虚化篇
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「はぁ....」
真子は先程の隊首会で通告された内容に顔を歪めた。これから荒れるであろうひよ里のことを考えると、ため息を抑えることが出来なかった。
その日、私は買い物をするために異空間を出て瀞霊廷を歩いていた。
すると、向こうから派手な女物の羽織を羽織った春兄と丈の短い死覇装を纏ったリサが歩いてきた。
「お、美桜ちゃんじゃないの〜。どう、平子クンとは。」
「春兄!久しぶり。幸せに暮らしてるよ。」
真子と暮らす毎日は、本当に幸せで仕方がないのだ。
リサが私の持つ籠の中を覗く。そこには紺色の布が入っている。
「これで何するんや?」
「真子の着流しを作ろうと思って」
最近真子の着流しがよれてきたのだ。
新しいのを購入しようと思ったが、しっくりくるものがない為、自分で縫って真子の着流しを作ってしまおうと考えたのだ。時間はたっぷりある。
リサが呆れたようにこちらを見る。
「相変わらずやな。」
その顔がおかしくてつい笑ってしまう。
そういえば最近春兄もリサも忙しいのか、あまり我が家に来ていない。
「今後また遊びにきてね。この前もみじ植えたの」
「お、いいねぇ」
結婚して退職してからというもの、私は土いじりに入れ込んでいた。
いくつか小さめの空間を作り、そこに自分で一から四季折々の花や木を植えているのである。段々楽しくなってきて、夏の空間は太陽を強く照らしたり、冬の空間には雪を降らせたりしている。東屋を設置しているのでちょっとした宴会だってそこで出来る。
もっとも、空間に入れる人が限られすぎて、私と真子しかまだ見ていないが。是非春兄とリサにも見てもらいたいのだ。
そんなことを考えていると、春兄が何か思い出したように言う。
「そういえば美桜ちゃん。曳舟隊長のことは聞いたかい?」
「曳舟隊長?何も聞いていないけど....」
曳舟隊長がどうかしたの?
私は疑問を浮かべ、首を傾げる。
春兄は、そんな私の様子に驚いたようだった。
「昇進するんだよ。彼女。」
「昇進?ということは零ですか?」
辺りに他の死神もいるため、小声で春兄と話す。
曳舟隊長が昇進、ということは別の人が十二番隊隊長になるということである。なるほど、これは真子がため息をつきたくなるわけだ。
最近真子のため息が多いことに気付いていたが、真子から何も言ってこないということは何か理由があると思っていた。だから私も聞かなかったのだ。
真子は、完全に公私混同しないとは言い切れないが、少なくとも守秘義務は守るのだ。
今回の件も、一般隊士にまで公表されれば私に話そうと思っていたのだろう。しかし、まだ緘口令がしかれていたため、黙っていたのだろう。
あぁ、かっこいいな私の旦那さん。そんなところも大好き。
あちゃ、じゃあ言わない方が良かったかねぇなんて呟きながら、春兄は編笠を被りなおした。
「しっかりしてるねぇ、平子クンは」
「あんたと違ってな。」
リサのツッコミに春兄は嬉しそうに笑う。
リサが副隊長になって一番喜んでいたのは春兄なのだ。リサもなんだかんだ言いながら春兄のことを信頼している。
良い組み合わせだな、なんて思った。
リサは、「そろそろ行くで」と春兄を急かした。どうせ書類の山が待っているのだろう。春兄はそういう人だ。
私は春兄とリサを見送ってから帰路についた。
+ + +
数日後。
いつもより遅く帰宅した真子は、隊長羽織を脱ぎながらため息をついた。
その羽織を受け取り、皺にならないように衣紋かけに掛けながら、ため息の理由を聞く。
「どうしたの、そんな深いため息ついて」
「曳舟さんの後任の隊長が来たんやけどなぁ、なんやえらく緩いんや。」
と言いつつ、きっと真子のことだ。放っておけずにこんな時間まで様子を見ていたのだろう。
私は後ろから真子に抱きついた。
「私、真子のそういうところ大好き。いつも飄々として全然興味なさそうなのに、実はすごい仲間思いで誰か困ってるとさりげなく助けるところ。でもそこで終わりじゃなくて、その後もちゃんとやってるかなって様子見に行っちゃうところも。」
唐突なほめ殺しに、流石に恥ずかしいのか真子の耳が赤くなったのがわかった。
「美桜チャン、抱きつくなら前からやってや」
そう言われたけど、自分から抱きつくのって恥ずかしいじゃない。
そう思ってたら、真子は大して力の入っていない私の腕を解き、私を正面から抱き締めた。
「あー、かわい」
わざと力を入れてないことなんてわかっていたのだろう。そりゃあ私だって正面から抱き締められたいもの。
しばらく抱きしめ合った後、私は真子の頬を両手で包んだ。そして身長差を補うように背伸びをすると、ちゅっと小さな音たててキスをする。
驚いたように目を見開いた真子に気分が良くなって、もう一度キスをしようと顔を近づけた。その瞬間、真子は私の頭の後ろに手を回し、深い口付けをする。私の唇を舌でなぞり、力が抜けて開いた口に舌を差し込んでかき回す。
最初キスを仕掛けたのは私だったのに、終わった時にはすっかり脱力して真子に背中を支えられていた。
背中に真子の大きな手を感じる。細長くて、でも男の人らしく骨張っていて、私を守り、慈しみ、愛してくれる手。
私は空いていたもう片方の手を持ち上げると、その指にキスをした。
いつも頑張ってる旦那さんを癒してあげよう。そう思い、挑発するように真子の目を見てその指に舌を這わせる。
私が誘ったのがわかったのだろう。ニヤリと笑った真子は、私を抱き上げて寝室に向かった。