SHORT YUKI RURIKAWA
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真っ暗な部屋に、微かに光が漏れている。オレは靴を脱ぎながら何度か名前を呼ぶ。返事がない辺り、イヤホンをきつく耳に押し込んでいるんだろう。
そっと扉を開ければ、テーブルの上にラップが掛けられたご飯が一人分鎮座していた。オレが座っているところだ。その向かい側、彼女はいつものように座っていた。夕飯ではなくパソコンを置いて、何かを見ている。
……何やってんだ。
今日は何を言われたのか。何をやったのか。最近の彼女は間が悪いというか、他人のミスを押しつけられたり、代わりに残業して帰ってきたり。……まあ、つまり優しいんだ。他人には優しい癖に、自分には優しく出来ない。
「ただいま」
「わ、幸。おかえり」
電気をつけて、イヤホンを耳から引っこ抜くとイヤホンからそこそこの音量が漏れ出していた。耳悪くするぞ。
「ご飯出来てるよ」
「ん。アリガト。で?」
あからさまに顔を顰める。いっそ面白いくらいに不機嫌そうになるのも慣れたものだ。オレは気にせずラップを外しながらもう一度「で?」と問いかけた。
「今機嫌直してるところだからちょっと待って」
「アンタのそれ長いじゃん。吐いたら楽になるよ」
「罪を押しつけられたのはこっちなんですけど……」
「ふうん。またミス押しつけられたんだ」
「あっ!」
嵌められたことに気付いて、唇を突き出してぶすっとした顔をする。子供のような表情が、オレは嫌いじゃない。あとでコンビニでも連れ出して好きなもの買ってやろう。大きな溜息を聞き流しながら、オレはお茶をコップに注ぐ。
「……ごめん」
「別に。悪いのは職場の奴でしょ」
「幸が優しい」
「オレはいつでも優しい」
ぽんぽんと交わされる言葉に、ようやく口の端が上がって、笑ったような顔になった。お風呂湧かしてくるね、と逃げるようにその場を立ち去る背中を見送って、オレはようやくご飯に箸をつけた。
……うわ、今日のご飯ちょっと、すごい。
*
幸に手を引かれて、渋々家を出た。仕事で嫌な思いをしたのも、ご飯が上手くいかなかったのも、いつもならうまく飲み込めるのに。まるで初めて飲んだ錠剤みたいに口の中に嫌に残って苦味だけを与えてくる、そんな感じ。
そんなとき、幸は何も言わずに放っておいてくれる。あまりにも私がじめじめしていると「いい加減顔上げろ」と言ってくれるけれど、基本的に私の機嫌を取ったりしない。その分私は自分の機嫌を上手に取れるようになって、そして……たまに思いっきり転んでしまうのだ。
コンビニに向かいながら、幸は最近の劇団のことを話した。私はぼんやりと考え事をしながら手を引かれて歩いていく。そのうちに、コンビニに向かうルートからは外れていることに気づく。それでも気にせずに幸はずんずんと歩き続けて、やがて足を止めた。結局そこは2件先のコンビニで、ああ私がうじうじする時間を作ってくれたんだな、なんてことが頭の片隅を過ぎった。
「アイス?」
「高いのでもいい?」
「200円より上は自腹」
「……ケチ」
幸は起こることもせずに「早くしろ」と言った。優しい口調だった。
会計を済ませてコンビニを出る。家に戻るまでにアイスは少し柔らかくなってしまうかもしれない。私は幸の手のひらに自分の手を滑り込ませながら、自分の足で歩き出した。幸の手をぐいぐい引っ張り、果てには走るような速度で。
「ちょっと。何、突然」
「ありがと、幸」
「……ま、アンタの機嫌直してやれるのはオレくらいだしね」
少しだけ息を上げた幸が、繋いだ手をぐいと引いた。まんまとよろけた私を受け止めて、頑張ったなと短く抱きしめてくれる。
いつもは放っておくくせに、転んだときには手を差し伸べてくれる。私の彼氏、なんていい男なんだろう?
