SHORT KAZUNARI MIYOSHI
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼はとても臆病な人だ。その内面を、どこまでも見てきたつもりでいた。彼はよく悩み、よく落ち込み、よく悩む。普段は組の「お兄さん」として頑張っている面もあるのかも。その彼が、私はとても好きなんだけれど。
「うわぁ〜、やっぱ俺、だめかも」
「えぇ?」
改札前ではたと立ち止まった彼――三好一成を、私は呆れ顔で見つめた。電車を乗り継いでここまで来たというのに、彼はICカードが入っているスマホケースを握りしめて不安そうに瞳を揺らした。
「定職に就いてないって、やっぱり」
「ナントカクリエイターじゃん」
「ウルトラマルチクリエイター!」
なるほど、言い返せる元気はあるのか。私はもどかしそうに足踏みをする彼を置いてひとりでさっさと改札を通った。この改札を通ると、帰ってきたなあと感じる。そりゃあそうかもしれないけれど。生まれ育った町だし。
一成は諦めたようにICカードをかざして改札を通ると、駅前の喧騒に目を細めた。もしかしたら彼の劇団周りを思い出しているのかもしれない。確かに人の流れとか、多さとか。なんだか似ているような気もする。
手土産を揺らして歩き出すと、一成は一層不安げな表情を浮かべておぼつかない足取りで私のあとに続いた。一成のこと、知らないわけでもあるまいし。今更何も言われないと思うけどなあ。
「……一成さあ」
「え?」
「もしおとーさんが『ウチの娘はやらん』って言ったら、どうすんの?」
そもそも今回の会合(と、便宜上呼ぶことにする)をセッティングしたのは他でもないおとーさんだけど。一成をいたく気に入っているおとーさんは、きっと一成と飲みたいだけで、私はあくまておまけなのだ。それを都合よく失念している一成は「えぇ!」と驚いたあと、少しだけ考え込んだ。信号が点滅し、私はそこで立ち止まる。一成の顔を覗き込めば、表情がぐっと引き締まる瞬間を目撃してしまい、どきと胸が鳴った。……やだな、別に付き合いたてでも何でもないのに。
「殴られても、何度でも頼むよ。二人でなら絶対に幸せになれると思うから」
あぁ。そうだ、彼はこういう人なんだ。
彼はとても臆病だけど、伸ばした手を絶対に引っ込めたりしない。その内面を、私はどこまでも見てきた。芸術の世界に身を置くことが、どれだけ大変か。よく悩み、よく落ち込み、そして必ず立ち上がってきた彼を、私の家族が退けることなんてないんだよ。
「君の全部が欲しいから。後ろめたいことは残さない」
「その意気」
あの坂を登れば、私の育った家がある。そして、次のお盆か正月には二人で帰る家になる。ご近所さんに見つかるかもだけど。私は一成の手にするりと手を滑り込ませた。いつもよりちょっとだけ強い力で握られる手が、一番の答えなんだ。
*
「……殴られたら、痛いよね」
「殴られたら、ね」
「うわぁ〜、やっぱ俺、だめかも」
「えぇ?」
改札前ではたと立ち止まった彼――三好一成を、私は呆れ顔で見つめた。電車を乗り継いでここまで来たというのに、彼はICカードが入っているスマホケースを握りしめて不安そうに瞳を揺らした。
「定職に就いてないって、やっぱり」
「ナントカクリエイターじゃん」
「ウルトラマルチクリエイター!」
なるほど、言い返せる元気はあるのか。私はもどかしそうに足踏みをする彼を置いてひとりでさっさと改札を通った。この改札を通ると、帰ってきたなあと感じる。そりゃあそうかもしれないけれど。生まれ育った町だし。
一成は諦めたようにICカードをかざして改札を通ると、駅前の喧騒に目を細めた。もしかしたら彼の劇団周りを思い出しているのかもしれない。確かに人の流れとか、多さとか。なんだか似ているような気もする。
手土産を揺らして歩き出すと、一成は一層不安げな表情を浮かべておぼつかない足取りで私のあとに続いた。一成のこと、知らないわけでもあるまいし。今更何も言われないと思うけどなあ。
「……一成さあ」
「え?」
「もしおとーさんが『ウチの娘はやらん』って言ったら、どうすんの?」
そもそも今回の会合(と、便宜上呼ぶことにする)をセッティングしたのは他でもないおとーさんだけど。一成をいたく気に入っているおとーさんは、きっと一成と飲みたいだけで、私はあくまておまけなのだ。それを都合よく失念している一成は「えぇ!」と驚いたあと、少しだけ考え込んだ。信号が点滅し、私はそこで立ち止まる。一成の顔を覗き込めば、表情がぐっと引き締まる瞬間を目撃してしまい、どきと胸が鳴った。……やだな、別に付き合いたてでも何でもないのに。
「殴られても、何度でも頼むよ。二人でなら絶対に幸せになれると思うから」
あぁ。そうだ、彼はこういう人なんだ。
彼はとても臆病だけど、伸ばした手を絶対に引っ込めたりしない。その内面を、私はどこまでも見てきた。芸術の世界に身を置くことが、どれだけ大変か。よく悩み、よく落ち込み、そして必ず立ち上がってきた彼を、私の家族が退けることなんてないんだよ。
「君の全部が欲しいから。後ろめたいことは残さない」
「その意気」
あの坂を登れば、私の育った家がある。そして、次のお盆か正月には二人で帰る家になる。ご近所さんに見つかるかもだけど。私は一成の手にするりと手を滑り込ませた。いつもよりちょっとだけ強い力で握られる手が、一番の答えなんだ。
*
「……殴られたら、痛いよね」
「殴られたら、ね」