雑記
ミニSS『おてがみ』
2025/12/25 06:42SS
「ロレンツォさま」
「ロレンツォさま」
覚束ない足取りで書斎へ現れたのは、まだ幼い男女2人の子どもだった。
2人の年は同じで、背丈や体格も同じくらいだ。
私はペンを置き、扉の前にぎこちなく立っている2人に指で合図をした。
「お話があります」
「手短にしろ」
2人は顔を見合わせて頷くと、私の近くに移動した。
どこか不安気に口を一文字にして、睨むように私を見つめている。
私は彼らの言葉を待った。
「ロレンツォさま」
「ロレンツォさま」
「……何なんだ」
2人は私の名を呼ぶだけで、何も言わない。
それどころか、2人揃って泣き出しそうな顔に変わる。
また何か悪戯をしたんだろう。 私は 「聞かなかったことにしてやるから、好きに話せ」 と続きの言葉を促した。
しばらく無音が流れたが、ようやく双子は代わる代わるに口を開いた。
「今日は」
「おとうさまって」
「呼んでも」
「いいですか」
***
「2人とも、すやすや寝てるわ。 きっと、明日の朝が待ちきれないのね」
「私の枕元には請求書しか来ない。 もう寝る」
「この日だけは絶対に手渡しじゃなくてお部屋に置いていくのよね。 そうだ! あなたが眠る前に……」
私とアリスに挟まれている2人の子どもは深い眠りに落ちていた。
アリスは2人を起こさないよう、ベッドから慎重に立ち上がった。
アリスを目で追うと、彼女は窓に掛けられている無駄に大きな靴下の中から何かを取り出し、私の側に腰掛けた。
彼女が手にしていたのは1通の封筒だった。
「開けてみてね」
アリスは寝台のライトを点けた。
私は指示のままに封筒を開く。
淡い桃色の便箋に大きさがバラバラの下手な字が書かれている。
便箋の下部には薄く『esprimi un desiderio』と印刷されていた。
「わたしたちと……おとうさまと……おかあさまと……なかよく……くらします……。 空白がなくて読みづらいが、文章を書けるようになったんだな」
「エドの教育のお陰ね。 ── そのお手紙セット、この間地上へ出向いた時にモニカちゃんが2人にくれたの。 1番叶えたい事をクリスマスに書いてねって。 今日、2人はお願い事を書いたけど、勢い余って あなたの事を『おとうさま』ってペンで書いちゃったって……わたしに泣きついてきたの」
「願い事……か」
「あなたは自分の見た目が老いない事を気にして、 “ロレンツォ” って呼ばせているでしょう? お手紙に書いた呼称とズレるから願い事が叶わないって」
「……。 そうか。 ……それで、わざわざ押し掛けてきたのか」
私は視線を手紙から2人の子ども達へ移した。
悪戯好きの彼らにとって、6度目のクリスマスだった。
彼らの成長に伴って自分は老け込んでいくと思い込んでいたが、“歩く死体” である私の見た目は老いない。
「わたしに似て、優しいわ」
「……。 そうか」
アリスは楽しげにクスクスと笑ってから、私の頬に口付けた。
「アリス」
「なあに?」
「この手紙は私が持っていても構わないか」
「いいわよ。 すてきな贈り物ね」
「ありがとう」
「おとうさまって呼ばれていた あなたの嬉しそうな表情が今日のハイライトだったわ。 激カワよね」
アリスは寝台のライトを消して、彼女の定位置へとそっと戻った。
私は眠れず、眠る子ども達とアリスを常夜灯を頼りに眺めていた。 好きな時間だった。
私は子ども達の “願い事” を寝台の引き出しになおした。
明日には書斎に持ち出し、受理の判でも押しておこうと、誰にも知られたくない子どものような遊びを考えていた。
しばらくして、部屋に細く光が差した。
荷物を持っているらしい何者かは足音を立てないように窓の方へと向かう。
それから、私の近くのライトの側に何かを置いて、身軽にそそくさと部屋から出ていった。
── 彼がしている役目は私にでも出来るし、むしろ私が行った方が無難ではあるが、この6回、本人に何度進言しても役目を譲られた試しはなかった。
意外にも子ども好きだった部下を思い、私は内心で苦笑しながら、ライトの側に置いてあった “本来の意味での” 受理の判を待つ、数字の書かれた紙切れを受け取った。
