SHORT YUKI RURIKAWA
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じわ、と汗が背中に滲む。暑苦しさを感じて私は意識をぼんやりと浮上させた。重たい空気が体にまとわりついてあんまりすっきりしない。夜は多少気温が下がるとはいえ、これからどんどん暑くなっていく季節だ。
寝返りを打って、自分の体温で温まってないところを探した。今日は一人で眠っているからいつもよりベッドが広い。
「うわ、起きた」
「え!」
私は降ってきた声に眠気が吹っ飛んでいくのを感じた。くっつきそうだった瞼を開いて、声の主を探す。気まずそうに目を逸らす深い緑色の髪がさらりと揺れた。
「ゆき」
「……暑い?」
幸が指先で私の前髪を除けながら首を傾げた。私は何だか分からないまま「あつい」と口に出した。幸は黙ってエアコンのリモコンに手を伸ばすとぴっと音を立ててエアコンの電源を入れた。口を開きはじめたエアコンが冷たい息を吐き始めて、私はあついといったくせに身震いをした。やっぱり黙ったままの幸が手を伸ばして、タオルケットを乱雑に私に掛けた。
今日は何だか、いろいろなタイミングが悪かった。たまたま私の機嫌が悪くて、それを言うのを失念してしまったばかりに嫌な物言いをした。普段そんな小さなことで腹を立てない幸も、今日は虫の居所が悪かったのかも。派手な喧嘩をしない私たちは、ジメジメした喧嘩をする。互いのことを視界に入れずに過ごし、陽が昇るのを待つ。それは、とても時間が掛かる。
口をきいていなかったのは2時間くらいだ。たぶん。それなのに、もう幸に話しかける言葉が見つからない。そもそも「今日、向こうで寝るから」と言ったのは幸なのに、どうしてここにいるのかなんて野暮なことを聞きたくなった。
幸の手がそっと頭に触れた。ベッドに腰掛けたままの幸が少しだけ身を乗り出した。梳くように髪に指が通されて、やがてその指が頬を滑っていった。今日のことがまるでなかったみたいで。でも今日のことがなかったら幸は今頃私と一緒に眠っているはずで、奇妙な雰囲気。互いにかける言葉を探していて、その言葉にはきっと正解がない。余計な言葉は口からぽんぽん出て行ってしまうのに、必要な言葉は分からないなんて。私たちは世界に嫌われているのかもしれない、大事なことほど言わないと伝わらないとか、よかれと思ったことが裏目に出るとか。
「幸」
「……なに」
「お願いがあって」
「は?」
「……ぎゅーってして、欲しいんですが」
見開かれた大きな瞳をスプーンで掬って、食べてしまいたいと思った。私は自分の目を閉じながら幸の体が覆い被さってくるのを待った。大きな溜息が聞こえて、幸が隣に滑り込んでくる。聞こえるか聞こえないか、もしかしたら言ってないかも。そんな音量で「ごめん」と呟かれた言葉が胸に落ちて、じわりと広がった。
「私もゴメン。やな言い方した」
「確かに」
「む」
「でも、オレもちょっと言い過ぎた。機嫌悪いんだろうなって分かってたのに」
幸の腕が伸びてきて、顔を幸の胸に押しつけられた。夏でも冷たい幸の足が絡んできて、私はもう一度身震いをした。
「もう遅いから寝ろ」
「……ん。寝る」
エアコンのタイマーつけ忘れたな、なんてことを思いながら幸の胸に額を擦り付ける。
寝返りを打って、自分の体温で温まってないところを探した。今日は一人で眠っているからいつもよりベッドが広い。
「うわ、起きた」
「え!」
私は降ってきた声に眠気が吹っ飛んでいくのを感じた。くっつきそうだった瞼を開いて、声の主を探す。気まずそうに目を逸らす深い緑色の髪がさらりと揺れた。
「ゆき」
「……暑い?」
幸が指先で私の前髪を除けながら首を傾げた。私は何だか分からないまま「あつい」と口に出した。幸は黙ってエアコンのリモコンに手を伸ばすとぴっと音を立ててエアコンの電源を入れた。口を開きはじめたエアコンが冷たい息を吐き始めて、私はあついといったくせに身震いをした。やっぱり黙ったままの幸が手を伸ばして、タオルケットを乱雑に私に掛けた。
今日は何だか、いろいろなタイミングが悪かった。たまたま私の機嫌が悪くて、それを言うのを失念してしまったばかりに嫌な物言いをした。普段そんな小さなことで腹を立てない幸も、今日は虫の居所が悪かったのかも。派手な喧嘩をしない私たちは、ジメジメした喧嘩をする。互いのことを視界に入れずに過ごし、陽が昇るのを待つ。それは、とても時間が掛かる。
口をきいていなかったのは2時間くらいだ。たぶん。それなのに、もう幸に話しかける言葉が見つからない。そもそも「今日、向こうで寝るから」と言ったのは幸なのに、どうしてここにいるのかなんて野暮なことを聞きたくなった。
幸の手がそっと頭に触れた。ベッドに腰掛けたままの幸が少しだけ身を乗り出した。梳くように髪に指が通されて、やがてその指が頬を滑っていった。今日のことがまるでなかったみたいで。でも今日のことがなかったら幸は今頃私と一緒に眠っているはずで、奇妙な雰囲気。互いにかける言葉を探していて、その言葉にはきっと正解がない。余計な言葉は口からぽんぽん出て行ってしまうのに、必要な言葉は分からないなんて。私たちは世界に嫌われているのかもしれない、大事なことほど言わないと伝わらないとか、よかれと思ったことが裏目に出るとか。
「幸」
「……なに」
「お願いがあって」
「は?」
「……ぎゅーってして、欲しいんですが」
見開かれた大きな瞳をスプーンで掬って、食べてしまいたいと思った。私は自分の目を閉じながら幸の体が覆い被さってくるのを待った。大きな溜息が聞こえて、幸が隣に滑り込んでくる。聞こえるか聞こえないか、もしかしたら言ってないかも。そんな音量で「ごめん」と呟かれた言葉が胸に落ちて、じわりと広がった。
「私もゴメン。やな言い方した」
「確かに」
「む」
「でも、オレもちょっと言い過ぎた。機嫌悪いんだろうなって分かってたのに」
幸の腕が伸びてきて、顔を幸の胸に押しつけられた。夏でも冷たい幸の足が絡んできて、私はもう一度身震いをした。
「もう遅いから寝ろ」
「……ん。寝る」
エアコンのタイマーつけ忘れたな、なんてことを思いながら幸の胸に額を擦り付ける。
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