SHORT BANRI SETTSU
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卵焼きをつまみながら、密かに欠伸を零した。お酒が回っていい感じだ。卵焼きが思いの外美味しかったので、話が盛り上がっている間に私物化してぱくぱくと口に入れておく。だし巻きかな、帰ったら作って貰おう。卵焼き作っているところなんて見たことないけど、きっと出来るはずだ。
大学の同窓会なんて、卒業してすぐに開催するものじゃないと思う。ゼミの仲間に囲まれながら、何度もループしている同じ話を聞き流した。ゼミ合宿での料理の出来がアレだった話とか、ボヤ騒ぎで停学になりかけた話とか。卒業できたんだから、全部良いじゃないか。それよりも開催地が微妙なせいで今から帰っても何時に家に着くか。あー、早く帰りたい。
「……誰かのスマホ、鳴ってるけど?」
「アンタじゃない? 彼氏?」
「そーかも」
ぶるぶると震えているスマホをぼんやりと見れば、「ばんり」の文字が浮かび上がっていた。席を立つのも億劫で、その場で通話ボタンを押した。
「迎え来たけど。どうすんの」
「今卵焼き食べてるから待って」
「はあ? あー、じゃあ駐禁切られないようにその辺走ってるから。店出るときに電話しろよ」
「オス」
「酔ってんな……」
あくびをしながら卵焼きを口に入れて、財布の中から千円札を何枚か出した。私が帰り支度をはじめたことによって、周りもそろそろと帰り支度をはじめた。やっぱりみんな帰りたかったんだ。
「あー、アンタ家遠いんだっけ」
「そ。車で二時間」
「そっかー、でも彼氏来てくれて優しいね?」
「来てくれたって言うか、一緒に来たというか」
「えー、優しい! イケメン?」
「……ヤンキー?」
鞄を持って立ち上がると、思ったよりお酒が回っていたのか視界がくらりと傾いた。とっさに壁に手をついたけど、体を支えてもらえなかったら転んでいた。同じゼミだった男の子(と言う年齢でもないけど)が「入り口まで一緒に行くよ」と言ってくれる。ボヤ騒ぎの一因になった奴だ。
「彼氏来てるから大丈夫だよ」
「いーって」
よくない。よくないのはこっちだ。鞄を奪われてしまい、行こうと促されたら大人しくついていくしかない。会費を先に渡しておいてよかった。彼の後ろをのろのろと歩きながら、ぽちぽちとLIMEを打った。だんしにつかまったので、みせのまえまできてくれ。
「俺さー」
「は?」
「お前のこと、好きだったよ。大学のとき」
「はあ……」
「リアクション薄」
「ちょっともう、眠くて」
店を出たところに、万里の車はまだ来ていなかった。ここで待っていたらそのうち来るので、と断っても何故かまだいる。おまけに無断で煙草を取り出している。ヤメロ。
「その彼氏、そんないい奴なの?」
「ソウダネ」
「俺じゃ、お前の彼氏になれない?」
私はSNSでもチェックしているフリをして、ぶるぶると震えているスマホの通話ボタンを押した。イヤホンと繋げているから、電話の向こうの万里の声は漏れていないはずだ。
「私の彼氏ね、卵焼き作るの得意なんだ」
「は?」
「だから、私に卵焼き作ってくれるひとじゃないと付き合えないかなあ」
ヘッドライトがぴかり光って、狭い道に車が停まった。すすすと窓が降りて、中から眉間に皺を寄せた万里が「早く来い」と口パクしてるのが見えた。
「……というわけなので」
なるべく波を立てないような動きでその場を離れる。もう眠いので私は寝ます。おやすみなさい。
「口説かれてんじゃねぇよ」
「ちゃんと断ったでしょーが」
「煙草くせぇ」
「禁煙しろって言っといて」
万里は少しだけ車を前に出すと、煙草の火を消している彼に向かって
「……世話になったな」
「はあ」
「じゃ」
と左手をひらりと振った。何でわざわざ左手?
