虚化篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
馬酔木が描かれた副官章をつけた真子は、帰ってくるなり私を抱き締めた。
珍しい様子の真子に驚きながら、その背中に手を回す。
「おかえり。急にどうしたの?」
真子は私の肩に顎を乗せ、耳元で言った。
「美桜、俺隊長になるわ。」
「....え?」
最初、真子が何を言っているのか分からなかった。
「俺、隊長に昇進やって。」
隊長??真子が??
意味がわかった瞬間、心の底から喜びが溢れてくる。
「おめでとう真子っ!!」
真子が隊長になるためにたくさん努力してたのを、一番近くで見てきた。死神をしながら空いた時間で一緒に卍解の修行をした。そして先日、ついに卍解を会得した。
これまでの日々を思い出していると、胸がいっぱいになり視界が滲む。
真子はそんな私の顔中に優しくキスを落とす。そしてその大きな両手で私の顔を包み込むと、私の薄紫色の目と真子の胡桃染色の目が合った。
「なぁ美桜。結婚しよか。」
一瞬、なんて言われたのかわからなかった。真子の目を見つめたまま、言葉の意味を考える。
真子は戸惑う私の左手の薬指に、真子の髪と同じ色の指輪をはめた。
ぴったりと嵌った指輪から真子の霊圧を感じる。きっと真子が霊子で作ってくれたのだろう。
指輪を見ていると、ようやく意味が理解出来た。じわじわと涙が溢れ出してくる。
そんなの、答えなんて決まってるじゃない。
「....はいっ!!」
この人とずっとにいる。これからの永い時を共に生きる。
結婚せずともそのつもりだった。でも真子はしっかりとけじめを付けてくれた。この関係に、強固な名前を付けてくれた。それがたまらなく嬉しかった。
真子は私をギュッと抱き締めた。そしてしみじみといった風に言う。
「これでやっと俺のものや。」
「ばか。ずっと前から貴方のものですぅ」
「そない意味とちゃう。誰から見ても俺のものになるんや。」
人の目から見ても、書類でも、真子のものになる。それがどんなに素敵なことか。
何度もキスをしながら一緒にお風呂に入った後、真子は真剣な顔で言った。
「隊長になれば今より忙しくなる。帰るのも遅くなる。それで美桜との時間が減るのはいやや。だから、お前には家におって欲しいねん。ほんで疲れた俺を癒してくれへん?」
つまりは、私に鬼道衆を辞してほしいということである。
元々私が死神になった理由は二つ。能力の制御と友だちを作るためである。強くなるためだとか、誰かを守るためだとか、そんな理由はない。
能力の制御は出来るようになった。霊圧の制御も。今なお増え続ける霊圧に手を焼くこともあるだろうが、死神を辞めれば時間はたっぷりある。その時間を研究や修行に充てれば問題ないだろう。
そしてたくさんの友だちが出来た。親友と呼べる友も。今死神を辞めても、私は一人じゃない。真子はもちろん、リサも拳西も、春兄や四郎兄だっている。
修行をつけてくれた春兄と四郎兄には悪いが、きっと寿退職と知れば祝福してくれるだろう。
それに、真子と同時期に会得した卍解の代償によって、死神として働くのが辛くなってきた。それを説明すれば大丈夫だろう。
こんなこと言ったら怒られそうだが、私は鬼道衆を気に入ってはいるが、自分がやらなくても良いと思っている。自分の代わりになる優秀な人は他にもいる。
しかし、真子に寄り添い、支えるこの役目の代わりなんていない。いや、いたとしても誰にも譲りたくない。
答えは既に決まっていた。
+ + +
翌日、私は早速休職届を大鬼道長に提出した。最初は引き留めようとした大鬼道長だが、休職の理由が結婚であることを知ると、両手を挙げて喜んでくれた。その相手が五番隊副隊長である真子のことを伝える。どうやら真子のことを知っている大鬼道長には、感慨深いものがあったようだ。
引き継ぎもあるため、休職は一ヶ月後に決まった。
一ヶ月後。
無事引き継ぎを終えた後、皆に見送られて鬼道衆五席を休職した。休職といっても、復帰する目処は立っていないため、空いた五席には誰かが就任する予定だ。
私の教育係でもあり、良き先輩でもあった芦谷四席は、涙ぐみながら結婚を祝福してくれた。鬼道衆の中で大鬼道長以外に彼女一人だけ、新しい五番隊隊長が相手であることを伝えていた。
こうして平子美桜になった私は、真子と手を繋いで家へと歩き出した。