STORT ITARU CHIGASAKI
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車の中でゲームのスタミナを消費しながら待っていた。今日は定時でソッコー帰ってこられてよかった。ここにくるまでに目当てのホビーショップにも寄れたし、出遅れたかと思ったグッズの予約も完璧にこなした。これでオタクとしてのノルマは達成したから、次は彼氏としてのノルマクリアに向かわなければならない。
言われていた時間を少し過ぎた頃。建物の中から数人の女の子たちが出てくるのが見えた。まーた後輩先に帰して自分は仕事してんのか。……あ、いや違うな。何だ、ちゃんと帰ってきてるじゃん。すげー顔色悪いけど。
建物から出てきた女の子と一緒に歩いてきた名前は、何か言ってからひらりと手を振った。たぶんまた明日、とかじゃあとか。いや明日土曜だろ、仕事か? 名前が女の子たちと別れて助手席の扉を開けると、女の子たちが目を見張るのが分かった。そりゃそうだ。この流れだと普通に駅まで向かう流れだよな。俺だってそう思うよ。迎えに来てるって、それ彼氏いますって言ってるようなもんだもんな。気付いてんのかな。
「おつー」
「しぬ」
「死ぬな」
倒れ込むように助手席に転がり込んでくる名前は、なんかもう世界の終わりみたいな声を出した。もう全然お聞かせできない。あの後輩(恐らく)たちには更にお聞かせできない。……立ち話してんのかな。さっきから移動してないみたいだけど。
「だから今日休めって言ったのに」
「やすめないって言った……」
「それがこれかよ」
頑張るのはいいけどさー、と言いながらさっきホビーショップのついでに立ち寄ったドラッグストアで入手しておいた冷え○タを一枚取り出した。身を乗り出して前髪を除ければ、ちょっと幼く見えるので気に入っている。
風邪を引きすぎると、ある程度自分で制御できるようになるんだろうか。そう思うほど、今日の朝はケロッと出勤していった。昨日の夜からくったりしていて、今日は絶対に休むと思っていたのにだ。心配すぎて車まで回しちゃってさ。ホント、よかったよ。
「うわ、ミスった。スポドリ忘れた」
「……ええ、いいよ。ありがと」
「いやいや。オマエ飲まないと駄目だろ、知ってるんだからな。どうせ昼も抜いたんだろ」
ピンで前髪を留めてやりながら財布を探した。あれ、どこやったかな。ああ、さっきのフィギュアの中に一緒に突っ込んだんだっけ。最悪ICカードで払えばいいか。オートチャージ、マジ便利。
フロントガラスから見える景色のそう遠くないところにコンビニが見えた。あのかつては朝7時から夜の11時までやってたとかいうあのコンビニだ。ちょっと行ってくる、と一声掛けて車を降りた。ちらりと目をやると、さっきの女の子たちはまだ立ち話に花を咲かせているようだ。
「……すみません」
「え?」
コンビニでスポドリ数本と、ついでに魔法のカードを買って来た道を戻る。整えた体裁で話しかけると自分の会社の女の子たちと同じようにきゃあと色めき立つ声が聞こえた。……様な気がする。
コンビニ袋をぶら下げたまま、俺はにこやかな笑顔を浮かべた。あー、鞄持ってた方がよかっただろうか。
「名前の同僚の方ですよね? 先ほど一緒にビルから出てくるの見えて」
「ああ、お世話になってます。と言っても、後輩ですけど」
「こちらこそ。いつも名前がお世話になってます、病弱で大変でしょう?」
「……え?」
「昔からなんですよ。雨に降られては風邪を引いて、電車に乗ればインフル貰ってきて。すぐ無理しますけど、どうかよろしくお願いしますね」
きょとんと俺のことを見つめる後輩たちになるべく穏やかに笑いかける。やっぱり知らなかったのか。そりゃそうだ。いつも仕事持って帰ってきてるし。
