過去篇
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時は流れ、美桜たちは六回生になった。
真央霊術院の最終学年である今年は、卒業後の進路について頭を悩ませる時期である。特進学級でも、何番隊に希望を出すかなどの話がそこら中から聞こえてくるようになっていた。
美桜たち四人も例に漏れず、いつもの特訓後、進路について話し合っていた。
己の進路が既に決まっているリサは最近の教室の様子を思い出しながら言った。
「みんな進路のことばっかやな。」
「リサは京楽さんから声かかっとるもんなぁ。」
そう、一回生の夏季休暇に冗談混じりで声をかけてきた京楽だったが、どうやら本気だったようで、先日改めて引き抜きに来たのだ。隊長自ら真央霊術院に訪れて引き抜きにくるのは大変名誉なことで、リサもその気だったためあっという間に話がまとまった。
「美桜も京楽さんと浮竹さんから声掛けられてるんじゃねぇのか?」
そう言った拳西に、美桜は苦笑いしながら答えた。
「ううん、二人からは声掛けられてないの。」
その言葉に、三人は己の耳を疑った。
京楽と浮竹が愛弟子である美桜を引き抜いていないなど、一体何があったのか。
「私、鬼道衆に入ろうと思ってて。」
護廷十三隊は、己の斬魄刀で戦うことが多い。四番隊という手もあるが、世間的には京楽と浮竹を除き、斬魄刀は一人一本しか持たない。そこに斬魄刀を二本持つ美桜がいけばどうなるか、容易に想像できる。
美桜は斬魄刀の能力を公にすることは避けるように言われている。そのため、出来るだけ注目されるのは避けたいのだ。
それに対し、鬼道衆は斬魄刀を抜くことが滅多になく、基本的に己の鬼道だけで戦う。斬魄刀を帯刀している者がそもそも少ないのだ。たとえ美桜が斬魄刀を帯刀していなくとも、鬼道衆なら目立たないのだ。
美桜自身鬼道が一番得意で、それに加えて戦うこと自体あまり好きではない。後方支援が多く、基本的に前線に出ることのない鬼道衆は彼女にとって都合が良いのだ。
「それに、これは春兄と四郎兄の提案でもあるの。」
そこまで聞いた三人は納得した。
京楽と浮竹も、本当は自分の隊に美桜を入隊させたいだろう。しかし、美桜のためを思うと護廷十三隊ではなく鬼道衆に入るのが一番良い。そのため泣く泣く愛弟子を手放したのだ。
真子は美桜の頭を撫でながら、優しい声で言った。
「さよか。愛されとるな。」
「…うん。なんだか照れくさいけどね。それに大鬼道長は春兄の飲み仲間だから、口をきいてくれたみたい。」
大方、大事な弟子だからよろしく頼むよ、とでも言っているのだろう。
その証拠に、と美桜は懐から手紙を取り出した。蜜蝋には鬼道衆の紋章が押されている。そこには、入隊と同時に席官を約束する旨が書かれていた。
「席官!?」
驚きはするものの、美桜の鬼道の腕前を思えば当然と言えば当然である。
美桜は既に破道も縛道も八十番台まで詠唱破棄を習得しており、九十番台を修行中だ。いくら若いからとはいえ、そんな逸材を平隊員になんてしていられないだろう。
「真子と拳西はどうするの?」
「俺は特に希望する隊はねぇ。」
「俺もや。かたっくるしい一番隊と戦闘狂しかおらん十一番隊以外ならどこでもええわ。」
「真子の性格的に隠密機動はまずないから二番隊もなしや。あと四番隊も。」
美桜は真子が隠密機動の黒い装束を着て、目元以外頭巾で覆い隠し、静かに任務をこなす姿を想像して笑った。口から生まれたと言っても過言ではない真子が黙って任務を遂行できるわけがない。
真子は美桜が自身のよからぬことを想像して笑ったのを察し、両頬を摘んだ。
「美桜チャン? 今何想像して笑ったんや??」
「ふふっ、真子君に隠密機動は似合わないなぁって」
美桜に言われて真子も自身が隠密機動になるのを想像するが、似合わなすぎて笑いが込み上げてくる。
「ほんまや。合わなすぎや。」
でも、と美桜が寂しそうな顔で言った。
「みんなと一緒に居られるのもあと少しなんだね」
真子たちもそのことに気付き、胸にぽっかりと穴が空いたような気持ちになる。
真子はふと気付く。ただでさえ広い瀞霊廷。その中に散らばる護廷十三隊と鬼道衆。入隊したら、今のように美桜と会えなくなるのではないか、と。そのことに気付いた真子は美桜にある提案をした。
「なぁ美桜。卒業したら、一緒に住もか。」
え、と声を漏らした美桜は真子の言っていることがようやく理解できたのか、顔に喜色を浮かべた。
「うんっっ!!!」
真子は嬉しそうな美桜を優しい目で見つめる。
そんな二人の様子を横目に、少し照れたような表情でリサが言う。
「うちは卒業してもここで修行するで。」
リサは「まだ始解も会得しとらんしな」と続けた。始解を会得していないのは拳西も同じで、卒業したら全く会わない、なんてことはなさそうだ。
リサなりの不器用な宥め方に、美桜は嬉しくなってリサに飛びつく。
受け止めたリサも満更ではない様子で、なんだかんだ彼女も卒業するのが寂しいみたいだ。
その後、無事卒業した四人はそれぞれ希望する隊に入隊した。
真央霊術院での六年間の生活は一生の絆と愛を生み出し、それは彼らが道を違えたとしても決して消えることはなかった。
過去篇【完】
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