SHORT BANRI SETTSU
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「……もうこんな時間か」
「わー、ごめん。気付かなかった」
映画のエンドロールを眺めながら、万里が大きく伸びをした。隣で万里に体重を預けていた私は体勢を崩して万里の膝に倒れ込む。途中でうとうとしていたので最後の展開、全然分かんなかった。裏切ったはずのアイツが気付いたら仲間に戻っていた。何があったか分かんないけど、主人公の懐が広すぎじゃなかろうか。結構派手に裏切られてた気がするけど。
「今度続き見ようぜ、結構面白かったわ」
「寝てた……」
「おー、爆睡だったな」
万里はさっさと鞄にものを詰めて立ち上がる。私も玄関まで見送るために自分のベッドから立ち上がった。本当は駅まで見送りに行きたいんだけど、万里が「そしたらまた俺が家まで送んないといけないだろーが」と言うので最近は諦めている。大学生同士のスカした恋愛って言うんだろうか、くっつきすぎず離れすぎずのこの関係が、万里はとても居心地が良いらしい。やっぱり、もっと一緒にいたいとか言うのは重たいんだろうな。自重せねば。
「明日一限だから遅刻すんなよ」
「や、もう出席足りてるしいいかなと」
「ふざけんな、俺は真面目に行ってんだろ」
「……まー、確かに。“あの摂津”がって考えるとそうかもしれないけどさ」
同じ高校の有名なヤンキーが、同じ大学に進学したと聞いたときは息が詰まる思いだったけど、そのヤンキーに大学で話しかけられて、なんとなく話すようになって、案外真面目だとか演技のこと好きなんだなあとかいろいろ知って。好きだ、なんて言われた日にはもう一度息が詰まった。息が詰まったくせに今となってはズブズブに好きなのだから、短い人生の中でも不可解なことは起こるものだ。
靴を履いた万里は「雨降ってねーかな」と玄関を少し開いて外を確認した。私はつっかけを足にひっかける。せめてアパートの下まで行くのはいいと思う。
「じゃあな」
ちゅ、と音を立てて額に唇が落ちる。いつものバイバイの合図。いつもはここで笑って見送れるのに。今日だけはなんだか名残惜しくて、でも万里はきっとそういうの好きじゃなくて。いっそふざけて抱きつければいいのに。きっと私にはそんなこと出来なくて。……あー、もう。やだな。
「……どした?」
万里のTシャツの裾をかろうじて掴んだ指先に気付いて、慌てて手を離した。重工を向けられた犯人のように顔の横に手を上げてホールドアップ。私は無実です。
「何だよ、それ」
「や、何もないので」
「なわけないだろ」
「ちょっと重たい案件なので。万里嫌いそうじゃん」
「いいから、言ってみって」
万里がなだめるように私の髪に指を通した。私はあーとかうーとか声にならない言葉を発した後、観念して言葉をぼそぼそと紡いだ。
「……あと一分だけ、一緒にいて」
呆れただろうか、重い女だと思っただろうか。私は何だか泣きそうな気持ちで万里の足下を見つめていた。万里の靴が一歩だけこちらに踏み出した。その瞬間、ホールドアップした腕ごと抱き締められて、やっぱり息が詰まった。万里の頬が頭の上に乗って、頭の後ろを大きな手のひらが撫でつけた。
「一分でいーの。俺は足りねぇけど」
「え?」
驚いて声を上げると、呆れたように「なんだよ」と言う。万里がそんな風に言うなんて思ってなかったから。万里はいつも飄々としてて、先に告白して来たのは万里だけど、いつかは私ばっかり好きになっちゃうんだろうななんて思ってて。……ちょっと失礼だったかな。
「お前、本当に俺のことなんだと思ってんだよ」
「……同級生のサボり癖抱えたヤンキー」
「俺がお前と付き合うためにどんだけ苦労したか知らねーくせに。話しかける度に脅迫されたような顔しやがって」
「あながち違ってないと思うけど」
「……俺は、お前のことすげー好きだから急かさねぇけどさ」
「うん?」
万里は私を抱いた腕に力を込める。吐息が交ざった言葉の次が想像できない。
「お前のことすげー好きだから、あんま可愛いこと言うな」
「かわ」
腕を緩めて、私の顔を除いた万里がからからと笑う。ちゅうとくっついた唇と唇に思考が止まって。私は流されるままに身体の力を抜かれていく。
「で、今日泊まっていいわけ?」
「……狭い家ですが、よかったらどうぞ」