(『ミニSS おてがみ』おわり)
「ロレンツォさま」
覚束ない足取りで書斎へ現れたのは、まだ幼い男女2人の子どもだった。
2人の年は同じで、背丈や体格も同じくらいだ。
私はペンを置き、扉の前にぎこちなく立っている2人に指で合図をした。
「お話があります」
「手短にしろ」
2人は顔を見合わせて頷くと、私の近くに移動した。
どこか不安気に口を一文字にして、睨むように私を見つめている。
私は彼らの言葉を待った。
「ロレンツォさま」
「ロレンツォさま」
「……何なんだ」
2人は私の名を呼ぶだけで、何も言わない。
それどころか、2人揃って泣き出しそうな顔に変わる。
また何か悪戯をしたんだろう。 私は 「聞かなかったことにしてやるから、好きに話せ」 と続きの言葉を促した。
しばらく無音が流れたが、ようやく双子は代わる代わるに口を開いた。
「今日は」
「おとうさまって」
「呼んでも」
「いいですか」
***
「2人とも、すやすや寝てるわ。 きっと、明日の朝が待ちきれないのね」
「私の枕元には請求書しか来ない。 もう寝る」
「この日だけは絶対に手渡しじゃなくてお部屋に置いていくのよね。 そうだ! あなたが眠る前に……」
私とアリスに挟まれている2人の子どもは深い眠りに落ちていた。
アリスは2人を起こさないよう、ベッドから慎重に立ち上がった。
アリスを目で追うと、彼女は窓に掛けられている無駄に大きな靴下の中から何かを取り出し、私の側に腰掛けた。
彼女が手にしていたのは1通の封筒だった。
「開けてみてね」
アリスは寝台のライトを点けた。
私は指示のままに封筒を開く。
淡い桃色の便箋に大きさがバラバラの下手な字が書かれている。
便箋の下部には薄く『esprimi un desiderio』と印刷されていた。
「わたしたちと……おとうさまと……おかあさまと……なかよく……くらします……。 空白がなくて読みづらいが、文章を書けるようになったんだな」
「エドの教育のお陰ね。 ── そのお手紙セット、この間地上へ出向いた時にモニカちゃんが2人にくれたの。 1番叶えたい事をクリスマスに書いてねって。 今日、2人はお願い事を書いたけど、勢い余って あなたの事を『おとうさま』ってペンで書いちゃったって……わたしに泣きついてきたの」
「願い事……か」
「あなたは自分の見た目が老いない事を気にして、 “ロレンツォ” って呼ばせているでしょう? お手紙に書いた呼称とズレるから願い事が叶わないって」
「……。 そうか。 ……それで、わざわざ押し掛けてきたのか」
私は視線を手紙から2人の子ども達へ移した。
悪戯好きの彼らにとって、6度目のクリスマスだった。
彼らの成長に伴って自分は老け込んでいくと思い込んでいたが、“歩く死体” である私の見た目は老いない。
「わたしに似て、優しいわ」
「……。 そうか」
アリスは楽しげにクスクスと笑ってから、私の頬に口付けた。
「アリス」
「なあに?」
「この手紙は私が持っていても構わないか」
「いいわよ。 すてきな贈り物ね」
「ありがとう」
「おとうさまって呼ばれていた あなたの嬉しそうな表情が今日のハイライトだったわ。 激カワよね」
アリスは寝台のライトを消して、彼女の定位置へとそっと戻った。
私は眠れず、眠る子ども達とアリスを常夜灯を頼りに眺めていた。 好きな時間だった。
私は子ども達の “願い事” を寝台の引き出しになおした。
明日には書斎に持ち出し、受理の判でも押しておこうと、誰にも知られたくない子どものような遊びを考えていた。
しばらくして、部屋に細く光が差した。
荷物を持っているらしい何者かは足音を立てないように窓の方へと向かう。
それから、私の近くのライトの側に何かを置いて、身軽にそそくさと部屋から出ていった。
── 彼がしている役目は私にでも出来るし、むしろ私が行った方が無難ではあるが、この6回、本人に何度進言しても役目を譲られた試しはなかった。
意外にも子ども好きだった部下を思い、私は内心で苦笑しながら、ライトの側に置いてあった “本来の意味での” 受理の判を待つ、数字の書かれた紙切れを受け取った。
(『ミニSS おてがみ』おわり)