虚化篇
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先日、お揃いのピアスを作ってからというもの。私はものづくりにすっかり入れ込んでいた。
霊圧を霊子に分解した後、再構築して凝縮する。これは霊圧操作の修行にちょうど良かった。
それに、今まであったらいいな、と思っていたものも、自分で好きなように作れるようになったのである。楽しくないはずがない。
さらに言うと、最近私はまた霊圧が増えた。日常生活に問題はないが、ふとした時に自分の奥底に燻っている霊圧を感じるのである。
鬼道を打って放出するのでもいいが、なんとなく無駄打ちしているようで嫌なのだ。
霊圧を霊子に分解してるときに、ふと思う。霊子に分解せずに凝縮させたらどうなるのだろう、と。思い立ったら気になってしまい、やってみる。
手に霊圧を出して、それを小さく固めていく。やがて手のひらに小さい石ができた。
純粋な霊圧が込められたその石は、私の霊圧の色なのか、薄紫色だ。その石を指で摘んで空に向けて透かせてみる。大きさの割に、濃密な霊圧を感じる。
霊圧が込められた石。霊石とでも名付けよう。
今はただ霊圧だけを込めたが、回道を込めたらどうなるのだろう。回道が一向に上達しない真子も回道が使えるようになるのではないか。そうなれば真子が怪我をしても、痛い思いをする時間が減る。
いつも私がそばにいれるわけではない。
任務中の怪我はどうしても私のところに戻ってくるまで治療ができない。そんな真子のためになればいい。
その一心で回道を手に込めた。そしてそれを凝縮させていく。ただの霊圧の時よりも集中力がいる。額に汗が滲んだ。
先程よりも時間がかかってようやく完成したそれは、回道の色なのだろう。薄い緑色をしていた。
ただの霊圧を込めた霊石よりも、一回り小さいそれからは、回道の霊圧を感じる。込めた霊圧は同じ量だが、純粋な霊圧よりも凝縮の効率が悪いのだろう。
でもこれで、真子が痛い思いをしなくて済むかもしれない。今は遠征に行っていて明日まで帰ってこないけど、真子に渡そう。そう思い修行場を後にした。
+ + +
翌日の夜。
真子が遠征から無事帰宅した。
「おかえりなさい。お疲れさま。」
「おん、ただいま。」
帰ってきた真子に抱き締められる。
「あぁ〜今癒されとる俺。」
「もう、何言ってるのよ。」
顔を上げてキスをする。
毎日が幸せすぎる。
副官章を外しながら、真子が言う。
「美桜チャン、今日の晩ご飯なんやろかー?」
「今日は寒いから鍋だよ。明日は私も真子も休みだし、お酒も用意しました〜!」
「お、ええな」
「じゃあ準備しておくから、先にお風呂入ってきてね。」
着替えも置いてあるから、と真子を脱衣所へ送り出す。
いつも食事をするテーブルではなく、炬燵で鍋をつつく。酔いも回ってきた頃、昨日作った霊石を思い出した。
私は空間から霊石を取り出す。が、、、
「え!なんで透明なの!?」
純粋な霊圧を込めた霊石は変わらず薄紫色だった。しかし、真子に渡そうと思っていた回道を込めた霊石の色が、透明になっていたのだ。
確かめてみると、ただの霊圧しか感じない。どうやら、回道だけ抜け落ちたようだ。
「なんや、それ。」
真子が霊石を見て聞いてくる。
私は真子に薄紫色の霊石を渡した。真子はそれを摘んで目を細める。
「美桜の霊圧で出来とんのか。」
「うん。それは純粋な霊圧、こっちには回道を込めたから真子に渡そうと思ったんだけど....」
回道が抜けた透明な霊石を見る。
"回道を込めた霊石を真子に渡したい" と言ったことで、真子は私が回道が苦手な真子のためにこれを作ったことがわかったのだろう。
優しい顔で頭を撫でられた。
「ありがとさん。」
回道だけ抜けたことに納得がいかない私は、ムッとしながら呟いた。
「悔しいから明日もう一度やる。」
「俺も付き合ったる。」
私は悔しさを紛らわすように、残っていたお酒を一気に飲んだ。
+ + +
翌日。
いつもより遅く起床し、修行場に行く。
今日はリサと拳西も休みで、修行したいと言っていた。久しぶりに四人で修行だ。
リサの寮の扉と家の扉を繋げて、リサを招き入れた後、同様に拳西も呼ぶ。
修行場に四人で入ると、なんだか真央霊術院の頃に戻ったようだ。みんなそれぞれ成長しているし、制服ではなく死覇装を着ているけど、それでも懐かしい。
真子たち三人が始解をして斬魄刀でやり合う中、私は隅の方で霊石作りに励んだ。
回道を込めた霊石を長持ちさせたい。真子の傷が少しでも早く治るように。その一心で取り組む。
だが、何度やってもこの前と同じものしか出来上がらない。変わった気がしないのだ。
なんだか頭にきた私は、今出せる全ての霊圧に回道を込めた。
突然の霊圧解放に、驚いたように真子たちがこちらを見た気がしたけど、気にせずに集中する。
