万座太子短編集
万座「名前を教えてくれないか?」
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「太子の馬鹿!もう知らない!!」
「待っ…、」
伸ばした指先が揺れた袖を掠めて空を切る。
あっという間に人混みの向こうに消えてしまったあいの背中を俺はただ呆然と見つめることしかできなかった。
「くそっ…」
周りを見ればカップル、家族連れ、一人でいるのは俺くらいのもので、握りしめたチケットを見つめてため息をつく。
初めてのデート、初めてのテーマパーク。
こういう場所に来たのはいつぶりかも思い出せないくらい久しぶりだった。あいが楽しめるようにとホームページに始まり攻略法と言われるブログも読み漁り、やっと迎えた今日。だったのに。
握りしめた2人分のジェットコースター優先パス。人気アトラクションだからかなり取るのに時間もかかって待たせてしまったのは確かに悪かった。取りに行って、パレード待ち列の彼女の所に戻ったらこのザマだ。
「あいが乗りたいって言ったからだろ…」
駆け出す直前の彼女の目が潤んでいたのが焼き付いて離れない。あんな顔させるつもりはなかった。ただ喜んで欲しかっただけなのに。
「あい…!」
うだうだと考えていてもきっと答えは見つからない。こういう時は動いたもん勝ちだ。
どこにいるかなんて初めて来たこの場所で分かるはずもない。
それでも俺はチケットを握りしめたまま園内を走り出した。
「はぁ…」
柵にもたれかかってため息を吐く。
周りにいるカップルたちの幸せそうな空気がチクチクささるような気さえしたが、みんなこっちを見てる訳でも無い。こんなところで彼氏と喧嘩して一人でいるような馬鹿を見る余裕なんて彼らにはないのだ。
「太子の馬鹿…」
悪気がなかったのも分かっている。
私が乗りたいって言ったからなのも。
それでも。
「デート中に1人にしないでよバカ太子…」
確かに乗り物も乗りたかった、パレードも見たかった。でもそれは、太子と一緒にしたかった事。太子がいないのに待っていたってそんなの仕方ないじゃないか。なんでそんなことも分かんないの、と悪態を吐きながら、でも頭のどこかでそれをちゃんと言えない自分もまた悪いのだと理解はしていた。
スマホを見ると着信のない画面に映る時計はあれから3時間を経過していて、そうかと見上げれば空はもう暗くなろうというところ。
「帰ろう…」
テーマパークにきて別れるカップルを馬鹿にしてた自分がバカだった。こういうすれ違いから別れ話になるんだろうな、なんて考えてたら視界が滲む。
「見つけた…っ!」
ぐい、と肩を引っ張られ振り向くと
「太子…!」
見えたのは
鮮やかなブルーグリーン
「なんで…」
いつも汗ひとつかかずに涼しそうな顔をしている彼が
今は息を切らせて、汗だくで、呼吸をするのもやっとという風で
初めて見る姿に純粋にびっくりして言葉が出なかった。
「…っごめん!」
バッと頭を下げる彼に益々頭の中にハテナが出てくる。
「こういうことは不慣れで…その…正直あいがそこまで怒ってる理由も俺には分からない…けど…」
肩で息をしながらなんとか言葉を紡ぐ姿に怒っていた事すら忘れかけた。
「あいを怒らせるつもりはなかった…それだけは…本当なんだ…」
「太子…」
1度堪えた筈の涙がぽろぽろと頬を零れ落ちていく。
「なっ…」
「私も…ごめん…」
泣き始めた事に慌てるのを遮り素直な気持ちを吐き出す。1拍おいて、恐る恐る目の前に差し出されたのは彼が一人で取りに行ってたチケットだった。
「あい、乗りたかったんだろ。これ」
知っていた、けど。
本当に悪気も何も無かった、その上で私が怒った理由も分からない彼の不器用さが可愛く見えてしまうあたり大概惚れた方が負けなのだと思い知る。
「…あ」
受け取ったチケットを見て思わず小さく笑ってしまった。
「…まさか、これじゃなかったのか?」
「いや、あってるよ。でもほら、時間過ぎてる」
指を指したのは有効期限の時間欄。
さっき時計を見た私は直ぐに気付いたけれど、指摘された太子はというと慌てて腕時計を確認したくらいだから、きっとあれから時間も見ないで走っていてくれたんだろう。
「そんな…」
「…今度はさ、一緒にパス取りに行こう?」
しょげる太子にそういうと目をぱちくりさせて私の方を見た。
「…約束する。今度は2人で行こう」
