満月は沈まない/和倉七緒
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正直な話をすると巻き込まれ事故、みたいなものだった。
「学校交流会?」
「そう。ほら、隣の眉丈高校との男子校女子校間文化交流会って名目の」
「そういえばありましたねぇ、そんなイベント」
いつものように放課後部室に向かっている途中、大樹に呼び止められて一枚のプリントを渡された。確か各学校から代表者を出して二週間に一度程の頻度で学生としての近況報告みたいなことをするイベントだったと記憶している。
自分はあまり気にしたことはなかったけれど、むさくるしい男子校にとっては数少ない女性との接点があるイベントということもあって中々に参加倍率の高いイベントだった。
「なるべく色んな経験、色んな部活の人がいた方がいいだろうっていうのが俵山校長の意見でね」
「つまり?」
「単刀直入にいうと、七緒に参加してほしいんだよね」
なるほど体よく雑務を押し付けたいということらしい。
「僕もそこまで暇なわけじゃないんだけどね」
「毎日お茶をすすってお菓子を食べているだけの部活なのに?」
にこにこと、でも口調を和らげることなく大樹は言い放つ。勿論僕にそんな態度を取れるのもこの怖いもの知らずの副会長様くらいなわけだが。
「聞いておくけど、拒否権は?」
「ないね。もう書類出しちゃったし」
この男の事だからそんなことじゃないかと薄々感じ取ってはいたが、なるほど最初から勝手に名簿に入れられ勝手に参加扱いにされていたらしい。
「ちょっと非人道的なんじゃない、副会長様」
「ほら、体育系ばかりだと交代参加とはいえ俺達も退屈なんだよね」
生徒会は出席義務はない、が、それは体裁の話であって。実際の所都合がつくときにはそれなりに顔を出さなければいけないことになっている筈だ。つまるところ、自分はこの男の暇つぶしに呼ばれた、と。
「君も大概身勝手な男だよね、大樹」
「お褒めに預かり光栄だよ、七緒」
仕方なく手元のプリントを鞄にしまいながら部室に向かう。不定期に部を空ける事になることは彼らにも伝えねばならない。せめてこの会の間に怪人のような厄介事が湧かなければいいが…と考えている自分に、随分絆されたものだとこっそり苦笑した。
***
「えーーっ!?七緒先輩、交流会行くんすか!?!?」
「あれって三年生同士のイベントでしたっけ?」
いつものようにお茶をすすりながら事情を説明するとまぁ、それなりに予想の範疇なリアクションが返ってくる。
「それって確か…隣の女子校との交流会でしたよね、七緒さん」
珍しく起きていた鏡太郎君はおやつのどら焼きをもそもそ食べながら相槌を打っていた。事情を知らなかったらしい一六君は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「じょ…女子校!?!?!?!?」
「むさ苦しい男子校としては一大イベントで夢の合コン、等と噂されているのは知っていましたが…まさか和倉先輩が…」
分かってなかったなら最初のリアクションはなんだったのかとまぁ、一六君のことなのでそこらへんは深く考えていないのでしょうけど。
「大樹に丸め込まれてしまっただけですよ。そういう訳で不定期に部活に来ない事もありますが、気にしないでください」
「ななななな七緒先輩に変な虫が付いたらどうするんですかああああああ!!!!」
涙目で蹲る後輩を横目に見つつそれはどちらかというと女子校側のセリフなのではないかと、説明してやるのも面倒なので思った事は菓子と共に飲みこんだ。うん、美味しい。
「何もありませんよ、きっとね」
***
自分の周りの参加メンバーはそわそわと落ち着きなく、いつも以上に身だしなみに気を使いその時を待っているのが分かった。そんなことをしたところで概ね同席している大樹にもっていかれるだけなんですけどね、と後の彼らの落胆っぷりを少しだけ楽しみにしつつ退屈な待ち時間を潰していた。
部屋への案内が来て、教室に入る。この場所に女子がいるというのはなかなかに不思議な感じがした。
「すみません遅くなりました」
ひとまずはマナー、と口に出した途端空気が色めき立つのが分かった。自分たちの逆の立場と考えれば想像がつかない訳ではないが、彼女たちもまた異性との接点に飢えていたのだろう。高揚する空気に悪い気はしない。興味はないが。
「皆さん初めまして。眉難高校3年、和倉七緒といいます」
愛想笑いで自己紹介をしただけで見事な黄色い歓声が上がる。なるほど、夢の合コンとはよく言ったものである。
「わ…和倉さんですね!初めまして!」
「お名前なんとお呼びしたらよろしいでしょうか…!」
「皆様自己紹介は順番に!!」
向こうの校長が止めに入ってくれたお陰でその場は収まった。まぁ、好意的に思われるのはいいが後々面倒な事にならない事を願うばかりだ。ふと対岸を見渡すと一人先の空気に乗り切れないような苦い顔をしている子がいたことに気付く。
おや、と思っていると端に座っていた彼女から自己紹介が始まった。
「眉丈高校3年、水野あいです」
自分と同じく乗り気でないのにこの場に来てしまったタイプなのだということはすぐに分かった。決して愛想がいいとは言えない顔、不細工という訳では無かったが、そんな表情をしていては寄るものもよってこないだろう等と邪推してしまう。
少しだけ、面白くなりそうな気配を感じ口元が緩むのが分かった。
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