番外編
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●風邪
(虚化後)
朝、愛しい人の腕の中で目が覚める。
毎日のことだけど、これが本当に幸せ。
いつも真子が先に目覚めて私の寝顔を見てることが多いから、私が先に目覚めるなんて珍しいなぁなんて思った。
いつも見られてるから、今日くらい私が真子の寝顔を堪能しようじゃないか。そう思って腕の中から顔を上げた。
「(ん??)」
なんだか真子の顔が赤い気がする。息も荒い。まるでえっちしてる時みたいな、熱っぽい吐息....。私の頭の下にある腕もいつもより熱い気がする。
ある確信を持ってさらさらとした前髪を退けて、おでこに手を当てた。
「(やっぱり熱がある!)」
私は真子を起こさないようにそっと起き上がると、真子に布団をしっかりとかけた。そして音を立てないように寝室から出た。
「(お粥作ってあげよう)」
腕の中の温もりがない。目を開ける。
いつもの天井、いつもとは違う身体の怠さに、真子は右手で顔を抑えた。
「(やってしもた....)」
これは確実に熱がある。そんな怠さだった。
真子は、自身の左腕に感じる重さがないことに気付き隣を見た。そこには冷たいシーツが残されているだけだった。
どうやら起きてからだいぶ時間が経っているらしい。それすらも気付かないとは、思った以上に体調が悪いのかもしれない。
熱い息を吐くと、心地良い睡魔に身を任せた。
寝室からそーっと抜け出した私は、キッチンでおかゆを作ろうとエプロンの紐を絞めた。
小鍋に米と水、出汁を入れて火にかける。
「(面倒だから私もお粥でいっか。)」
米を柔らかくしている間に、りんごを剥いて半分擦りおろす。これなら真子も食べられるかな。
しかしそれもすぐに終わってしまう。まだ米は柔らかくなっていない。
んーと考えていると、今日の予定を思い出した。今日真子は喜助さんに会う予定だった。でも少なくとも今日はベッドの中だろう。
「(喜助さんに今日無理って伝えなきゃ。)」
私はすぐ戻るから、と火をつけたまま空間を跨いで浦原商店へ向かう。
浦原商店の居間に出た私を、いつもの三人が出迎える。みんなこんな朝から私が来ると思わなかったのだろう。驚いた顔をしている。
その顔にふふっと笑いながら、真子が体調を崩したことを告げた。
「おはようございます。朝からごめんなさい。真子が体調崩してしまったので、今日の予定なしにしていただいてもいいですか?」
「おや、平子サンが。珍しいっスね。」
喜助さんはそう言った後、「良いっスよ」と快く承諾してくれた。
そして私を舐めるように見た後、扇子を広げて顔の下半分を隠した。
「いやー、美桜サン!良いですね、エプロン姿!平子サンが羨ましいっス!!」
喜助さんは真子が隣にいる時はこんなこと言わないけど、私一人だけの時はいつもこんな感じである。
もう、またそんなこと言って、と呆れる。この人は何年経っても変わらなさそうだ。そのことに安心する。
「ありがとうございます。では、私はこれで。」
私は再び空間を開けて浦原商店を後にした。
やっとお粥が出来そうだ。味見をして微調整をした後、火を消す。
お椀にお粥を入れ、レンゲをつける。そしてすりおろしたりんごと水、薬を一緒にお盆に乗せて、階段を上がる。
そーっと寝室に入る。
「真子、起きてる?」
私が声をかけると、微睡みから起きたようだ。
真子が私をボーッと見ている。珍しい真子の様子に、可愛くてキュンキュンする。なんだろ、母性本能をくすぐられるというか。そんな感じ。
「お粥作ってきたよ。起きれる?」
「....あぁ。」
真子はゆっくり起き上がって、ふぅと息を吐いた。結構熱があるのだろう。辛そうだ。
私はサイドテーブルにお盆を置いた後、真子がもたれ掛かれるように、真子の背中とベッドの間に分厚いクッションを何個か入れた。
こうなったらとことんお世話しよう。なんか甘やかしたいのだ。
そう思った私はレンゲを取り、お粥を乗せると食べやすいようにふーふーした。
真子が目を見開いて私を見るけど、今日は特別。お粥の乗ったレンゲを真子の口の前に差し出し、決定的な言葉を言う。
「はい、あーん。」
真子は熱か羞恥心からか、顔が赤らめた。
「調子狂うわ....。」
心なしか恥ずかしそうに口を開ける。
その整った歯並びの間にレンゲを差し込んで、ゆっくりと引き抜いた。しっかり食べてくれてる。
「(あ、これ楽しいかもしれない。)」
気分は雛にご飯を与える親鳥だ。そんなことを考えていると、もっと食べたいのか、真子がこちらを半目で見ている。
それがもう可愛くて可愛くて。自然と笑みを溢しながら、お粥をレンゲに乗せた。
真子が覚えとれよ、なんて思っていることはつゆ知らず、私はにっこにこしながらお粥とすりおろしたりんごを与えた。
「(あ〜かわいっ)」
意外と食欲があったようで、真子は持ってきたお粥もりんごも全て完食した。
薬を渡すと、嫌そうに眉間に皺を寄せて水で流し込んでいた。
じゃあお皿を片付けてこよう。
そう思って立ち上がりかけた私を真子が呼び止める。
「....美桜。」
「どうしたの?」
真子は言いづらそうに顔を逸らしながら、でも目だけ私を見て口を開いた。
「....一緒におってくれるか?」
「(え、待ってすごいかわいい。心臓がギュイン!ってなった。どうしよう。一緒に寝て欲しいってこと?まぁ風邪引くと寂しいもんね。でも、いつもの真子からはとてもじゃないけど想像できないこの弱ってる姿!グッとくる。はぁ、すき....。)」
そんな心のうちをおくびにも出さず、もちろんと頷いた。
お皿を水につけた後、すぐに二階に上がる。
寝室に入ると、真子は背中のクッションをどかしてベッドに潜り込んでいた。
私は布団をめくって真子の横に寝っ転がると、いつもより下にある真子の頭を抱き締めるように抱え込んだ。そして真子の頭をゆっくりと撫でる。今は見慣れた短くなった髪。長くても短くても変わらずサラサラとしている。
いつも真子にやってもらってることを、今日は私が真子にやるのだ。流石に腕枕は痛くて出来ないけど。
真子がホッとしたように息を吐く。
「(いつもお疲れさま。)」
やがて聞こえてきた規則正しい寝息に、私も目を閉じた。