今だって、きっと助手席の上でふうふう息を吐きながら俺のことを待ってるんだろう。や、もしかしたら待ってないかもしれない。疲れてるもんな、そんなこと考えてる余裕ない。
周りへの体裁を整えるのに必死で、なんだか俺を見ているみたいなんだ。だから、少なくとも世界中で俺だけは名前の弱さを分かってあげられる存在でいるし、その為なら周りの根回しだってする。ウチの子、見た目よりナイーブなんです。だから優しくしてあげてね。本人は嫌がるかもしれないからバレないように。それが巡り巡ってアイツの為になるなら、安い犠牲だ(本人だけど)。
それじゃあと話を切り上げて車に戻ると、大きく呼吸している名前のほっぺたにスポドリをぴたりとくっつけた。嫌そうな顔をするけど、素直に受け取ってくれる。俺はシートベルトを締めた。さて、安全運転だ。
「名前」
「ん」
「俺は、お前が頑張ってるの。知ってるから」
「……うん」
ほんと、よく頑張ってるよ。
だからおやすみ。がんばったね。
*
「……そういえば、今日はみんながやけに優しかった」
「へえ?」
「空調寒くないですか、とか温かいお茶淹れましたよ、とか。……私、やっぱり風邪引いてたことバレてたのかなあ」
月曜日の夜。やっぱりケロッと出勤していった名前は、夜になってもそれなりに元気だった。土日中使い物にならなかったから当然かもしれないけれど。しきりに首をひねっている名前の姿に苦笑する。……うん、それ、俺のせいだね。確実に。
「化粧かなあ……化粧変えたからかな? ねえ、至、どう思う? あと劇団のメイクくん紹介して。あの素敵キュートボーイ」
「駄目絶対、莇お前の好みの顔だから絶対会わせない」
「至の心配してることにはならないよ、その前に犯罪で捕まる」
「……絶対会わせない」
「同伴でも?」
「だめ」
俺はハンドルをぐるりと回しながらスーパーの駐車場に入った。えーと、空いてるところは。
病み上がりのところ悪いけど今日は俺が構って貰う日だから、夕飯はそんなに凝らなくて良いよ。惣菜でも買ってさ、あとビールもいる? これからはじまる一週間を頑張るための景気づけをしよう。
言われていた時間を少し過ぎた頃。建物の中から数人の女の子たちが出てくるのが見えた。まーた後輩先に帰して自分は仕事してんのか。……あ、いや違うな。何だ、ちゃんと帰ってきてるじゃん。すげー顔色悪いけど。
建物から出てきた女の子と一緒に歩いてきた名前は、何か言ってからひらりと手を振った。たぶんまた明日、とかじゃあとか。いや明日土曜だろ、仕事か? 名前が女の子たちと別れて助手席の扉を開けると、女の子たちが目を見張るのが分かった。そりゃそうだ。この流れだと普通に駅まで向かう流れだよな。俺だってそう思うよ。迎えに来てるって、それ彼氏いますって言ってるようなもんだもんな。気付いてんのかな。
「おつー」
「しぬ」
「死ぬな」
倒れ込むように助手席に転がり込んでくる名前は、なんかもう世界の終わりみたいな声を出した。もう全然お聞かせできない。あの後輩(恐らく)たちには更にお聞かせできない。……立ち話してんのかな。さっきから移動してないみたいだけど。
「だから今日休めって言ったのに」
「やすめないって言った……」
「それがこれかよ」
頑張るのはいいけどさー、と言いながらさっきホビーショップのついでに立ち寄ったドラッグストアで入手しておいた冷え○タを一枚取り出した。身を乗り出して前髪を除ければ、ちょっと幼く見えるので気に入っている。
風邪を引きすぎると、ある程度自分で制御できるようになるんだろうか。そう思うほど、今日の朝はケロッと出勤していった。昨日の夜からくったりしていて、今日は絶対に休むと思っていたのにだ。心配すぎて車まで回しちゃってさ。ホント、よかったよ。
「うわ、ミスった。スポドリ忘れた」
「……ええ、いいよ。ありがと」
