過去篇
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辺りに植えられた桜が風で花びらを撒き散らしながら地面を染める頃、美桜たちは二回生になった。
特進学級は進級試験の結果で何人か入れ替えがあったものの、去年とほぼ同じ顔ぶれだった。もちろん成績優秀な四人は今年も特進学級である。
毎年特進学級の二回生は入学式の誘導員をすることになっている。四人は大広間近くを割り当てられ、新入生たちを学級ごとの席に誘導していた。
まもなく入学式典の開始時間となり、ほとんどの新入生が大広間に集まった頃、手持ち無沙汰になった美桜と真子は一年前のことを思い出していた。
「もうあれから一年経ったんだね〜」
毎年思うが、一年はあっという間に過ぎていく。学業に打ち込んでいれば一週間が終わり、試験を気にしているうちに一ヶ月が終わる。そして季節が移り変わったな、と思ったら一年が過ぎているのだ。時の流れは恐ろしいものである。
「俺と美桜が出会ってから一年やな。」
「出会ってからやない。美桜が真子を
リサに嫌なことを思い出させられた真子はわかりやすく口をへの字にした。女に間違えられたのは後にも先にもあの時だけである。
「リサ! それは言わん約束やろ!!」
「そんな約束しとらん。あたしはなんべんでも言うでぇ。」
思い出すだけで地面に穴を掘って埋まりたくなるため美桜にとってもあまり触れて欲しい話題ではなかったが、あの時の出会いは今でも大切な思い出である。きっとこれから先も変わることはないだろう。
( このキラキラした髪に惹かれたんだよね…… )
美桜は真子の髪をジッと見た。
今では髪だけではなく、真子自体に惹かれている。支えてくれる大きな手も、実は誰よりも努力家なところも、興味ないような振りをしておいて気付いてくれるところも、仲間想いなところも。全部好きなのだ。
その視線に気付いた真子も美桜を見た。そしてその口を開けようとした時ーーーー何かに顔を蹴り飛ばされて吹っ飛んだ。
それと同時に真子が立っていた場所に少女が着地する。
真子を蹴り飛ばした少女は彼よりもやや薄い金色の髪を高い位置で二つに結び、真央霊術院の制服を着ていた。気の強そうな吊り目は真子がすっ飛んで行った方向をジッと睨んでいる。
突然顔を蹴り飛ばされた真子は顔を手でおさえながら、「なにすんねん!」と文句を言おうと顔を上げたが、その言葉は音にはならず消えた。
「げ、ひよ里……」
ひよ里、と呼ばれた少女は真子を思いっきり指差して叫んだ。
「げ、やないわこのハゲェ! ウチに何も言わず勝手に霊術院なんぞ行きよってほんまにハゲやな!!」
ひよ里はビシッと美桜の方を指差して続けた。
「しかもなんやぁ? そこの女とええ雰囲気やったやないか! 恋人なんか? 霊術院には勉強しに来とるんやないんか!? それともなんや。女漁りに来とんか? ああん??」
真子のそれよりもトゲのある喋り方で一気に捲し立てる。ひよ里は吹っ飛ばされた真子の元までいくと、胸ぐらを掴み上げた。
「し、真子君とはまだそんなのじゃなくて……」
今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気に焦った美桜が弁明するが、火に油を注いだだけだった。
「シンジクン!? なんやお前、シンジクンって呼ばせてんのか気色悪いわこのハゲェ!!」
「美桜に手ェ出すなや!!」
「なぁにが一丁前に手ェ出すなや!!」
ギャーギャー騒ぐ真子とひよ里に巻き込まれない位置で顔を寄せて話す者が二人。
「なんだあいつ。」
「知らん。噂の真子の幼馴染やない?」
「なんつーか、やかましい女だな。あいつにそっくりだぜ……ってか涼森のやつ、"まだ"って言ったよな。」
「言ったな。」
二人してはぁとため息をついた。
「ったくいつになったらくっつくんだか、……っ!」
そう言った拳西に何かが飛んできた。その逞しい体躯でしっかりと受け止めた拳西は、緑のくるくるとした髪を見た瞬間顔を歪ませた。
「げ、白!! 何でここにいやがんだお前っ?!」
白と呼ばれた短い緑の髪の少女は、不貞腐れたように唇を前に突き出した。
「もー!! ひどいよーけんせーってばーー! あたしが寝てる間にいなくなるってほんとサイテー!! 何で連れて行ってくれなかったのよーーー!!」
「あたしも行きたかった」と駄々をこね始めた白に、拳西はうんざりした顔で叫んだ。
「だー!!! うるせぇよ!!!」
忘れているかもしれないが、今彼らがいるのは入学式典が行われる大広間の近く。当然教師もいるわけで、騒ぎを聞きつけた権正が眉間に皺を寄せながらすっ飛んできた。
「お前ら!! 何やってるんだ!! そこの四人は後で講師室に来いっ!!! 新入生二人はさっさと大広間に行けっ!!」
教師に怒られたことでひよ里と白はしぶしぶ大広間に向かっていった。残った四人は権正の厳しい視線を居心地悪そうに受け止める。リサは完全にとばっちりである。
「お前らは優等生だと思っていたんだがな。俺の勘違いだったか??」
四人は罰として真央霊術院内の掃除を言い渡され、美桜は正門近くを箒で掃きながらため息をついた。
( あの子がひよ里ちゃん。真子君の幼馴染…… )
二人のやりとりを思い出すだけで胸がギュッと握られたように痛む。美桜は真子があんな風に叫んでいるのを見たことがなかった。
それに、彼なら避けることが出来たはずだ。四人は毎日の特訓で互いの実力を知り尽くしている。攻撃の癖、防御の方法、鬼道の使い方、霊力の乱れまでほぼ完璧に。真子の実力なら、あの程度の蹴りなど避けて当然なのだ。
にも関わらず、彼は蹴りを甘んじて受け入れた。
その事実が美桜の胸に暗い陰を落としていた。