両手で抱えきれない程の霊圧をゆっくりと、慎重に凝縮させていく。一瞬でも気を抜いたら意識が飛びそうだ。
しばらくして、霊石が完成したのを確認した瞬間、膝から崩れ落ちた。すかさず様子を見ていた真子に抱き留められる。
真子は私を近くの岩にもたれかからせると、出来上がった霊石を見た。
その霊石は、今まで作ったどれよりも濃い緑色で、霊圧の密度も他と比べ物にならない程だった。
しかし、、、
「「「でかいな。」」」
そう、大きすぎるのだ。
私が両手で抱える程の大きさのそれは、本来の目的から離れている。
私は "真子が携帯できる程度の大きさの回道が込められた霊石" が作りたかったのだ。これでは持ち運ぶのに精一杯すぎて、とてもではないが携帯なんて出来ない。
失敗か....。
私はため息をついた。一気に力が抜けた気がして岩に背を預ける。
もう今日は動けないなぁ。この霊石どうしよう。
私の周りには大小様々な霊石が転がっている。全て回道が込められたものだ。しかし、この回道は一日も経たずに抜けてただの霊石になる。
「美桜、これ一個もらってええか?」
リサに聞かれて頷く。
「いいけど、一日もしないで回道は抜けちゃうよ?」
「それでもええ。やりたいことあんねん。」
一個と言わず何個でも持っていっていいよと声をかけて、やってきた睡魔に目を閉じた。
+ + +
リサは帰宅後、先程の光景を思い出した。
解放された美桜の霊圧。その量・質ともに自分の遙か上をいっていた。
悔しいが、親友は強い。それは戦闘能力の高さではない。能力の幅の広さというか、その使い方というか。上手に説明できないが。
手の中にある霊石というものを見る。
美桜の霊圧を感じるそれには、回道が込められていて、真子のために編み出したという。
(相変わらずやな。)
フッと笑ったリサは、やりたかったことをやるために、霊石を持って脱衣所へ向かった。
+ + +
数日後。
私たち三人は、珍しくリサに呼び出された。呼び出された、といっても、「今日美桜たちの家行ってええか?」と言われただけだが。
終業後、私はそれぞれの寮にみんなを迎えに行った。
四人で異空間の家に入った後、私は四人分の夕食の支度をしながら聞いた。
「リサと拳西はお風呂入っていく?」
我が家のお風呂は広い。綺麗な景色を見ながら露天風呂でゆっくりと浸かることができる。それに比べて、寮のお風呂は脚を伸ばして浸かることが出来ないくらい、狭いものだ。
「うちはここで入る。」
「俺も入っていくぜ。」
案の定、二人とも広いお風呂の方が良いみたいだ。
「じゃあ私はまだ支度してるから、先に入っておいでよ」
「うちはあとで美桜と入るから、あんたら先入り。」
リサは後で私と入るようだ。
それなら、と手伝おうとしてくれた真子をお風呂へ勧める。
「おおきに。拳西いくで。」
シャワーも二つあるし、充分広い浴槽は男二人でも余裕だ。
真子と拳西を見送った後、私はよし、と支度に取り掛かった。
お腹いっぱい夕食を食べた後。
真子がリサに今日呼び出した理由を問う。
「で、なんや。理由があんねやろ。」
リサは目を閉じた後、自身の荷物から瓶を取り出しテーブルに置いた。
そこには、先日リサが持って帰った回道の霊石があった。なぜか水に入れてある。
「これは?」
「よう見てみ。」
リサに言われて瓶を持ち上げる。少し考えた後、リサが言いたいことがわかり、ハッとした。
回道が、抜けていないのだ。
真子たちも気付いたのだろう。目を見開いてリサを見る。
「どうやったんだよこれ。もう数日経ってるじゃねぇか。」
「うちは特別なことはしてへん。ただ、水に入れとっただけや。」
水??なんで水に?
私たちの疑問を読み取ったのか、リサがちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。
どうやら、稽古で全身に付いた細かい傷にいちいち霊石を当てて治すのが面倒だから、霊石を湯槽に沈めて、自分がそれに入ればどうなるだろうと考えたらしい。
水に入れた瞬間、回道が水に溶け出したのがわかったらしい。そこに身体を沈めると、全身の傷が癒えたのだという。
そして一日どころか、数日経った今でも回道が抜けていない。
なんともリサらしい大胆な発想に苦笑いしながら、私がやろうとしていたことが決して無駄ではなかったのだと知る。
"水に浸けておく"というのが、どこまで許容されるのか研究する必要があるが、それでもこの発見はとても大きい。
私はリサに飛びついた。
「リサ、ありがとう。」
リサは躊躇いながら私の背に手を回す。
「あほ。偶然や。」
そんな私たちを見てから、真子は霊石の入った瓶を持ち上げた。
「これ飲んだらどうなるんや?」
「飲むのは勝手やけど、その水はやめとき。」
「うちが風呂入った水やで。」と続けたリサに真子が叫ぶ。
「あほ!誰がこの水飲むかい!!」
そんな二人に笑いながら、夜は更けていった。