過去篇
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季節は夏。
美桜が隠し事を三人に打ち明けてから数週間。
四人は何をするにも、共に行動するようになっていた。皆賑やかな性格ではないため常に会話しているわけではないが、たとえ沈黙であったとしてもそれは苦痛ではなく、心地いいものだった。
目的は違えど、死神になるという同じ目標を抱えた者同士、共に切磋琢磨し、強くなっていた。
美桜たちは来週に迫った夏季休暇について話していた。
真央霊術院にも夏季休暇が二週間だけ存在する。院生たちはこの休暇を使い帰郷し、それぞれ親しい者たちと過ごすのだ。
「みんなは夏季休暇どうするの?」
「…あたしは帰らん。」
「俺もええかなぁ。帰ったところでやかましいやつしかおらんし。」
真子は幼馴染である、小さくてうるさい金髪の女を思い浮かべ、うへぇと舌を出した。
彼は幼馴染に真央霊術院に入学することを黙ってここに来たのだ。帰ったらどうなるか容易に想像出来る。きっと、全く禿げていないこの髪を引っ張りながら、ハゲハゲ言って顔を叩いてくるのだろう。女とは思えないほど暴力的だ。
「俺もうるせぇのがいるから帰んねぇわ。」
拳正も幼馴染である緑の髪の騒がしい女を思い浮かべ、真子と同じような表情で言った。
そんな二人の表情を見た美桜は声に出して笑った。
でも、少し羨ましかった。リサはわからないが、真子と拳西には自分の帰りを待っている人がいるのだろう。美桜には幼馴染と呼べる者はおろか、真央霊術院に入学するまで友だちすらいなかった。だから、美桜には真子と拳西が少しだけ眩しく見えた。
「美桜はどうするん。」
「私は師匠のところに行こうかなって。だから、みんなが都合いいなら紹介したいなぁ、なんて思ってるんだけどどう?」
美桜が悪戯っ子のような顔で放った言葉に、三人は全力で頷いた。その瞬間、夏季休暇の予定が決定した。
特進学級の担当教師である権正は心なしか浮かれている院生を一喝するように叫んだ。
「明日から夏季休暇に入る。家族に会いに行くもよし。友人と遊ぶのもよし。だが、己が遊んでいる間に、強くなろうと鍛錬している者がいることを忘れるなっ! 夏季休暇明けに腑抜けた顔をしてるやつがいるようなら、特別に訓練つけてやるから覚悟しておけっ!!! では解散! 二週間後強くなったお前たちを楽しみにしている。」
そう締めくくった権正が教室を後にした途端にガヤガヤ騒がしくなった教室に、真子は顔を歪めた。
「みんな浮かれとんなぁ。権正センセイのゆーとったこともう忘れたんか?」
「仕方ねぇだろ。ここに入学して初めての長期休暇なんだ。少しぐらい浮かれてもバチは当たんねぇよ。」
拳西は、「それに俺らだって浮かれてるだろ」と真子を見た。真子は少し驚いたような顔をした後、周りを見ながら言った。
「しゃーないやろ。隊長サンが直々に稽古つけてくれるんや。浮かれるなゆー方が無理な話やわ。」
そう、数日間だけであるものの、四人は京楽と浮竹に稽古をつけてもらうことになっていた。
護廷十三隊の隊長とは、万を超える死神たちの中で僅か十三人しかおらず、副隊長はともかくその下にいる十八人の席官でさえ気安く話しかけることができない存在だ。
そんな隊長が二人も、死神ですらない真央霊術院の院生である自分たちに稽古をつけてくれるのだ。まさに夢のような話である。真子たちが浮かれるのも無理ない。
夏季休暇初日。
真央霊術院の門の前に集合した四人は十三番隊の離れにある訓練場へ向かった。
一行が到着すると、そこには既に二つの後ろ姿があった。一つは焦茶色のうねった長い髪を女物の簪で止め、編笠を被り派手な女物の着物を肩にかけている。隊長とは思えないほど自由な格好である。
もう一つは長い白髪を首の後ろで結んだだけで、隣の者とは違って隊長らしい格好だった。
「あ。お〜い。こっちこっち〜。」
京楽が振り返り、緩く四人を呼んだ。
「いらっしゃい。よくきたね」
京楽に続き、浮竹も振り返り優しい顔で迎える。
美桜は数ヶ月ぶりに会う二人に駆け寄って勢いよく抱きついた。普段の落ち着いた彼女はどこにもおらず、子どものように再会を喜んでいた。
「春兄! 四郎兄!! 元気にしてた??」
美桜のキラキラとした薄紫色の目で見つめられ、二人は目尻を下げた。大きくなっても弟子というものは可愛いのだ。なお、それが山本にも当てはまるかはわからない。
「美桜ちゃんは見ない間にまた随分と別嬪さんになったねぇ。院の子達が放っておかないんじゃないのぉ?」
「それに顔が凛々しくなったな。」
「そんなことないよ! 二人とも変わってなくてよかった。」
久々に会った愛弟子と他愛のない話をしていると、京楽はこちらを見つめる三対の目に気付いた。その中でも黒髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた少女が特に熱い視線をおくってくる。
「お。あっちにも可愛い子がいるじゃないのぉ。」
京楽は「よっこいしょ」と声を出して立ち上がると、死覇装についた汚れを払うように手で叩いた。
「どうも。ぼくは京楽春水。八番隊隊長をやらせてもらってるよ。」
「こんにちは。十三番隊隊長の浮竹十四郎だ。三人の名前を教えてもらってもいいかな?」
眉を下げて優しく問いかける浮竹。相手は子どもではないのだから、そんな風にしなくても良いが、それが彼の良いところなのだ。
「矢胴丸リサや。」
「平子真子でぇす。」
「六車拳西だ。」
三者三様の挨拶に、美桜は苦笑した。名前だけしか言っていないのに個性が溢れ出ている。
「執務があるからずっとというのは難しいが、可能な限り面倒を見させてもらうよ。」
こうして、初めての夏季休暇が始まった。