「約束よ」
本当に、全く不器用な可愛い人。
「待っ…、」
伸ばした指先が揺れた袖を掠めて空を切る。
あっという間に人混みの向こうに消えてしまったあいの背中を俺はただ呆然と見つめることしかできなかった。
「くそっ…」
周りを見ればカップル、家族連れ、一人でいるのは俺くらいのもので、握りしめたチケットを見つめてため息をつく。
初めてのデート、初めてのテーマパーク。
こういう場所に来たのはいつぶりかも思い出せないくらい久しぶりだった。あいが楽しめるようにとホームページに始まり攻略法と言われるブログも読み漁り、やっと迎えた今日。だったのに。
握りしめた2人分のジェットコースター優先パス。人気アトラクションだからかなり取るのに時間もかかって待たせてしまったのは確かに悪かった。取りに行って、パレード待ち列の彼女の所に戻ったらこのザマだ。
「あいが乗りたいって言ったからだろ…」
駆け出す直前の彼女の目が潤んでいたのが焼き付いて離れない。あんな顔させるつもりはなかった。ただ喜んで欲しかっただけなのに。
「あい…!」
うだうだと考えていてもきっと答えは見つからない。こういう時は動いたもん勝ちだ。
どこにいるかなんて初めて来たこの場所で分かるはずもない。
それでも俺はチケットを握りしめたまま園内を走り出した。
「はぁ…」
柵にもたれかかってため息を吐く。
周りにいるカップルたちの幸せそうな空気がチクチクささるような気さえしたが、みんなこっちを見てる訳でも無い。こんなところで彼氏と喧嘩して一人でいるような馬鹿を見る余裕なんて彼らにはないのだ。
「太子の馬鹿…」
悪気がなかったのも分かっている。
私が乗りたいって言ったからなのも。
それでも。
「デート中に1人にしないでよバカ太子…」
確かに乗り物も乗りたかった、パレードも見たかった。でもそれは、太子と一緒にしたかった事。太子がいないのに待っていたってそんなの仕方ないじゃないか。なんでそんなことも分かんないの、と悪態を吐きながら、でも頭のどこかでそれをちゃんと言えない自分もまた悪いのだと理解はしていた。
スマホを見ると着信のない画面に映る時計はあれから3時間を経過していて、そうかと見上げれば空はもう暗くなろうというところ。
「帰ろう…」
テーマパークにきて別れるカップルを馬鹿にしてた自分がバカだった。こういうすれ違いから別れ話になるんだろうな、なんて考えてたら視界が滲む。
「見つけた…っ!」
ぐい、と肩を引っ張られ振り向くと
「太子…!」
見えたのは
鮮やかなブルーグリーン
「なんで…」
いつも汗ひとつかかずに涼しそうな顔をしている彼が
今は息を切らせて、汗だくで、呼吸をするのもやっとという風で
初めて見る姿に純粋にびっくりして言葉が出なかった。
「…っごめん!」
バッと頭を下げる彼に益々頭の中にハテナが出てくる。
「こういうことは不慣れで…その…正直あいがそこまで怒ってる理由も俺には分からない…けど…」
肩で息をしながらなんとか言葉を紡ぐ姿に怒っていた事すら忘れかけた。
「あいを怒らせるつもりはなかった…それだけは…本当なんだ…」
「太子…」
1度堪えた筈の涙がぽろぽろと頬を零れ落ちていく。
「なっ…」
「私も…ごめん…」
泣き始めた事に慌てるのを遮り素直な気持ちを吐き出す。1拍おいて、恐る恐る目の前に差し出されたのは彼が一人で取りに行ってたチケットだった。
「あい、乗りたかったんだろ。これ」
知っていた、けど。
本当に悪気も何も無かった、その上で私が怒った理由も分からない彼の不器用さが可愛く見えてしまうあたり大概惚れた方が負けなのだと思い知る。
「…あ」
受け取ったチケットを見て思わず小さく笑ってしまった。
「…まさか、これじゃなかったのか?」
「いや、あってるよ。でもほら、時間過ぎてる」
指を指したのは有効期限の時間欄。
さっき時計を見た私は直ぐに気付いたけれど、指摘された太子はというと慌てて腕時計を確認したくらいだから、きっとあれから時間も見ないで走っていてくれたんだろう。
「そんな…」
「…今度はさ、一緒にパス取りに行こう?」
しょげる太子にそういうと目をぱちくりさせて私の方を見た。
「…約束する。今度は2人で行こう」
「約束よ」
本当に、全く不器用な可愛い人。
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