過去篇
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さぁ始めようというとき、京楽は美桜の腰をチラリと見た。そこにいつも共にあるべき斬魄刀はない。
「美桜ちゃん、最近時間とって斬魄刀と対話出来てるかい?」
美桜は少しばつが悪そうに下を見た。それだけで答えがわかった京楽は、小さく息を吐いた。
「……あんまり。だってみんな斬魄刀持ってないし、夜は疲れてすぐ寝ちゃうから……」
「そんなことだろうと思ったよ。じゃあ美桜ちゃんは斬魄刀と対話してきなさい。あの二人に拗ねられちゃあ大変だ。」
美桜は「はぁい」と叱られて拗ねた子どものように返事をすると、異空間から二本の斬魄刀を取り出した。
金と銀の斬魄刀。美桜の斬魄刀を初めて見る三人の目には、「いつか自分も斬魄刀を手に入れたい」という強い憧れがあった。三人とも浅打と寝食を共にしているが、まだ名前は聞けていない。それどころか、こちらの問いかけにすら全く反応がない。一朝一夕で会得出来るものではないとわかってはいるが、早く始解を会得したいのだ。
美桜はそのまま訓練場の端で腰を下ろすと、斬魄刀を抱え込むようにして対話を始めた。
それを見届けた京楽と浮竹に、真子は以前から気になっていたことを聞いた。
「……美桜はもう始解できるんか。」
「美桜ちゃんの斬魄刀は、他とはちょっと違ってね。本来、斬魄刀は君たちが今やっているように浅打を通じて対話し、斬魄刀に認めてもらうことでその名を呼ぶことができる。でも美桜ちゃんの斬魄刀は特殊でね。……浅打がなくとも具現化し自ら名を教え、生きる術を教え、まるで我が子のように大切にしていた。僕らが美桜ちゃんを見つけるまで、彼女は斬魄刀に育てられていたのさ。だから始解なんて、僕らに出会う前から息するように使えるよ。」
「「「…!」」」
三人とも美桜が始解できることに薄々勘付いてはいたが、いざその事実を突き付けられると言葉が出なかった。
己が強くなろうとも、その先をいく彼女。そんな美桜に追いつくために、三人は浅打を持つ手により一層力を入れた。
そんな三人の様子に、京楽は満足そうに頷く。
「じゃあ君たちはぼくらの相手をしてもらおうか。」
三人は京楽と浮竹にしっかりと頭を下げた。
「「「よろしくお願いします」」」
真子たちは、この数日間で京楽と浮竹に扱き倒されてきた。その日の終わりには美桜が怪我を治してくれるものの、毎日傷だらけになりながら修行をしていた。
しかしやはり隊長の名前は伊達ではない。打ち合い中に気付いたことを伝えてくれるため、数日前の自分からは考えられないほど強くなっていた。
修行最終日である今日はいつもより早めに切り上げ、とある居酒屋の個室にて飲み会が開催されていた。残念ながら、浮竹は体調不良のため欠席している。
京楽は酔いが回り赤くなった顔でデレデレとリサを見た。京楽はリサが気に入ったのか、修行の合間に尻を触ろうとしてはその手をつねられていた。それでも懲りずに同じことをするのだから、よほど気に入ったのだろう。
「リサちゃん。君死神になったら八番隊においでよぉ〜。」
「ええよ。その尻引っ叩いて仕事させたるわ!」
この数日間で随分と打ち解けたのか、リサは京楽に対して遠慮がなかった。
そんなリサを拳西が咎める。
「おいリサ。流石に隊長さんにその口調はやめとけ。」
「こいつはええねん。」
「いいよいいよ〜。リサちゃん可愛いから許しちゃう」
隊首羽織を脱いでしまえば、誰も京楽のことを護廷十三隊の隊長とは思わないだろう。ただのエロ親父だ。
美桜は真子と隣同士に座って他愛のない話をしていた。
もともと美桜はそこまで酒が強くない。しかし今日は数日間の特訓が終了した解放感で、いつもよりも酒の進みが早かった。
真子は赤くなった美桜の顔を見て、彼女の盃を遠ざけた。
「美桜、お前そない酒強ないんやから、そろそろやめとき。」
右手で頬杖をついたせいか、真子の金色の髪がカーテンのように垂れた。
その髪を見て、美桜は懐かしむように目を細めた。
「わたしね、最初真子君のこと女の子だと思ってたの。」
美桜の口から全く想像していなかった言葉が飛び出して、真子はぽかんと口を開けた。
「は??」
「最初入寮式で後ろ姿を見かけてね、すっごい綺麗な髪の女の子だなって。でも次に見かけた時に男の子だって気付いて。」
美桜は机にあった真子の左手を持ち上げ、指で真子の骨張った手をなぞった。
「特訓し始めてから、細いけど私より身体は大きいし、筋肉あるし、男の子なんだって実感して。私のことちゃんと見て気付いてくれるし、欲しい言葉も言ってくれるし。……いつもありがとう。」
至近距離で美桜の笑顔を見た真子は混乱していた。
( ちょお待て。なんやこの状況。俺口説かれとんのか? でも相手は酔っ払いや。あてにしたらあかん。 )
酔っ払いの言葉ほど信用できないものはない。故に真子は信じてはいけないと己に言い聞かせたが、赤くなった頬を元に戻すことは出来なかった。
気付けば美桜と真子以外の三人の視線がこちらに集まっていた。皆悪そうな顔で笑っている。
「なんやぁ、あんたら。やっぱできとんのか。」
「そういうことやるならほかでやれ。」
「いやぁ、若いっていいねぇ。」
「ちゃうわ、ボケェ!!」
三者三様の反応に、真子は頭を抱えた。
初めての夏は、何かが動き始めた気がした。