IL BALLO DELLE INCERTEZZE

「吸血族が吸血族を取り締まるなんて」
「結界の薄い地域で “問題を起こしてる” んだってよ。 人間サマから苦情があった……らしい。 まあでも、話を聞く限り帰る家もない、ここら辺で獣の血なんかも食ってる連中だろうな」
「貴方、魔族なのに人間の味方をするの?」
「人間そのものはどうでもいいけど、アイツらの作る文化は嫌いじゃない。 あと、苦情は “黄金ノ国” に届いたんだ。 オレ様の家系はいわゆる上流で色々と繋がりもあるんだよ」
「ふぅん……。 貴方、人間の文化が好きなの。 変な吸血鬼」
「勘違いはするなよ。 オマエの認識はちゃんと餌だぜ」

木を挟んで背中合わせに腰掛け、妖精の女と言葉を交わした。
女は逃げることもせず、オレの話に耳を傾けては返事を寄越していたが、別に逃げ出されても構わなかった。
元々、ひとりでここに来ていたし、日が傾くまでは吸血族は眠っていて姿を見せないのが殆どだ。
妖精の女はこの道を通って森の奥に向かっていたが、この奥は行き場のない様々な種族の巣窟となっていて、そこに件の連中もたむろしている。
オレと出くわさなくとも、あのまま歩いていれば確かに夜には辿り着いて目論み通り吸血族の餌になれていただろう。

「ところで、貴方。 ……ありがとう」
「何がだよ」

日が傾きかけた頃、女の声が少し明るくなった。
無視してもよかったが、突然の礼の言葉に思わず自分から問いかけをしてしまった。
オレの問いに女は答える。

「お花、拾って渡してくれた」

ため息が出た。
散らばり落ちた花を転がった花籠に詰めて渡してはやったが、礼を言われる為ではなく、花には罪がなかったからだ。
勝手に寄せられる前向きな感情が鬱陶しくて、訂正したくなった。

「オマエにじゃない。 アリス様に拾ったんだ。 花が好きだった……らしい」
「アリス様が花を好きだった? 過去形ね。 貴方の大切な存在も亡くなったの?」
「生きてる。 ……長年眠ったままで起きねーし、話したこともねーけど」
「私達妖精は愛ある感情に敏感なの。 貴方の感情は今とっても揺れている……。 でも、話したこともない存在に心を掬われている貴方って、もしかしてだいぶ変わってるかもしれない。 ── よく考えたら、お昼間にフラフラしてるんだもの! 貴方、やっぱり変な吸血鬼ね」
「餌がいちいちオレ様について足りねー語彙力で熱く評価してるんじゃねーよ」
「……あのね、私は “エサ” って名前じゃなくて── いるわ」
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