千年血戦篇
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分厚い雲の隙間から朝日が差し込む。それは何も見えず真っ暗な未来に一筋の希望が差し込むような、そんな予感がする天気だった。
零番隊がやってくるという噂を聞きつけた一護はマユリに連れられて瀞霊廷の一角にやってきた。穿界門のような装置もない、ただの空き地のような場所だ。
一護は集まった隊長の中に真子を見つけて声をかけた。その背はいつも通り猫背で丸まっている。
「平子!」
「…なんや一護、来たんか。あんまりおすすめせぇへんで。」
おすすめしない。そう言われた一護は一瞬突っかかりを感じて首を傾げるも、それを飲み込んで口を開いた。
「零番隊ってのは、どっから来るんだよ。瀞霊廷がこんなになるまで出て来ないなんて、普段はどこにいるんだよ。」
一護は皆が思うであろう至極当然な疑問を真子にぶつけた。その疑問に答えたのは真子ではなく、京楽だ。
「霊王宮だよ。」
「それって瀞霊廷の中にはないのかよ。」
「最初に君たちがここに来た時、この壁が降ってきたのを覚えているかい?」
一護の脳裏に、瀞霊廷に入ろうとした自分の目の前に壁が落ちてきた記憶が浮かんだ。あの時は瀞霊廷が見えたことが嬉しく、子どものように真っ直ぐ走って侵入しようとした。今となっては恥ずかしくも懐かしい思い出だ。
「この瀞霊壁はここ最近尸魂界が騒がしいから常にここを囲んでいるが、本来は緊急時に瀞霊廷を取り囲んで護るものだ。緊急時に瀞霊廷を護るものなら、普段はどこを護ってる? ……ほら、来たよ。」
京楽につられて一護も上を見上げれば、細長い筒のようなものが黒い雲を割いて、ものすごい速さで地面に刺さった。着地の衝撃で土埃が舞う。
「零番隊の構成員は五人。隊士はいない。全員が隊長。……そしてその総力は、護廷十三隊全軍以上だ。」
扉がゆっくりと開く。そこから出てきたのは、隊長羽織を羽織った五人。
首に大きな数珠をつけた貫禄のある男。毛量の多い髭と違って、頭には一本も毛が生えていない。
楊枝を咥えたリーゼントの男。その眼は護廷十三隊を睨みつけており、随分と柄が悪そうだ。
和風な化粧をした女。その背には何本もの金色の手が見える。一目見て男だと気づく者は同類くらいであろう。
褐色肌のモヒカンの男。サングラスをかけているため目元は見えないが、隊長羽織が袖なしダウンジャケットの時点で色々察する。
そして、給食のおばちゃん。彼女にとっては"しゃもじ"もただの髪留めになるのだろう。口癖は「たんとお食べ」と「それっぽちじゃ大きくなれないだろう?」だ。きっとそうに違いない。
なぜか楽器を手に降りてきた五人は、合わせようとする努力もなく各自好き勝手に楽器を鳴らす。
ドンドンパフパフ〜
「おぅおぅおぅ! 零番隊様の御成だぜぇ〜? 元気に飯食って歯ァ磨いて寝てるかぁ、ひよっこども!」
真子は想像していた零番隊とかけ離れた現実に半目になった。もっと厳かな、その眼差しを向けられれば背筋が伸びるような、それこそ山本のような者たちが出てくると思ったのだ。
「なんやえらいイメージと違うもんが出てきよったなぁ」
そう独りごちた真子の頭が吹っ飛ぶのではと思うほど、力強い平手打ちがクリーンヒットした。あまりの衝撃に頭があることを両手で確認したほどだ。
「あいたぁぁ!! 何すんねんコラァ!!」
「久しぶりだねぇ、真子! ひよ里ちゃんは一緒じゃないのかい? 珍しいねぇ」
そう声をかけてきたのは、ピンク色の髪をしゃもじで束ねた、恰幅の良い女。見るからに肝っ玉母ちゃん感がすごい。
「久しぶりって誰やねんお前!! ……って、"ひよ里ちゃん"?」
「いやだねぇ、真子。忘れちまったのかい! アタシだよ、桐生。」
真子にとって聞き覚えのありすぎるその名。百十年程前まで十二番隊隊長を務め、その後零番隊に昇格した、かつての同僚。