「いやいや。オマエ飲まないと駄目だろ、知ってるんだからな。どうせ昼も抜いたんだろ」
ピンで前髪を留めてやりながら財布を探した。あれ、どこやったかな。ああ、さっきのフィギュアの中に一緒に突っ込んだんだっけ。最悪ICカードで払えばいいか。オートチャージ、マジ便利。
フロントガラスから見える景色のそう遠くないところにコンビニが見えた。あのかつては朝7時から夜の11時までやってたとかいうあのコンビニだ。ちょっと行ってくる、と一声掛けて車を降りた。ちらりと目をやると、さっきの女の子たちはまだ立ち話に花を咲かせているようだ。
「……すみません」
「え?」
コンビニでスポドリ数本と、ついでに魔法のカードを買って来た道を戻る。整えた体裁で話しかけると自分の会社の女の子たちと同じようにきゃあと色めき立つ声が聞こえた。……様な気がする。
コンビニ袋をぶら下げたまま、俺はにこやかな笑顔を浮かべた。あー、鞄持ってた方がよかっただろうか。
「名前の同僚の方ですよね? 先ほど一緒にビルから出てくるの見えて」
「ああ、お世話になってます。と言っても、後輩ですけど」
「こちらこそ。いつも名前がお世話になってます、病弱で大変でしょう?」
「……え?」
「昔からなんですよ。雨に降られては風邪を引いて、電車に乗ればインフル貰ってきて。すぐ無理しますけど、どうかよろしくお願いしますね」
きょとんと俺のことを見つめる後輩たちになるべく穏やかに笑いかける。やっぱり知らなかったのか。そりゃそうだ。いつも仕事持って帰ってきてるし。
今だって、きっと助手席の上でふうふう息を吐きながら俺のことを待ってるんだろう。や、もしかしたら待ってないかもしれない。疲れてるもんな、そんなこと考えてる余裕ない。
周りへの体裁を整えるのに必死で、なんだか俺を見ているみたいなんだ。だから、少なくとも世界中で俺だけは名前の弱さを分かってあげられる存在でいるし、その為なら周りの根回しだってする。ウチの子、見た目よりナイーブなんです。だから優しくしてあげてね。本人は嫌がるかもしれないからバレないように。それが巡り巡ってアイツの為になるなら、安い犠牲だ(本人だけど)。
それじゃあと話を切り上げて車に戻ると、大きく呼吸している名前のほっぺたにスポドリをぴたりとくっつけた。嫌そうな顔をするけど、素直に受け取ってくれる。俺はシートベルトを締めた。さて、安全運転だ。
「名前」
「ん」
「俺は、お前が頑張ってるの。知ってるから」
「……うん」
ほんと、よく頑張ってるよ。
だからおやすみ。がんばったね。
*
「……そういえば、今日はみんながやけに優しかった」
「へえ?」
「空調寒くないですか、とか温かいお茶淹れましたよ、とか。……私、やっぱり風邪引いてたことバレてたのかなあ」
月曜日の夜。やっぱりケロッと出勤していった名前は、夜になってもそれなりに元気だった。土日中使い物にならなかったから当然かもしれないけれど。しきりに首をひねっている名前の姿に苦笑する。……うん、それ、俺のせいだね。確実に。
「化粧かなあ……化粧変えたからかな? ねえ、至、どう思う? あと劇団のメイクくん紹介して。あの素敵キュートボーイ」
「駄目絶対、莇お前の好みの顔だから絶対会わせない」
「至の心配してることにはならないよ、その前に犯罪で捕まる」
「……絶対会わせない」
「同伴でも?」
「だめ」
俺はハンドルをぐるりと回しながらスーパーの駐車場に入った。えーと、空いてるところは。
病み上がりのところ悪いけど今日は俺が構って貰う日だから、夕飯はそんなに凝らなくて良いよ。惣菜でも買ってさ、あとビールもいる? これからはじまる一週間を頑張るための景気づけをしよう。
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