鏡を上げながら言う。
「美桜、今晩暇か?」
突然の誘いに面を食らうも、今晩の予定を思い出し、頷く。
「大丈夫だけど....」
「じゃあ美桜も来い。飲むで。」
どうやら飲み会のお誘いらしい。私は良いけど、真子も参加するのかな。参加しないならご飯どうしよう。
そんな私の心の内なんて、この何十年来の親友には筒抜けで。
「安心しぃ。真子もおる。」
それなら断る理由はなくなった。
見るからに安心したように微笑む私に、リサが呆れたような顔をする。
「相変わらずやな。じゃ、終業後ウチらの霊圧辿って来れるか?」
余談だが、私はあまり地理に詳しくない。というもの、目印となるものが見えないからだ。そりゃあ、五歩以内ならちゃんと見えるけど。
いくら見えない部分を霊圧感知で把握しているとはいえ、文字や色まではわからない。だからリサも私に説明すると効率が悪いと思ったのだろう。
私は常に霊圧感知を無意識のうちに行っているからか、この広い瀞霊廷でも集中すれば誰がどこにいるかわかる。下手に場所を説明するよりも、みんなの霊圧が集まっている場所に行けばいいと言った方が楽なのだ。
「うん、わかった。」
リサは私の返事を聞くと、「じゃ」と後ろ手を振って去っていった。
私はその姿を見送った後、気持ちを切り替えるように呟いた。
「....よし!」
+ + +
終業後。とある個室居酒屋にて。
そこには既に護廷十三隊副隊長と席官が数人集まっていた。
「なんだぁ?もう一人来るのか?」
七番隊副隊長 愛川羅武は、真子の隣の空いた座布団に首を傾げた。
そんな愛川を、三番隊副隊長 鳳橋楼十郎がつつく。
「ラブ、もう一人いたじゃないか。あの回道の女の子だよ。」
愛川はそう言われて思い出したのか、「あー!」と大きな声を上げた。
「あのちっこい子か!」
噂をすればなんとやら。
ようやく揃ったようだ。
「失礼します。遅くなりました。」
金色の猫っ毛を高いところで一つに結い上げ、薄紫色の瞳をキョロキョロさせながら美桜が入ってきた。
「お、美桜、お疲れさん。こっち来ぃ。」
真子に呼ばれた美桜は、花が綻ぶように笑った。
そして草履を脱いだ後、迷わず真子の隣の空いている座布団に座る。
美桜が席に着いたことを確認してから、拳西が言った。
「全員揃ったな。覚えてると思うが、霊術院生の時に流魂街で出会った死神の二人だ。偶然会ったんでお前らも連れてきた。」
真央霊術院の二回生だった頃、流魂街の祭りで虚が出現したときに出会った二人だった。
どうやら偶然再会したらしい。拳西も二人も互いに覚えていたらしく、「あの時一緒にいた子たちはどうしてるかい?」なんて話になったのだろう。それでこの飲み会というわけだ。
「改めて、鳳橋楼十郎だ。ローズでいいよ。」
「愛川羅武だ。俺もラブでいいぜ。」
二人に続き、美桜たちも自己紹介をした。
死神という職業柄、いつ誰が死んでもおかしくない。そんな中でこうやって何十年の時を経て、また再会出来るというのは感慨深いものがある。
真子に寄り添うように座っている美桜に、ローズが感心したように言う。
「へぇ、君たちあの時からずっとかい?」
「せやで。」
真子はホッケの身から骨を取りながら言った。
「随分長いじゃねぇか。」
ラブの言葉に、拳西とリサがため息をついた。
「ずっと一緒にいるぜ、こいつら。」
「一緒に住んどるしな。」
そう言って、骨を取った身を自分で食べずに美桜のお皿に移す真子を見る。
それを受け取る美桜は、真子のお酒が少なくなってきたのを見て、店員に注文している。
二人ともイチャイチャしようとか、そんなことは思っていない。これが "日常" なのだ。
ラブもローズもそんな様子の二人を見て察したのだろう。少し遠い目をした。確かに独り身にこれはちょっときついかもしれない。