千年血戦篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
離れた場所で真子の戦いを見守っていた美桜は、すっきりしない顔で戻ってきた真子に声をかけた。
「あら、おかえりなさい。……どうだった? 久々の卍解は。」
「相変わらず使いにくいったらあらへんわ!」
真子の斬魄刀である逆撫は、魂の形によって作られた斬魄刀とは思えないほど捻くれている。それは持ち主である真子の性格がそうだからなのか、それとも真子の捻くれた部分を全て凝縮した結果こうなったのか。またはその両方なのか、誰にもわからない。
「始解が強者用、卍解が雑魚用。普通逆やろ。ほんま捻くれとるわこいつ。」
そう言って真子は逆撫の柄に手を入れて振り回した。いくら文句を言ったところで逆撫が真子の斬魄刀であることに変わりはないが、文句を言わずにはいられないのだ。
「……!?」
そんな時、何かに気がついた美桜は咄嗟に真子の口を左手で塞いだ。
驚いて目を丸くする真子に美桜は唇の前で人差し指を立てると、その指である方向を指し示した。二人は自身の霊力を消すと、息を潜めて瓦礫の影に隠れた。
視線の先には歩いてくる五つの白。滅却師に乗っ取られたため青暗くなった尸魂界で白い装束は非常に目立っている。彼らは隠れる素振りも見せない。
「別に卍解が戻ったからってなんだっつーの! あたしが戦った女なんてどこにいるか全然わかんないんだからねー!? この前と同じ場所に出たのに誰もいやしないっ!!」
バンビエッタ率いる
バンビエッタは感情のまま近くの瓦礫を蹴り上げた。
バンビエッタは先程から後ろにいるはずのチームメイトの賛同が聞こえず、眉間に皺を寄せながら振り返った。
「ねぇ聞いてんのあんたたち!!」
ずっと後ろを着いてきていると思っていた仲間は誰もいない。荒れた街とそこに吹き抜ける冷たい風だけが彼女を冷ややかに見ていた。
「なんで誰もいないのよ!!! あたしすっごいでっかい独り言言ってたみたいじゃんか!! リル! ジジ! ミニー! キャンディ! 出てきなさいよ!!」
バンビエッタが感情のままに叫ぶも、返答はない。ついにキレた彼女は、膨大な霊子を身体から溢れさせて叫んだ。
「出てこーーーい!!! リーダーに恥かかせたらどうなるか思い出させてやるわ! この辺一体更地にしてあぶり出してやるんだからねー!!!」
なおも一人で叫び続ける女、バンビエッタ。彼女の沸点は、信じられないほど低い。
そんなバンビエッタを隠れて見ていた真子と美桜。
「沸点ひっくっっ。俺キレ散らかす女好きやないわ。どっかの誰かさんに似とるからなぁ。」
美桜の脳裏にジャージを着た金髪ツインテールの女が思い浮かんだ。
「ふふっ、そんなこと言って、ひよ里ちゃんとは楽しんでるじゃない。」
「………俺一言もひよ里って言っとらんで?」
「……あ、」
「ひよ里にチクったろ!! 美桜がひよ里のこと沸点低い女言うとったでってチクったろー!!!」
「わーー!! やめてやめて!! 私ひよ里ちゃんに怒鳴られるの怖い!!」
嬉々として先生にあの子が悪いことをしたと報告しようとする小学校低学年のような真子に、美桜はその口を塞ぐために背伸びをしながら手を伸ばした。
真子もその手から逃げるように顔を逸らして抵抗する。
そんな風にギャーギャーやっている真子と美桜に、バンビエッタが気付かないわけもなく。突然霊子爆弾が撃ち込まれた。
「そこでなにコソコソやってんのよ!!!」
「「!!!」」
真子と美桜は咄嗟に瞬歩で爆弾を避けてそれぞれ瓦礫の上に着地した。その顔に先程までのふざけた雰囲気は一切ない。
真子は既に始解した逆撫の輪に指を引っ掛けて回しながら美桜に話しかけた。
「あの玉が爆弾やなくて、当たったもんが爆弾になるんやっけ?」
「そうよ。気をつけてね。」
バンビエッタはようやく会敵した美桜に目を細めた。
「やっと出てきたじゃない、女。この前も今日もあそこだーれもいないんだもん。退屈してたの。」
「そう? 大きな声で独り言を言って随分楽しそうだなと思ったけど。」
「……あ"ぁ?」
「どないしたん美桜、めっちゃ煽るやん。」
「別に。ちょっとイラッとしてるだけ。」
( こーわっ!! )
真子の額から冷や汗が垂れた。それはバンビエッタへの恐怖ではなく、虫の居所が悪い美桜への恐怖だ。
美桜は怒っていた。
百余年をかけて藍染を倒し、真子が五番隊隊長として返り咲き、夫婦そろって護廷十三隊隊長になった。隊首会でも家でも隣にいる最愛の存在。こんな日々が少なくても百年は続いて欲しいと願っていた。だが、穏やかな日々は二年で終わりを告げた。
