虚化篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は、以前から隊首会があることが通達されていた。
新しい七番隊隊長の就任式があるのだ。
あと少しで定刻になるという頃、一番隊には隊長格が次々と集まっていた。
しかし、十年前の十一人の隊長格が行方不明になった事件の影響か、全員揃っても空きが目立つ。
定刻になったことを確認した山本元柳斎重國、もとい護廷十三隊総隊長は、斬魄刀を擬態させた杖を床に叩きつけた。
「よく来たな、皆の者。これより、かねてより通達しておった、七番隊隊長の就任式を執り行う。」
山本は「入れ」と扉に向かって声をかける。
雀部副隊長によって開けられた扉から入って来たのは、小柄な女性だった。
「「「........!!」」」
他の者より長い隊長羽織は地面に付く手前で、内側は胡桃染色だった。帯は薄紫色で、その細い腰を強調している。
毛先がくるくるとした薄い金色の髪を靡かせながら歩く。帯と同色の目は垂れており、前をまっすぐ見つめていた。右耳には金色にピアス、左手の薬指には金色の指輪が嵌められている。
そして、驚くべきことに、彼女の腰には斬魄刀が "二本" ささっていた。
十二番隊隊長 涅マユリは自身の顎を撫でながら、興味深そうに美桜の斬魄刀を眺める。
「ほぅ。斬魄刀が二本カネ。ぜひ研究してみたいものダネ。」
彼女は皆の視線を集めたまま、山本に促されその薄く色付いた口を開いた。
「この度七番隊隊長として復帰することになりました、涼森 美桜と申します。よろしくお願いします。」
復帰。ということは、休職していたのか。そんな女に隊長が務まるのか。
そんな空気を断ち切るように、山本が声を張り上げた。
「八番隊隊長京楽春水、及び十三番隊隊長浮竹十四郎両名の推薦を受け、隊長三名の同席のもと隊首試験を実施した。その結果、隊長になる資質・能力ともに不足なしと判断した。よってここに、涼森 美桜を護廷十三隊七番隊隊長として任命する!」
山本がそう宣言した後、隊首会は解散となった。美桜は真っ先に京楽と浮竹の元へ向かった。
「美桜ちゃん隊長羽織似合ってるじゃないの。」
京楽は隊長羽織を纏った美桜を眩しそうに見つめた。
「ありがとうございます、京楽隊長。」
いつもの呼び方ではなく、隊長呼びされた京楽は嫌そうに顔を歪めた。
「いつもみたいに春兄って呼んでよ〜。」
「今はお仕事中ですから。」
そんな京楽にピシャリと言い放つ美桜。
「よく似合っているよ、美桜。」
「ありがとうございます、浮竹隊長。具合が悪くなったらいつでもおっしゃってくださいね。」
美桜は浮竹の後ろにいる隊士を見た。見覚えがない隊士だ。副隊長だろうか。
美桜の思考を読んだのか、浮竹がその隊士を紹介した。
「紹介しよう。数年前から俺の副隊長をしている、志波海燕だ。」
海燕と呼ばれた男は、美桜に向かって一礼をした。美桜も「よろしくお願いします」と返す。
美桜は海燕を見て何か気付いたように「あ。」と呟いた。
「もしかして、口説き落とすことに成功したのですか?」
「あぁ!ようやく了承してくれてね!!」
浮竹は喜色を浮かべて頷いた。それが本当に嬉しそうで、美桜も頬が緩んだ。
「ご歓談中失礼します。涼森隊長。」
七番隊副隊長の小椿から呼ばれた美桜は、三人に軽く挨拶をしてから、七番隊隊舎へと向かっていった。
「どう思うかい、ギン。」
「七番隊隊長サンのことです?」
藍染はまだ幼さを残す自身の副官の質問にそうだよ、と肯定して返した。
「えらい別嬪さんやったなぁ。しかも斬魄刀が二本。珍しいこともあるもんやなぁ。」
藍染はフッと笑って歩き出した。その心は誰にも読めなかった。
+ + +
七番隊隊舎
ここに属する隊士たちの間では、新しい隊長の噂が飛び交っていた。
「新しい隊長は女らしいぜ。」
「小椿副隊長が引退されるってマジなのかよ。」
そのとき、隊士たちの間を白い羽織が通り抜けた。
何千という護廷十三隊の隊士の中でも、その羽織を着ることを許されているのは僅か十三人である。黒い死覇装の中で白い羽織を着れば、否応にも目立つ。
隊士たちは、その羽織の持ち主が新しい七番隊隊長であることを理解した。
「一刻後に大広間に集合して欲しい旨を皆に伝えてもらってもいいかしら?」
美桜は近くにいた隊士にそうお願いをする。
その優しげな薄紫の目に見つめられた隊士は、顔を真っ赤にして何度も頷いた。
「は、はい!!かしこまりました!!」
美桜はそんな隊士を不思議そうに見ながら、小椿に案内されて執務室へと入っていった。
「優しそうな隊長だな。」
「すっごい綺麗な人〜!!」
「斬魄刀二本なかったか?」
執務室の扉が閉まった途端、それまで固まっていた隊士たちは近くにいた者と喋り始めた。
大広間。
そこには全隊士が集結していた。
美桜は手前の数人しか見えないものの、痛いくらい刺さる視線を感じながら、一歩前に出た。
「初めまして。七番隊隊長に就任しました、涼森 美桜です。みんな思いところはあると思うけど、よろしくお願いしますね。」
美桜は一度目を閉じたあと、力強く目で言った。
「私が作りたい七番隊をお話しします。合わないと思った方は、遠慮なく移隊していただいて構いません。できるだけ便宜を図らせてもらいます。」
そう前置きしてから、美桜は昨日真子に話したことを皆に告げた。
自分の能力がそれに向いているかどうかはさておき、そういう隊があれば生存率が格段に上がることを皆理解しているようだ。
悪くない隊士たちの表情に、美桜は嬉しそうに頷いた。
+ + +
慣れない場所で緊張して疲れた私は、与えられた隊長宅から家の扉を開けた。
「ただいまぁ〜」
真子がリビングから出てきて出迎えてくれた。
「おん、おかえり。どうやった?」
抱き締められて触れるだけのキスを何回かする。
いつも私が出迎えていたけど、待ってくれる人がいるっていいね。
「反応は良い感じだったよ。でもやっぱり向いてないって思う人が多いみたいです、結構移隊すると思うなぁ。」
「さよか。」
美桜のやりたいようにすればええ、と励まされたので、ふふっと笑って真子の胸に耳を当てる。
ドクンッドクンッ
真子の心臓の音が聞こえる。
私だけじゃない。みんな大切な人がいるはず。その人たちを失うことがないように、失う人が少なくなるように、その助けになれればいい。