過去篇
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美桜は先程から見かける人々に首を傾げた。
子連れの父親、友人と話す女性、屋台で焼きそばを焼いている職人。性別も年齢もバラバラだが、彼らの腕や腹がぼんやりと赤く光っているのだ。
それは人混みの中にいてもひどく目立つため他の人々も気付くはずだ。にも関わらず誰も彼もが目を向けることなく通り過ぎて行く。
「ねぇ真子君。さっきから身体の一部が赤く光ってる人を見かけるんだけど、何かあるの?」
真子は辺りを見回すが、その目には赤く光っている人など見当たらない。
「赤く光ってるひとぉ? 俺には誰もそんなやつおらんけどなぁ。」
辺りを見回した美桜がある男性を指差しながら言う。
「ほら、あの人とか腕が光ってるじゃない」
真子も男性を見るが、特に変わった様子もない普通の人だった。美桜の様子に真子は目を細める。
( なんや能力が発現しかけてるんやろか。 )
先日京楽と浮竹に呼び出された真子は、美桜の力の発現の兆候があった場合、すぐに報告するように言われていた。
美桜の目は時を司る斬魄刀である芙蓉の右目と同じで、何らかの形で未来をみるのではないか、ということだった。
真子には見えず、美桜には見えているという光。それが何を示しているのかはまだわからないが、真子は美桜が指差した者たちの様子を注意深く観察した。
河川敷で花火を見上げ、次の祭りも一緒に来ようと約束したとき、それは起こった。
「ーーーっ?!」
無理やり空間を引き裂かれるのを感じた美桜はハッとして辺りを見回した。そのただならぬ様子に真子たちの顔が変わる。
「どうしたんや。」
「多分虚! それも一体じゃない!」
「虚?!」
「なんでこないなときに来るんや!!!」
「美桜、あたしらの浅打あるか?」
美桜は預かっていた皆の浅打を異空間から取り出して渡すと、三人は迷いなくそれを抜いた。
花火が終わって帰ろうとする見物客の間で動揺が走る。なぜ彼らは浅打を抜いて戦闘態勢をとっているのだろうか、と。その原因はすぐにわかった。
会場中心部の星が広がる空に亀裂が走った。異形の手がその亀裂をこじ開けるように、左右へ引っ張る。広くなった入り口からその醜悪な顔を覗かせたとき、周りの人々はようやく事態に気付いた。
誰かが叫ぶ。
「虚だっ!! 虚が出たぞっ!!!!」
その声を皮切りに、辺りは逃げ惑う人でごった返した。流魂街の人々は戦う力を持たないため、逃げることしか出来ないのだ。
美桜たちはその波に逆らうように虚へと向かう。
現れた虚は三体。
美桜は逃げ遅れた人に襲い掛かろうとしている虚に迷いなく鬼道を放った。
「破道の六十三 雷吼砲!」
詠唱破棄でも十分過ぎる威力の雷吼砲が虚にぶつかり弾ける。仮面を破壊された虚は空を揺らすような悲鳴をあげながら塵となり消えていった。
真子たちは六十番代の詠唱破棄を難なくやってみせた美桜に掻き立てられるように浅打を握りしめた。
言葉がなくても三人で一斉に動き出し、腕と両足を切り落とす。大きな音を立てて崩れ落ちた虚に真子がトドメを刺した。
四人が目の前の虚を倒しているうちに、残ったもう一体の虚が逃げ惑う人々へ向かい、襲い出す。
四人が「しまった」と思ったその時、どこからとなくやってきた死覇装を纏った二人組が難なく虚を倒した。
ウェーブがかった金髪の男と髪がくるくるで眼鏡をかけた男。二人は虚が完全に消滅したことを確認した後、四人の方へと歩いてきた。
「君たちは真央霊術院の院生かい?」
真子のそれよりも濃い金色を靡かせながら、髪の長い男が聞いた。
「そうや。あんたらは死神か?」
リサがいつも通りの口調で答えた。さすが護廷十三隊の隊長である京楽にタメ口で話すだけある。全くぶれない。
「俺は愛川羅武。こっちは鳳橋楼十郎。偶然近くを通りかかったもんでねぇ。」
「にしても君たち、まだ院生なのに虚を倒すことが出来るとは。アートだね。」
「は、はぁ…」
鳳橋がよくわからない表現で四人を褒める。いつも通り微妙な空気が流れたことを察した愛川は鳳橋の頭を殴ると、気を取り直して拳西に状況を確認し始めた。
手持ち無沙汰だった美桜は負傷者の元に足を向けた。が、すぐにその足は止まることとなる。
「真子君……」
「どないした?」
指差された方向を見た真子は息を呑んだ。負傷者は見覚えのある者ばかりだったのだ。腕を押さえて呻いている者、腹から出血し意識のない者など、美桜が赤く光っていると言っていた者たちだった。
美桜の見た赤い光。それは近い未来にその部分を負傷することを示していたのだ。それを一瞬で理解した真子は手で髪をぐしゃりと握った。
「ナンギな能力やなぁ……」
近い未来で負傷することがわかれば、きっと優しい彼女はそれを阻止しようとするだろう。願わくば彼女には明るい未来だけを見据えて生きていて欲しかった真子としては、やるせない気持ちでいっぱいだった。
「ほら、治療するんやろ?」
「……うん。隣にいてくれるの?」
「あたりまえや。」
「ふふ、ありがと。」
美桜は真子とともに負傷者の元に向かい、回道で治療を始めた。
「あの子回道も出来るなんて、鬼道が得意なんだね。」
「虚も倒しちまうし、後輩が優秀で嬉しいなぁ、ローズ。」
愛川と鳳橋は報告書を作成するために拳西とリサから聴いた調書を持って、瀞霊廷に帰っていった。
「俺らも帰るぞー」
それぞれの想いを胸に、美桜たちも帰路についた。