山本が戦死し、瀞霊廷が破壊尽くされた今、あの日々に戻るのに一体どれだけの時間がかかるだろうか。
喉から手が出るほど欲していた平穏な日々をようやく手に入れた彼女から、それを奪った罪は重い。
美桜が怒っていることなど全く気付いていないバンビエッタは二人の登場の仕方がなっていないと文句を言い始めた。彼女は目立つことが大好きなのだ。
「普通に戦うにしては出てくるの遅いし、ヒーローにしては早すぎるんじゃない? もっと瀞霊廷がボロボロになってから出てきた方が盛り上がるよ。」
「そうかぁ。ほんなら俺ら、ヒーローにはなれへんなぁ。瀞霊廷がボロボロになるまで眺めてられるほど気ィ長ないねん。ごめんなぁ。」
「まぁでも、貴女の気の短さには負けるけどね。」
「あ"ぁ??」
再び煽られて美桜を睨みつけたバンビエッタだったが、すぐに何かがおかしいことに気付く。
視界が揺れる。二人の姿も回り、混ざり合って境界線がわからない。言葉すらも逆に聞こえる。自分が回っているのか、それとも世界が回っているのか。平衡感覚をつかめずよろける。
「なによ、これ……」
「逆撫。俺の斬魄刀や。見えとる物の上下左右前後を逆様にする。十年くらい経たんと慣れて戦うんは無理や。」
ちなみに十年という具体的な数字が出てきたのは、他でもない美桜が逆撫に慣れるのにそれくらいの年月がかかったからだ。
「そうや、最近練習して言葉も逆再生で聞かせ
言葉を逆再生で言えるようになって何になるのか美桜にもわからない。だが、混乱しているところに聞こえてくる言葉まで意味がわからなくなれば、さらにパニックに陥るのは想像に容易い。
ほら、いい例がここに。
「〜〜ッ!!! こんなもの!!」
バンビエッタは声の聞こえる方に一歩踏み出したが、自分が前を向いているのか、どこに行きたいのか、相手がどこにいるのか、何もわからない。
「無理や言うとるやろ。女の子斬るんは性に合わへんけどな。勘弁してや。」
実際真子がいたのはバンビエッタの上下左右前後逆の場所だ。それを瞬時に計算して戦うのはたった一人を除いて不可能だろう。
バンビエッタは項垂れるように力を抜いた。しかし、その口角は微かに上がっている。
真子がどこか様子のおかしいバンビエッタを訝しげに見たとき、彼女の胸の中心から光が飛び出した。
その光はみるみる大きくなり、天高く伸びる。頂上には滅却師の弓のようなマーク。二回目の侵攻で瀞霊廷に立ち上った霊子の火柱によく似た何かがバンビエッタの身体を包み込み、その力を解放させた。
「なんや…これは、」
「
頭上に浮かぶ星。背中から生える天使と呼ぶにはトゲトゲした羽根。天使というよりも、小悪魔といった方が合っているだろう。
バンビエッタは羽を揺らすように羽ばたかせると、そこから大量の弾を飛ばして辺り一面を爆発させた。その中の一つが真子に直撃する。
「……っ真子!!!!」
「上下左右がわからなくなるから何だって? 何その小細工。ダッサ!! 上下左右わからなくなるなら、上下も左右も前後も全部まとめてぶっ飛ばしてやるっての!! あたしの
バンビエッタは羽を広げてはばたくと、空からさらに爆弾の雨を降らせた。
「ふん! これで粉々……ッ!?」
確実に仕留めたと思ったバンビエッタが腰に両手をあてて頷いていると、土埃の中から突如放たれた青白い閃光がバンビエッタの頬を掠めた。
「ふーん。やるじゃない。」
倒れる真子を護るように爆撃を受け止めた美桜は真子の横に膝をつくと、その傷に手を翳して一瞬で元通りにした。
みるみるうちに傷が塞がり、死覇装まで元通りになっていく様子に、バンビエッタが目を丸くする。
「なにそれー!! 死神ってそんな回復方法だっけ??」
バンビエッタが一人で騒いでいるが、美桜は無視して真子に言った。説明するのが面倒だとその顔に書いてある。
「真子の始解はね、藍染みたいにカンストした頭おかしいやつと、あの子みたいに敵味方関係なくぶっ飛ばすバカには向いてないのよ! 相性悪いの!! ほんっとにどこまで捻くれてるのよ、その斬魄刀!!」
「そんなん俺が聞きたいわっ!!!」
「……、誰がバカだって?」
「「……」」
真子と美桜は顔を見合わせてから無言でバンビエッタを指差した。
バンビエッタの顔が怒りに歪む。
「もういい!!! 怒ったんだからね!!!」
「さっきからずっと怒ってるじゃない。」
「おーおー、煽るなぁ」
「私こそ怒ったんだから。」
言葉こそ可愛いものの、口調には感情が一切のっていない。ゾッとするほど無表情で立ち上がった美桜に、真子は背筋が凍った。
「……おん、ほどほどにな。」
真子はそれだけしか言えなかった。
8/8ページ