SHORT KAZUNARI MIYOSHI
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「やほー、来たよん!」
「いらっしゃい」
「おかえり、って言ってくれてもいいのに!」
ビニール袋の音をかさかさと響かせながら、一成がかちゃりと鍵とロックを締める。課題ギリギリだから大学に居残りをすると連絡があったから、私は先に帰ってきた。やっぱり美大ってちょっとトクベツだ。先人の研究を吟味してあれこれする私とは違って、いつもなにかを生み出している。靴を脱ぐ音と、カバンを置く音。きゅ、と玄関が鳴いたから、まだ外は濡れているのかもしれない。
一成はそのまま水回りに入り、手を洗っているみたいだ。チャラいのに育ちがいいというか、そういうところはきっちりしている。靴がきちんと揃えられているのを見て、最初は失礼ながら驚いたものだ。
私はお茶を注ぎながらいらなかったかしら、と首を傾げた。もしくは、もっと後でもよかったかも。
「お疲れ」
「うん、疲れたー」
私が腰掛けるソファベッドの隣に腰掛けた一成は、黙って私の手を取った。無理やり口角を上げた笑顔で「ごめん」と一言だけぽつりと言葉が落ちた。
「今日、あんまり元気じゃなくて」
「体調悪い?」
「そうじゃないんだけど。なんか、だめで」
傘をさしてきたはずなのに一成の金髪がしっとりと濡れている。あれ、もしかして傘さしてこなかった?
雨の日は気分が落ち込みやすい。一成は普段テンションを上げている分、深いところまで沈んでしまう。テンションを上げている一成も、繊細な一成も、どちらも一成だけど。彼は何かとこの部分を隠したがる。特に大学の友達には。私も一成と付き合ってなかったら、知らなかったかも。
一成がぽつぽつと今日あったことを話し始める。手を握られていたはずが肩にもたれかかり、そのうち腕が腰に回ってぎゅっと引き寄せられた。脈絡の薄い話の中、私はお茶を注いだことを密かに後悔した。コップが汗をかいてびしょびしょだ。
「……や、ごめん。来たばっかなのにこんな話」
「そう?」
「もう、オレのこと甘やかしすぎ」
一成は眉を下げて変な顔をした。もしかしたら笑おうとした? 全然笑えてないよ。
私たちは落ち込みやすい。それは若気のナントカとか、時間が解決することとか、もしかしたらそういうことなのかもしれない。見えない未来に対する不安とか、なんかそういうの。悩んでる時間は無駄かもしれない。でも、悩んでるこの無駄な時間が、ひとえに悪いとは思えないんだよ。
「あと10分で元気になるから。もうちょい」
「ん。10分ね」
10分後、一成は元気を出せてるだろうか。出せてたら私は何事もなかったかのようにお菓子を開けるし、出せてなかったら時間なんて来てないように振る舞うんだろう。別に二人でいるときくらい、こんな無駄があってもいいよね?
「いらっしゃい」
「おかえり、って言ってくれてもいいのに!」
ビニール袋の音をかさかさと響かせながら、一成がかちゃりと鍵とロックを締める。課題ギリギリだから大学に居残りをすると連絡があったから、私は先に帰ってきた。やっぱり美大ってちょっとトクベツだ。先人の研究を吟味してあれこれする私とは違って、いつもなにかを生み出している。靴を脱ぐ音と、カバンを置く音。きゅ、と玄関が鳴いたから、まだ外は濡れているのかもしれない。
一成はそのまま水回りに入り、手を洗っているみたいだ。チャラいのに育ちがいいというか、そういうところはきっちりしている。靴がきちんと揃えられているのを見て、最初は失礼ながら驚いたものだ。
私はお茶を注ぎながらいらなかったかしら、と首を傾げた。もしくは、もっと後でもよかったかも。
「お疲れ」
「うん、疲れたー」
私が腰掛けるソファベッドの隣に腰掛けた一成は、黙って私の手を取った。無理やり口角を上げた笑顔で「ごめん」と一言だけぽつりと言葉が落ちた。
「今日、あんまり元気じゃなくて」
「体調悪い?」
「そうじゃないんだけど。なんか、だめで」
傘をさしてきたはずなのに一成の金髪がしっとりと濡れている。あれ、もしかして傘さしてこなかった?
雨の日は気分が落ち込みやすい。一成は普段テンションを上げている分、深いところまで沈んでしまう。テンションを上げている一成も、繊細な一成も、どちらも一成だけど。彼は何かとこの部分を隠したがる。特に大学の友達には。私も一成と付き合ってなかったら、知らなかったかも。
一成がぽつぽつと今日あったことを話し始める。手を握られていたはずが肩にもたれかかり、そのうち腕が腰に回ってぎゅっと引き寄せられた。脈絡の薄い話の中、私はお茶を注いだことを密かに後悔した。コップが汗をかいてびしょびしょだ。
「……や、ごめん。来たばっかなのにこんな話」
「そう?」
「もう、オレのこと甘やかしすぎ」
一成は眉を下げて変な顔をした。もしかしたら笑おうとした? 全然笑えてないよ。
私たちは落ち込みやすい。それは若気のナントカとか、時間が解決することとか、もしかしたらそういうことなのかもしれない。見えない未来に対する不安とか、なんかそういうの。悩んでる時間は無駄かもしれない。でも、悩んでるこの無駄な時間が、ひとえに悪いとは思えないんだよ。
「あと10分で元気になるから。もうちょい」
「ん。10分ね」
10分後、一成は元気を出せてるだろうか。出せてたら私は何事もなかったかのようにお菓子を開けるし、出せてなかったら時間なんて来てないように振る舞うんだろう。別に二人でいるときくらい、こんな無駄があってもいいよね?