IL BALLO DELLE INCERTEZZE
「私との約束、破らないでね」
女は会話を切り上げた。 それは、女が動いた合図だった。
オレは茂みに隠れて妖精の女を追った。
吸血族を誘き寄せるのに妖精族は覿面だ。
人間達が中心となって語り継いだ “吸血鬼” のイメージの1つは妖精の── というよりは人間の女の首筋にかじりついている絵面だろうか。
人間の創作物でのオレ達は、人間の女が微笑みを浮かべてその首を差し出し、大概は男の吸血鬼が涙を流しながら女を食う。 ふたりは愛し合っているらしい。
人間はこんな話に感涙するようだが、情けなさを極めた同族の描写にはオレでも泣きたくなる。
実際の吸血族は人間の女よりも妖精を好む。 ── もっとも、奴等は里から出ないから、滅多にありつける食事ではないが。
だから、妖精の女と組むのは都合が良かった。
森には様々な種族が棲んでいるが、おそらく真っ先に妖精を狙うのは力のあるなしに構わず吸血族だ。
オレはこの森にそんな同族を懲罰するために来た。
── “死ノ国” は独立しているように見えても “黄金ノ国” によって厳しく管轄されている。
『吸血族』というオレの同族に悪評が立てば、ヴィンチ家が代々に渡って仕えている “死ノ国” の評判も下がる。
“死ノ国” の次期領主となるアリス様がお目覚めになられる時、彼女を自分の種族の事で落胆させたくはない。
それに、あの妖精の女が言うように、オレはアリス様を愛している。
豊かな桃色の髪、艶やかな唇、ほんのりと色づいた白い頬── そんな美しい寝顔に心を奪われた。
理由なんて、ただ、それだけだ。
*
「お嬢さん、こんなところで何をしているのかな?」
噴飯モノの科白を耐えられたのは、我ながらよかったと思う。
影は3つ。 奴等は律儀にも今生ありつけるかどうかも分からないご馳走に話しかけている。
非力とはいえ滑るように飛行する妖精相手には己の姿など見せずに狩る方が効率が良いはずだが、群れて自意識過剰になった連中ほど勿体ぶって獲物を見失う。
しかも、奴等は目の前の獲物に夢中でオレの存在を気にする様子さえなかった。
同族としてここまで馬鹿な連中が相手だとは思っていなかったが、ちょうど良いシチュエーションになっていた。
「花摘を。 家族の弔いに」
「そうなんだねぇ、お花は妖精さんの弔いにはぴったりだ」
「貴方達、偉そうね。 ここでもマトモに食べられるものがないから、人間の里で夜盗をしているんでしょう?」
「なんだコイツ! 泣いて叫んで命乞いをすれば考えてやらなくもないのに……もういい! ディナーの時間だ!」
三方の影が一点に集約されるのを見計らって、オレは収束点となっていた妖精の女を拾い上げた。
連中は見事にそれぞれがぶつかって自滅した。
「ああもう情けねー……。 呆れて言葉もでてこねーっての。 下手すりゃオレ様の助力なしにでも餌に逃げられてるぜ、オマエら」
3体は尻餅をついたまま、上空に留まるオレ様と妖精の女を見上げて、代わる代わるに焦りの言葉を口にする。
「お前……誰だ?」
「その翼、同族だな! 横取りは許さないぞ!」
「それか、一緒に分けて食べようぜ」
「同族だけど横取りじゃねーしオマエらと分配とか気の狂うような食事は御免だね。 ってか、オマエらと一緒にすんなって。 ところでオマエら、人里で餌を狩るにしてもメロンの窃盗はねーだろ? 人間を襲ってくれていた方がまだ良かったのにな」
話を聞いていた妖精がため息をついた。
危機感からではなく、呆れであることは容易に想像がついた。
この光景を見せている妖精に対して妙な申し訳無さが込み上げてくる。
さっさと事を終わらせるため、オレは連中の言葉を許さなかった。
「あー……見上げてばかりじゃなくて、ちゃんと足元も見ておけよ? あとは頼んだぜ、シャーロット」
シャーロット── オレの部下の蜘蛛型魔族── は “収束点” で既に待機していた。
この森には様々な種族が暮らしている。 蜘蛛も例外ではない。
見えづらいが、シャーロットの呼び掛けたに応えたその影は無数。
