IL BALLO DELLE INCERTEZZE

その日、オレはアリス様と会話を交わした後、屋敷の廊下に飾る花を用意していた。
“死ノ国” に咲く花は少ない。 花を好むアリス様が少しでも喜んでくれたら、と 国の外に出向いた時に、オレとロレンツォ── アリス様がこの国の王として認めた元・人間で死人の男── 達で用意している。
花瓶の埃を払っていると、ふわりと女が姿を見せた。
羽の数が足りない妖精族の女だった。

「エドアルド。 アリスちゃんと何か話していたの?」
「ロレンツォと新婚旅行をするから荷物をまとめろってさ」
「どこに行くの?」
「これからダーツで決めるって」
「気に入らないところが当たったらどうするのかな」
「アリス様なんだから、やり直しに決まってんだろ。 ってかオマエ、暇してるなら手伝えよ」

妖精は花を溢すように楽しげに笑った。
その細い首筋には古い痕が残っている。
オレの視線に気がついた女はそっと首に手を当てて痕を隠し、微笑んだ。

「エド。 いつ私を食べてくれるの?」
「他に頼めっての」
「貴方が言ったんじゃない。 生きる理由は見出だすものだって」
「そんなこと言ったか? だいたい、2秒前に『いつ自分を食うのか』ってオレ様に聞いたのは何だったんだよ。 話が噛み合わねーぞ」

妖精の女は目を伏せて唇を尖らせ何事かを呟いたが、何を言ったかまでは声が小さくて分からなかった。
それから、女はふぅ、と息を吐くと、オレを見て得意気にした。

「アリスちゃんのところへ行ってくる。 ガールズトークも楽しんでくるね。 男子禁制よ」
「どうせロクな話じゃねーだろうし興味ねー」
「そう? 私はアリスちゃんと下着を選び合う仲だけど」
「もう、散れって。 そろそろ話をするのも飽きてきた」
「はーい。 シャーロット、貴女もおいで。 一緒にお手伝いしてくれる? それから、ガールズトークを楽しみましょう」

名前を呼ばれたオレの肩に乗っていた蜘蛛型魔族はぴょんと妖精の女の肩へと跳び移った。
シャーロットは手(脚)を振ってオレに挨拶をした。

「ちょっと待て、カルメン」

オレは花瓶から気に入っていた紺色の薔薇の花を1輪抜き取り、立ち去り間際の妖精の女にそれを投げ寄越した。
彼女は慌てて受け取ると不思議そうにこちらを見た。

「2秒前に『散れ』って言ったのは何だったのよ。 ……お花はアリスちゃんに渡せばいいの?」
「いや、オマエにやる」

女は驚きを隠さずに目を丸くした。
少しの間があった後、女はやはり花を溢すように小さく笑った。
女は何も言わずただ微笑んだまま、シャーロットを連れてオレに背を向けた。
外は良い天気だった。
窓に映り込む自分の表情は見なかった事として、崩れてしまった花束を整え直し、オレも執務に戻った。

(終わり)

*次ページはオマケです。
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