過去篇
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いつもと同じで、でもどこか甘さが増した学院生活を送っていると、季節が移り変わっていた。そろそろ夏季休暇に思いを馳せる頃だ。
長期休暇前に試験があるのは古今東西同じで、真央霊術院でも夏季休暇前に試験があった。
美桜と真子は、かつて美桜が住んでいた家で試験勉強をしていた。基本的に文武両道な二人だが、それぞれ苦手科目はある。美桜は数学、真子は国語だ。
二人は互いに教え合いながら、試験に備えていた。
真央霊術院に入るまで美桜が住んでいた、異空間の中に建てられた家。洗練された造形のその家は、芙蓉が未来に散歩しに行った時に見つけ、それを参考にして銀琉とともに霊子で作ったものだった。
外観は四角く、白と紺で染められていた。玄関を入って廊下の突き当たりにあるリビングダイニングは吹き抜けになっており、食事用のテーブルと椅子の他に、リラックスできるソファや足の短いテーブルが置いてある。リビングの横にある階段から二階に行くことができ、美桜の寝室やただの物置になっている部屋がいくつかある。
リビングの横の一番高くなった場所、小上がりともいえるそこには畳が敷かれ、座布団や足の短いテーブルが置いてあった。冬にはこのテーブルが炬燵になるのである。
美桜と真子はそのテーブルに教科書を広げ、試験勉強をしていた。
今は数学の時間である。数学が苦手な美桜はある問題で躓いていた。どの公式を入れて計算すれば答えが出るのかがわからないのだ。いや、正確には "しっかりと考えればわかるのに、頭がそれを拒否している" と言った方がしっくりくる。嫌いなものは見るだけで嫌で、考えたくもないのだ。
唇を前に突き出しながら、「うぅぅ……」と唸る美桜。それを頬杖をついて見守る真子。彼の前にはとうの昔に解かれ、全て丸のついた紙が置いてある。
付き合う前までの美桜は同年代とは思えないほど落ち着いており、大人びていた。それは京楽に出会うまで斬魄刀以外の誰とも関わらず、たった一人で生きてきた過去に原因があるのかもしれない。美桜は、結局最後に頼れるのは己のみということをよくわかっているのだ。
しかし付き合い始めてから、美桜は"素の姿"を真子に見せ始めた。それは真子が彼女の心の奥に根付く存在であることを示しているし、まだ完全に寄りかかることは出来ずとも、辛くなればその腕に掴まっていいと感じているからかもしれない。
真子はそれが堪らなく嬉しかった。自分だけが知っている美桜の姿。
紅を塗っていなくとも薄紅色に色付き、ぷるぷると潤った唇。
真子はその突き出された唇を見ていると、無性に己のそれと重ねたくなった。
だが今は、試験勉強をするための時間である。
でもこの場所で恋人と二人っきりであることもまた事実。
しかし彼女は一生懸命問題を解いていて……。
だけど今まで彼女のペースに合わせてきたのだから、そろそろ次の段階に進んでもいいのではないか。
真子の理性と本能が激しく戦うなか、遂にその決着がついた。
ちゅ
優しい口付けだった。
小さな音を立てて重ねられたそれに、美桜の目が見開かれる。
数秒の口付けの後、我に返ったように目を見開いた真子は、急いで美桜から唇を離した。しかし、美桜はそれを追いかけるように口付けた。
再び互いの唇が重なる。短い触れるだけの軽い口付けだったが、真子の欲を掻き立てるには十分過ぎた。
悪戯が成功したような顔で真子を見る美桜の頭の後ろに右手を回し、こちらに引き寄せる。驚いた顔をする彼女に口付け、そのまま舌で唇をなぞる。真子はその仕草で美桜の唇の力が抜けたことを良いことに、その中に舌を忍び込ませた。
「っん……」
真子の舌と美桜の舌が触れ合い、くちゅくちゅと音をたてる。
美桜は真子の胸元の服を握りながら、その舌を受け入れた。
「っん、はぁ……っあ…」
真子の巧みな舌の動きに、美桜はなす術がなかった。長い口付けで溢れ出した唾液が彼女の顎をつたう。それすらも快楽になるのか、美桜の口から小さな声が漏れる。真子の胸元の服を握っていた手は、力が抜けてただ添えているだけだった。
一通り満足した真子は美桜から唇を離した。二人の間にある銀色の糸が激しい口付けを物語っていた。
美桜は「はぁはぁ」と息を切らしながら、とろんと潤んだ目で真子をゆっくりと見た。
「……えっろい顔やな」
潤んだ目。上気した頬。長い口付けでいつもより赤くなった唇。そして顎をつたう二人分の唾液。
そんな美桜を見た真子は、ゾクゾクとした何かが己の身体を駆け巡るのがわかった。
真子は美桜の顎につたった唾液を舐めとると、そのまま唇に軽く触れるだけを口付けをした。そして心なしがぐったりした美桜を優しく抱き締めた。
「すまん。我慢できひんかったわ。」
真子に抱き締められた美桜はゆっくりと背中に手を回し、その肩に顎をのせ耳元で言った。
「ん、きもちよかった」
吐息を多く含んだその声に己の欲望が首をもたげそうになった真子だが、今初めてキスをしたばかりなのにそれはまだ早いと気合いで押し込めた。
もちろんこんな気分で試験勉強が続けられるわけもなく。
この後二人は夕食の時間まで口付けを繰り返していた。