唇がくっついたまま流し込まれた言葉に、私はもう一度両手を挙げた。私は無実だと信じたい思いで。
「わー、ごめん。気付かなかった」
映画のエンドロールを眺めながら、万里が大きく伸びをした。隣で万里に体重を預けていた私は体勢を崩して万里の膝に倒れ込む。途中でうとうとしていたので最後の展開、全然分かんなかった。裏切ったはずのアイツが気付いたら仲間に戻っていた。何があったか分かんないけど、主人公の懐が広すぎじゃなかろうか。結構派手に裏切られてた気がするけど。
「今度続き見ようぜ、結構面白かったわ」
「寝てた……」
「おー、爆睡だったな」
万里はさっさと鞄にものを詰めて立ち上がる。私も玄関まで見送るために自分のベッドから立ち上がった。本当は駅まで見送りに行きたいんだけど、万里が「そしたらまた俺が家まで送んないといけないだろーが」と言うので最近は諦めている。大学生同士のスカした恋愛って言うんだろうか、くっつきすぎず離れすぎずのこの関係が、万里はとても居心地が良いらしい。やっぱり、もっと一緒にいたいとか言うのは重たいんだろうな。自重せねば。
「明日一限だから遅刻すんなよ」
「や、もう出席足りてるしいいかなと」
「ふざけんな、俺は真面目に行ってんだろ」
「……まー、確かに。“あの摂津”がって考えるとそうかもしれないけどさ」
同じ高校の有名なヤンキーが、同じ大学に進学したと聞いたときは息が詰まる思いだったけど、そのヤンキーに大学で話しかけられて、なんとなく話すようになって、案外真面目だとか演技のこと好きなんだなあとかいろいろ知って。好きだ、なんて言われた日にはもう一度息が詰まった。息が詰まったくせに今となってはズブズブに好きなのだから、短い人生の中でも不可解なことは起こるものだ。
靴を履いた万里は「雨降ってねーかな」と玄関を少し開いて外を確認した。私はつっかけを足にひっかける。せめてアパートの下まで行くのはいいと思う。
「じゃあな」
ちゅ、と音を立てて額に唇が落ちる。いつものバイバイの合図。いつもはここで笑って見送れるのに。今日だけはなんだか名残惜しくて、でも万里はきっとそういうの好きじゃなくて。いっそふざけて抱きつければいいのに。きっと私にはそんなこと出来なくて。……あー、もう。やだな。
「……どした?」
万里のTシャツの裾をかろうじて掴んだ指先に気付いて、慌てて手を離した。重工を向けられた犯人のように顔の横に手を上げてホールドアップ。私は無実です。
「何だよ、それ」
「や、何もないので」
「なわけないだろ」
「ちょっと重たい案件なので。万里嫌いそうじゃん」
「いいから、言ってみって」
万里がなだめるように私の髪に指を通した。私はあーとかうーとか声にならない言葉を発した後、観念して言葉をぼそぼそと紡いだ。
「……あと一分だけ、一緒にいて」
呆れただろうか、重い女だと思っただろうか。私は何だか泣きそうな気持ちで万里の足下を見つめていた。万里の靴が一歩だけこちらに踏み出した。その瞬間、ホールドアップした腕ごと抱き締められて、やっぱり息が詰まった。万里の頬が頭の上に乗って、頭の後ろを大きな手のひらが撫でつけた。
「一分でいーの。俺は足りねぇけど」
「え?」
驚いて声を上げると、呆れたように「なんだよ」と言う。万里がそんな風に言うなんて思ってなかったから。万里はいつも飄々としてて、先に告白して来たのは万里だけど、いつかは私ばっかり好きになっちゃうんだろうななんて思ってて。……ちょっと失礼だったかな。
「お前、本当に俺のことなんだと思ってんだよ」
「……同級生のサボり癖抱えたヤンキー」
「俺がお前と付き合うためにどんだけ苦労したか知らねーくせに。話しかける度に脅迫されたような顔しやがって」
「あながち違ってないと思うけど」
「……俺は、お前のことすげー好きだから急かさねぇけどさ」
「うん?」
万里は私を抱いた腕に力を込める。吐息が交ざった言葉の次が想像できない。
「お前のことすげー好きだから、あんま可愛いこと言うな」
「かわ」
腕を緩めて、私の顔を除いた万里がからからと笑う。ちゅうとくっついた唇と唇に思考が止まって。私は流されるままに身体の力を抜かれていく。
「で、今日泊まっていいわけ?」
「……狭い家ですが、よかったらどうぞ」
唇がくっついたまま流し込まれた言葉に、私はもう一度両手を挙げた。私は無実だと信じたい思いで。