そっと扉を開ければ、テーブルの上にラップが掛けられたご飯が一人分鎮座していた。オレが座っているところだ。その向かい側、彼女はいつものように座っていた。夕飯ではなくパソコンを置いて、何かを見ている。
……何やってんだ。
今日は何を言われたのか。何をやったのか。最近の彼女は間が悪いというか、他人のミスを押しつけられたり、代わりに残業して帰ってきたり。……まあ、つまり優しいんだ。他人には優しい癖に、自分には優しく出来ない。
「ただいま」
「わ、幸。おかえり」
電気をつけて、イヤホンを耳から引っこ抜くとイヤホンからそこそこの音量が漏れ出していた。耳悪くするぞ。
「ご飯出来てるよ」
「ん。アリガト。で?」
あからさまに顔を顰める。いっそ面白いくらいに不機嫌そうになるのも慣れたものだ。オレは気にせずラップを外しながらもう一度「で?」と問いかけた。
「今機嫌直してるところだからちょっと待って」
「アンタのそれ長いじゃん。吐いたら楽になるよ」
「罪を押しつけられたのはこっちなんですけど……」
「ふうん。またミス押しつけられたんだ」
「あっ!」
嵌められたことに気付いて、唇を突き出してぶすっとした顔をする。子供のような表情が、オレは嫌いじゃない。あとでコンビニでも連れ出して好きなもの買ってやろう。大きな溜息を聞き流しながら、オレはお茶をコップに注ぐ。
「……ごめん」
「別に。悪いのは職場の奴でしょ」
「幸が優しい」
「オレはいつでも優しい」
ぽんぽんと交わされる言葉に、ようやく口の端が上がって、笑ったような顔になった。お風呂湧かしてくるね、と逃げるようにその場を立ち去る背中を見送って、オレはようやくご飯に箸をつけた。
……うわ、今日のご飯ちょっと、すごい。
*
幸に手を引かれて、渋々家を出た。仕事で嫌な思いをしたのも、ご飯が上手くいかなかったのも、いつもならうまく飲み込めるのに。まるで初めて飲んだ錠剤みたいに口の中に嫌に残って苦味だけを与えてくる、そんな感じ。
そんなとき、幸は何も言わずに放っておいてくれる。あまりにも私がじめじめしていると「いい加減顔上げろ」と言ってくれるけれど、基本的に私の機嫌を取ったりしない。その分私は自分の機嫌を上手に取れるようになって、そして……たまに思いっきり転んでしまうのだ。
コンビニに向かいながら、幸は最近の劇団のことを話した。私はぼんやりと考え事をしながら手を引かれて歩いていく。そのうちに、コンビニに向かうルートからは外れていることに気づく。それでも気にせずに幸はずんずんと歩き続けて、やがて足を止めた。結局そこは2件先のコンビニで、ああ私がうじうじする時間を作ってくれたんだな、なんてことが頭の片隅を過ぎった。
「アイス?」
「高いのでもいい?」
「200円より上は自腹」
「……ケチ」
幸は起こることもせずに「早くしろ」と言った。優しい口調だった。
会計を済ませてコンビニを出る。家に戻るまでにアイスは少し柔らかくなってしまうかもしれない。私は幸の手のひらに自分の手を滑り込ませながら、自分の足で歩き出した。幸の手をぐいぐい引っ張り、果てには走るような速度で。
「ちょっと。何、突然」
「ありがと、幸」
「……ま、アンタの機嫌直してやれるのはオレくらいだしね」
少しだけ息を上げた幸が、繋いだ手をぐいと引いた。まんまとよろけた私を受け止めて、頑張ったなと短く抱きしめてくれる。
いつもは放っておくくせに、転んだときには手を差し伸べてくれる。私の彼氏、なんていい男なんだろう?