STORT ITARU CHIGASAKI
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車があれば、車で移動するのが俺たちの常だった。家の前まで行って、彼女拾って。目的地まで行って、帰りはたまに運転してもらったりして。だから電車移動はほとんどしたことがなかった。はたまた、駅前で待ち合わせなんて経験がなかったのだ。
「……おー」
「……帰る」
「帰んな」
彼女の顔をまじまじと見つめて、俺はひとりでに上がろうとする口角を抑えるのに必死だった。いやでもこれニヤけるだろ。だって彼女が化粧をがらりと変えた。それも、俺好みの方向に(言っておくけど、決して俺が指図したわけではない)。
くるりと背を向けた彼女の背中を掴まえる。斜めにかけられた鞄の紐をぐっと掴んで、腰に手を回して。そのまま駅の改札に向かって歩き出した。
跳ね上げられたアイラインと、真っ赤な口紅。幼い顔立ちの彼女が自分を守るために纏っていた鎧。それを別の形にした彼女は、不安げに視線の置き所が定まらない。俺はあの夜聞いた幼い顔立ちでいるがための不利益を思い出しながら、ぶつかってこようとする男を避けるために彼女の腰を抱き寄せた。「ほらね」と諦めたように溜息を吐く彼女は、いつもとは違う花の耳飾りを揺らして見せた。
「至も来世は女に生まれると良いよ」
「絶世の美少女が爆誕してしまうな……」
「……帰る」
「帰んな」
タイミングよく滑り込んできた電車に押し込んで、急行の力を借りて都内を飛び出した。
「服も買った? 可愛いじゃん」
「……似合って、なかったんだよね」
「さあ。俺はこっちの方が好きだけど」
幾分か低くなったヒールの高さの分、目線がいつもより合わなくなった。でも、つむじが見えるようになって、ちょっと可愛い。足を出しているところははじめて見た。……うそ、あの夜に存分に見た。でもそういうことじゃないね、分かってるよ。
耳に揺れる飾りは誰かからもらったものだろうか。前の男とかだったらムカつくから、俺もプレゼントしよう。善は急げ、今日だ。
「百面相」
「どういう顔したら良いか分かんないだけ」
「……別に、干物顔してたらいいんじゃないの」
「干物て」
ふ、と彼女が笑った。うわ。なにこれ。めっちゃ可愛い。不機嫌そうだった顔がほろりと溶けて、口元に易しい笑みを浮かべている。口紅、あ、いやリップ? 分かんないけど、唇の色がピンクになってるから余計に優しく見える。
……うーん。今日これから俺はコイツを連れ回すわけだけど。べつのいみでしんぱいになってきた。
「……おー」
「……帰る」
「帰んな」
彼女の顔をまじまじと見つめて、俺はひとりでに上がろうとする口角を抑えるのに必死だった。いやでもこれニヤけるだろ。だって彼女が化粧をがらりと変えた。それも、俺好みの方向に(言っておくけど、決して俺が指図したわけではない)。
くるりと背を向けた彼女の背中を掴まえる。斜めにかけられた鞄の紐をぐっと掴んで、腰に手を回して。そのまま駅の改札に向かって歩き出した。
跳ね上げられたアイラインと、真っ赤な口紅。幼い顔立ちの彼女が自分を守るために纏っていた鎧。それを別の形にした彼女は、不安げに視線の置き所が定まらない。俺はあの夜聞いた幼い顔立ちでいるがための不利益を思い出しながら、ぶつかってこようとする男を避けるために彼女の腰を抱き寄せた。「ほらね」と諦めたように溜息を吐く彼女は、いつもとは違う花の耳飾りを揺らして見せた。
「至も来世は女に生まれると良いよ」
「絶世の美少女が爆誕してしまうな……」
「……帰る」
「帰んな」
タイミングよく滑り込んできた電車に押し込んで、急行の力を借りて都内を飛び出した。
「服も買った? 可愛いじゃん」
「……似合って、なかったんだよね」
「さあ。俺はこっちの方が好きだけど」
幾分か低くなったヒールの高さの分、目線がいつもより合わなくなった。でも、つむじが見えるようになって、ちょっと可愛い。足を出しているところははじめて見た。……うそ、あの夜に存分に見た。でもそういうことじゃないね、分かってるよ。
耳に揺れる飾りは誰かからもらったものだろうか。前の男とかだったらムカつくから、俺もプレゼントしよう。善は急げ、今日だ。
「百面相」
「どういう顔したら良いか分かんないだけ」
「……別に、干物顔してたらいいんじゃないの」
「干物て」
ふ、と彼女が笑った。うわ。なにこれ。めっちゃ可愛い。不機嫌そうだった顔がほろりと溶けて、口元に易しい笑みを浮かべている。口紅、あ、いやリップ? 分かんないけど、唇の色がピンクになってるから余計に優しく見える。
……うーん。今日これから俺はコイツを連れ回すわけだけど。べつのいみでしんぱいになってきた。