連中の拘束はシャーロットに任せて、オレは妖精の女を連れて “鉄ノ森” へ向かった。
女は会話を切り上げた。 それは、女が動いた合図だった。
オレは茂みに隠れて妖精の女を追った。
吸血族を誘き寄せるのに妖精族は覿面だ。
人間達が中心となって語り継いだ “吸血鬼” のイメージの1つは妖精の── というよりは人間の女の首筋にかじりついている絵面だろうか。
人間の創作物でのオレ達は、人間の女が微笑みを浮かべてその首を差し出し、大概は男の吸血鬼が涙を流しながら女を食う。 ふたりは愛し合っているらしい。
人間はこんな話に感涙するようだが、情けなさを極めた同族の描写にはオレでも泣きたくなる。
実際の吸血族は人間の女よりも妖精を好む。 ── もっとも、奴等は里から出ないから、滅多にありつける食事ではないが。
だから、妖精の女と組むのは都合が良かった。
森には様々な種族が棲んでいるが、おそらく真っ先に妖精を狙うのは力のあるなしに構わず吸血族だ。
オレはこの森にそんな同族を懲罰するために来た。
── “死ノ国” は独立しているように見えても “黄金ノ国” によって厳しく管轄されている。
『吸血族』というオレの同族に悪評が立てば、ヴィンチ家が代々に渡って仕えている “死ノ国” の評判も下がる。
“死ノ国” の次期領主となるアリス様がお目覚めになられる時、彼女を自分の種族の事で落胆させたくはない。
それに、あの妖精の女が言うように、オレはアリス様を愛している。
豊かな桃色の髪、艶やかな唇、ほんのりと色づいた白い頬── そんな美しい寝顔に心を奪われた。
理由なんて、ただ、それだけだ。
*
「お嬢さん、こんなところで何をしているのかな?」
噴飯モノの科白を耐えられたのは、我ながらよかったと思う。
影は3つ。 奴等は律儀にも今生ありつけるかどうかも分からないご馳走に話しかけている。
非力とはいえ滑るように飛行する妖精相手には己の姿など見せずに狩る方が効率が良いはずだが、群れて自意識過剰になった連中ほど勿体ぶって獲物を見失う。
しかも、奴等は目の前の獲物に夢中でオレの存在を気にする様子さえなかった。
同族としてここまで馬鹿な連中が相手だとは思っていなかったが、ちょうど良いシチュエーションになっていた。
「花摘を。 家族の弔いに」
「そうなんだねぇ、お花は妖精さんの弔いにはぴったりだ」
「貴方達、偉そうね。 ここでもマトモに食べられるものがないから、人間の里で夜盗をしているんでしょう?」
「なんだコイツ! 泣いて叫んで命乞いをすれば考えてやらなくもないのに……もういい! ディナーの時間だ!」
三方の影が一点に集約されるのを見計らって、オレは収束点となっていた妖精の女を拾い上げた。
連中は見事にそれぞれがぶつかって自滅した。
「ああもう情けねー……。 呆れて言葉もでてこねーっての。 下手すりゃオレ様の助力なしにでも餌に逃げられてるぜ、オマエら」
3体は尻餅をついたまま、上空に留まるオレ様と妖精の女を見上げて、代わる代わるに焦りの言葉を口にする。
「お前……誰だ?」
「その翼、同族だな! 横取りは許さないぞ!」
「それか、一緒に分けて食べようぜ」
「同族だけど横取りじゃねーしオマエらと分配とか気の狂うような食事は御免だね。 ってか、オマエらと一緒にすんなって。 ところでオマエら、人里で餌を狩るにしてもメロンの窃盗はねーだろ? 人間を襲ってくれていた方がまだ良かったのにな」
話を聞いていた妖精がため息をついた。
危機感からではなく、呆れであることは容易に想像がついた。
この光景を見せている妖精に対して妙な申し訳無さが込み上げてくる。
さっさと事を終わらせるため、オレは連中の言葉を許さなかった。
「あー……見上げてばかりじゃなくて、ちゃんと足元も見ておけよ? あとは頼んだぜ、シャーロット」
シャーロット── オレの部下の蜘蛛型魔族── は “収束点” で既に待機していた。
この森には様々な種族が暮らしている。 蜘蛛も例外ではない。
見えづらいが、シャーロットの呼び掛けたに応えたその影は無数。
連中の拘束はシャーロットに任せて、オレは妖精の女を連れて “鉄ノ森” へ向かった。