虚化篇
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真子が五番隊隊長になってから、十数年の時が流れた。
年齢を理由に引退した五番隊隊長の後を継いだ真子は、最近ようやく副隊長を決めた。
藍染惣右介というその副隊長は、数年前に真央霊術院を卒業したばかりらしい。
入隊して数年で副隊長に任命するなんて、どれだけ優秀なのだろう、と真子に聞いてみる。しかし、返ってきた答えは私が想像しているのとは違った。
「あいつはな、危険なんや。」
真子が顔を歪めて言う。
「危険?」
「せや。あいつは奥に何かを隠しとる。しゃーから監視するために副隊長にしたんや。」
真子は、斬魄刀である逆撫の能力の影響か、人の心の奥に秘めたものを感じ取るようだ。
藍染という人と話したときに逆撫が反応していたらしい。何を考えているのかはわからないが、危険な何かを感じるのだという。
私は真子が心配だった。
副隊長というものは、隊長と行動を共にすることが多い。執務室も同じで、仕事中とはいえ全く気が抜けないなんて、いくら何でも疲れないだろうか。
「そんな危ない人が副隊長で大丈夫なの?」
「あいつは野放しにしたらあかん。俺が監視しとくんや。安心しぃ、お前には絶対会わせん。」
一人の時は気をつけな、と注意される。茶髪に黒縁の眼鏡をかけた人らしい。そんな人どこにでもいるって。
「あいつのおるところで絶対能力は使うな。約束や。」
真子は、そう言って右手の小指を差し出してきた。私も小指を出して握り返す。 "ゆびきりげんまん" だ。
この時の私は、真子がどうしてこんな警戒しているのか分からなかった。
気付いた時にはもう、遅かった。
+ + +
いつも通り美桜と行ってらっしゃいのキスをしてから扉を開ける。
隊長になったことで、隊舎近くに一軒家が与えられた。隊長が住まう家らしい。一応そこに住んでいるということにしてある。
通い慣れた道を気だるげに歩く。
「平子隊長、おはようございます!」
「おん、おはようさん。」
何人かに挨拶され、それを返しながら執務室に向かう。
隊長・副隊長の執務室の扉を音を立てて開ける。
ガラガラ
既に仕事を始めているのであろう、藍染が筆を止めて真子を見た。
「おはようございます、平子隊長」
「おん、おはようさん。」
真子は、既に曲がっているその背をさらに曲げて自身の席へと向かう。仕事をしたくないのだろう。それが現れた後ろ姿だった。
いつも通り引き出しに美桜からもらった弁当を入れてから、ため息を吐いて筆を持った。
昼が近づいてきた頃。
真子は聞こえてきたうるさい足音に顔を歪めた。それが誰のものかなんてわかりきっている。
扉が開いたのと同時に飛んできた足を左手で受け止める。
「真子ーっっ!!飯行くでっ!!!」
「なんでお前と飯行かなあかんねん!!大体俺には弁当あんねん!」
「はぁ"???ウチが誘ってんねんから行くに決まっとるやろ!?それになんや弁当って!ウチはそんなん聞いてへんで!?」
「どないな暴論やねん!!なんでお前に言わなあかんねん!」
執務室が一気にうるさくなる。藍染はその様子を静かに見守る。
ひよ里を追ってきたのか、リサが姿を現した。
「言ったやろ。前日に誘わんと無理やって。」
リサの呆れた様子に、ひよ里の額に青筋が立つ。
「おいリサ!お前知っとんならはよ言わんかいっ!!」
「言ったやろ。あんたが聞かずに飛び出してきたんや。」
ひよ里は思い当たることがあったのか、少し黙る。
すると、今まで静かに成り行きを見ていた藍染が口を開いた。
「以前から思っていたのですが、平子隊長はご自分で料理を?」
三人の視線が藍染に集中する。一拍後、ひよ里が吹き出した。
「あほっ!!このハゲが料理するわけないやろ!?これはな、「嫁や。」」
ひよ里が喋っている途中で、リサが遮る。
「嫁?ということは、ご結婚を?」
真子は椅子の背もたれに寄りかかり、両手を頭の後ろで組みながら答えた。
「せや。隊長になった時にな。」
リサは、そんな真子と藍染の様子を鋭い目で見る。
そしてひよ里の首根っこを掴むと、そのままずるずると引きずって歩き出した。
「ほら、帰るで。」
「ちょお待てリサ!ウチはあのハゲに奢ってもらうねん!!」
ひよ里の声が遠ざかっていく。
真子は深いため息をついた後、その目を鋭くして言った。
「会わせんからな」
藍染は微笑みながら答えた。
「そうですか、それは残念です。」
昼を知らせる鐘が鳴った。