美人な見た目に反してサバサバとした性格が人気で、隊士からの信頼も厚かった。……はずだが、あの時の美貌も今は肉に埋もれて見る影もない。
「あ、あんた桐生さんかぁ!? 変わったどころの騒ぎやないで! 誰やねん!」
「いやだねぇ、そんな変わっていないだろ〜。あー! 腹減ったー!!」
「……なんや調子狂うわぁ」
真子は心底疲れたと言わんばかりに肩を窄めてため息を吐いた。
曳舟は激しく主張する腹を両手で押さえながら、辺りを見渡した。
「そういえばあの子はどうしたんだい?」
「美桜か?」
「そうそう! その子だよ!」
曳舟は元十二番隊隊長。喜助が就任する前、つまりひよ里が母のように慕っていた隊長だ。
当然隊長仲間である真子のことは知っているし、その妻である美桜のこともなんとなく知っていた。
「美桜なら休んどる。力使い過ぎてぶっ倒れたんや。」
「おや、まだ一緒にいるのかい? 長いねぇ。元気してるかい?」
「まだもなにもずっと一緒におるわ。今は休んどるけど、まぁ元気やで。」
真子は曳舟が"まだ"と言ったことに対してムッときたのか、食い気味で言い返した。まだも何もない。美桜とはこの先ずっと、何十年何百年、何千年と、死が二人をわかつまで一緒にいる。その硬い意志が感じられた。
零番隊の面々が各自己の知古と再会を果たすなか、京楽は鋭い眼つきで和尚を見据えた。
「零番隊の皆さんは相変わらずだねぇ和尚! ……で、今回はどのようなご用件で?」
京楽に問いかけられた和尚は自慢の髭を撫で付けながら、京楽の後ろにいる目立つオレンジ色の髪の青年を見た。
「ふーむ…お主が黒崎一護か。今回は霊王のご意志で護廷十三隊を立て直しにきた。……まずは黒崎一護。お主を上へ連れて行く。」
「「「……!!」」」
「ふざけるな!! 零番隊がどれだけ偉いか知らないが、瀞霊廷がこんなになるまで何もせずに上で呆けていた連中が今更何の用だ!! ……ッ!!」
叫んでいた砕蜂の背後に瞬歩した麒麟寺が、砕蜂の腕を捻りあげる。その瞬歩の速度は、隠密機動の砕蜂ですら追い付けないものだった。
「俺たちは王宮の守護。お前たちは瀞霊廷の守護。それが出来ねぇからって泣きついてくるたぁ、護廷の名が泣くよぉ。」
そう凄む麒麟寺の頭に、和尚の拳骨が落ちる。
「……イッテェなこんちくしょう!!!」
「あとにせぇ言うたじゃろ。……おんし以外にも上に連れていく者がおる。其奴らの元へ…」
「必要ない。連行名簿にあったものは全てここにおる。」
艶やかな声で和尚の話を遮った千手丸の手には、包帯に包まれた白哉、恋次、ルキアの姿。そしてユーハバッハによって折られた斬月があった。
「ダメですよ。その三名はいずれも瀞霊廷を出ては危険な状態です。行かせるわけにはいきません。」
「おめぇの力じゃどうしようも出来ねぇ。だから連れてくんだ。まぁ、ここにはいねぇようだが、時間戻す奴なら出来るかもなぁ。だが、上に連れて行けばこいつらを強く出来る。それはそいつも出来ねぇだろぅ?」
美桜の時間回帰はあくまでも時間を戻すだけ。麒麟寺のように、治療だけでなくさらに力を増幅させることは出来ない。
「……わかってんだろ、烈。お前がやるべきことは、治療なんかじゃねぇってことがよ。」
「……」
卯ノ花はわかっているとでも言うように、眉間に少し皺を寄せて下を向く。本当は卯ノ花も山本とともに戦いたかったのだろう。しかし、初代護廷十三隊の時から総隊長である山本の命には背くことができず、今こうして生きている。
護廷十三隊が結成されてから千年以上。幾度と代替わりする隊長格の中で、たった二人だけ隊長であり続けた。卯ノ花は十一番隊から四番隊隊長に変わったものの、その肩に乗る重圧は変わらない。
( ……そろそろ世代交代の時なのかもしれません )
卯ノ花はぼんやりとそう思った。