Real time

明日、晴れるといいな(小ネタSS)

2025/10/14 17:13
小ネタ
「何してるんだよ」
「びっくりさせないでよ、エドアルド。 ……明日、晴れるといいなって……祈ってた」

月を眺めていた深い夜、弱々しい明かりに赤髪を煌めかせる男性──エドアルドはいつものように腕を組み、音もなく背後に立っていた。
窓を開けていたが故に彼の影を捕らえるものはなく、気配に気付けなかった私はその声に思わず肩を小さく跳ねさせた。
まだ驚きが落ち着かないままに彼を振り返る私を他所に、彼は 「あっそ」 とだけ返事を寄越す。
その不機嫌の理由に推測はついた。
呼吸を整えながら、私は彼に話しかけた。

「アリスちゃん、派手に違反したから暫くは制裁が厳しくなりそうね」
「……オレ様なんかが止めたって聞かねーよ」
「卑屈。 だいたい、フラれたのはいつだったの?」
「アリス様が目覚めたその日」
「それから10年もの間、アリスちゃんが何を言ったって聞かない貴方にも問題があるわよ」

エドアルドは会話を終わらせるように目線を伏せた。
彼はこの国の盟主であるヘル── アリスを愛している。

*
私は彼の傍に寄った。
先程までは距離があって分からなかったけれど、細くゆらめく光に照らされる彼の目蓋は赤く腫れている。
私は両頬を差し出し、うつむく彼の両頬を出来る限り優しく包んだ。 彼は何も言わなかった。

「アリスちゃんが目覚めた日の事、覚えてる?」
「あの日以上の幸せなんか、今でも感じたことがない」
「私もよ、エドアルド。 ……あの日、貴方に出会えて良かった」

彼は目線を上げた。
月が光を分け与えたような金色の輝きが私の影を捕らえた。

「これから “黄金ノ国” に払う賠償のことなんかすっかり忘れて、国の皆がソワソワしてるわ」
「アリス様が地上へ軍をけしかけた賠償な。 その件ではテュールが仲裁に入ってくれてはいるけど……頭が痛い話だっての」
「ロレンツォ様が息を吹き返した時点でさっさと引き上げちゃって……あの時は本当に振り回されたわよね」
「止めたって聞かねーしな」

エドアルドは小さく笑った。
私は彼の頬からそっと両手を離した。
それから、私は視線を月へ戻した。
少し欠けた円を象る、あの不十分な姿の月が好きだ。
満ちて満ち足りず、満ち足りずに満ちる。
私とエドアルドの関係は、これからもきっとこうなんだろう。

「国の皆への2人のお披露目、私は楽しみよ」
「それだけど……アリス様、まだ起きてて、ロレンツォの服選びしてるんだよ。 あーでもねーこーでもねーってやってる隙にロレンツォが逃げちまったらしくてさ、さっき城外でタバコを吸ってる所を取っ捕まえてアリス様の元に戻したところだ」
「……服、かなり取り寄せてたものね……。 騒々しくなるわね、これから」
「もう既に騒々しいってのに。 ……それと、明日は晴れると思うぜ。 だからオマエも早く寝ろよ、カルメン」
「ありがとう、エドアルド」

エドアルドが彼女に抱える愛情は、私が彼に抱える愛情と同じだ。
私は部屋に向かっただろう彼を振り返らなかったけれど、彼ならもう心配はいらない。
彼も、彼女のとびきりの笑顔を本当は楽しみにしているのだろうから。

“── 明日、晴れるといいな。”

*モチーフはMISIAさんの同曲名から。
(おわり)

コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可