満月は沈まない/和倉七緒
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正直な話をすると、既に帰りたくて仕方がない。
周りの浮き立つ女子のテンションと反比例して私のテンションは下がっていく。
「なにが楽しくて学校交流会なんか…」
我らが眉丈高校は由緒正しき…かどうかは微妙なところだがそれなりに歴史ある女子校だ。
そこそこの進学率と綺麗な校舎、設備に憧れ入ったはいいものの女子校、つまり青春のあれやそれとは無縁なのである。
私はさして気にしてもいなかったがまあ、妥協策みたいなものも当然生まれうるわけで、それがこの学校交流会だった。
お相手は近隣の男子校、眉難高校。
相手は男子校、こちらは女子校となれば必然的にそういう話の流れにもなる。過去の先輩の中には実際それで付き合ったカップルもいたとかなんとか。
そうした理由が周りのこの浮かれようであり、一方でうっかりジャンケンに負けて代表に入ってしまった私はそういった目的もないので、正直帰って受験勉強がしたいのが本音である。
とはいえ内申点稼ぎにもなるので投げやりにもできない。
「早く終わらないかなぁ…」
誰に気付かれることも無くボヤくと、先導する先生に連れられて眉難高校の門をくぐった。
****
「俵山校長、お久しぶりですわ」
「これはこれは。本日はよくいらっしゃいましたな、眉丈高校の皆さん」
眉難高校の校長先生は優しそうなおじいちゃん先生、という感じの人だった。きっとこの人うちに来たら人気先生になるんだろうなぁと思っているとガチャっとドアが空いて男の子の声がする。
「すみません遅くなりました」
第一印象は人形みたいな子、だった。
ふわりと跳ねる錦糸のような髪、
栗色の瞳、
少し重ための前髪は独特だがそれを補ってあまりあるほどの顔立ち。
「皆さん初めまして。眉難高校3年、和倉七緒といいます」
私の横からは見事な黄色い歓声が上がった。
「わ…和倉さんですね!初めまして!」
「お名前なんとお呼びしたらよろしいでしょうか…!」
口々に話始める同校の生徒に、呆れて溜息をついた。交流会自体はいいけれどこの浮ついたテンションというかそういうものには馴染める気がしない。1人だけ盛り上がれないまま気まずい顔をしてみんなを眺めているとふいに、和倉七緒と名乗った彼と目が合った。
確かに、顔はいい。
でもそれだけで中身は全く感じられない。
なんというか絶対裏がありそうなタイプだし関わらない方がよさそうだ。
とりあえず会釈だけ返して校長同士の話に耳を方向けに行く。
そんな私が自分を見ている琥珀色の瞳に気付くことはなかった。
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