*
「俺、お前に卵焼きなんか作ったことあったっけ」
「ないから明日作って」
「んだよ、それ」
「だし巻き卵がいいなー」
夜の道を走らせながら、私はふわあと欠伸をした。化粧落とさないとナントカって万里が言う。私はハンドルを握る左手に指輪が嵌っていることに気づいてぎょっと目を見開いた。
「万里」
「なに?」
「……その指輪、そこにつけるために買ったんじゃないんだけど」
この間の周年記念日にと二人で選んだ指輪が、左手の薬指に嵌っている。赤信号でブレーキを踏んだ万里は、左手から指輪を外して右手に付け替えた。
「まー、少し早いくらいいだろ」
「へ」
「卵焼きくらい、いつでも作ってやるよ」
「あり、がと」
信号が青になる。自分の右手に嵌ったリングを指でなぞった。はっ、さっきの彼から変な噂が広がったりしていないだろうか。
万里の顔をちらりと見ると、さっきの不機嫌そうな顔をどこへやら。満足そうに口の端を上げて、ハンドルをぐるりと回した。
大学の同窓会なんて、卒業してすぐに開催するものじゃないと思う。ゼミの仲間に囲まれながら、何度もループしている同じ話を聞き流した。ゼミ合宿での料理の出来がアレだった話とか、ボヤ騒ぎで停学になりかけた話とか。卒業できたんだから、全部良いじゃないか。それよりも開催地が微妙なせいで今から帰っても何時に家に着くか。あー、早く帰りたい。
「……誰かのスマホ、鳴ってるけど?」
「アンタじゃない? 彼氏?」
「そーかも」
ぶるぶると震えているスマホをぼんやりと見れば、「ばんり」の文字が浮かび上がっていた。席を立つのも億劫で、その場で通話ボタンを押した。
「迎え来たけど。どうすんの」
「今卵焼き食べてるから待って」
「はあ? あー、じゃあ駐禁切られないようにその辺走ってるから。店出るときに電話しろよ」
「オス」
「酔ってんな……」
あくびをしながら卵焼きを口に入れて、財布の中から千円札を何枚か出した。私が帰り支度をはじめたことによって、周りもそろそろと帰り支度をはじめた。やっぱりみんな帰りたかったんだ。
「あー、アンタ家遠いんだっけ」
「そ。車で二時間」
「そっかー、でも彼氏来てくれて優しいね?」
「来てくれたって言うか、一緒に来たというか」
「えー、優しい! イケメン?」
「……ヤンキー?」
鞄を持って立ち上がると、思ったよりお酒が回っていたのか視界がくらりと傾いた。とっさに壁に手をついたけど、体を支えてもらえなかったら転んでいた。同じゼミだった男の子(と言う年齢でもないけど)が「入り口まで一緒に行くよ」と言ってくれる。ボヤ騒ぎの一因になった奴だ。
「彼氏来てるから大丈夫だよ」
「いーって」
よくない。よくないのはこっちだ。鞄を奪われてしまい、行こうと促されたら大人しくついていくしかない。会費を先に渡しておいてよかった。彼の後ろをのろのろと歩きながら、ぽちぽちとLIMEを打った。だんしにつかまったので、みせのまえまできてくれ。
「俺さー」
「は?」
「お前のこと、好きだったよ。大学のとき」
「はあ……」
「リアクション薄」
「ちょっともう、眠くて」
店を出たところに、万里の車はまだ来ていなかった。ここで待っていたらそのうち来るので、と断っても何故かまだいる。おまけに無断で煙草を取り出している。ヤメロ。
「その彼氏、そんないい奴なの?」
「ソウダネ」
「俺じゃ、お前の彼氏になれない?」
私はSNSでもチェックしているフリをして、ぶるぶると震えているスマホの通話ボタンを押した。イヤホンと繋げているから、電話の向こうの万里の声は漏れていないはずだ。
「私の彼氏ね、卵焼き作るの得意なんだ」
「は?」
「だから、私に卵焼き作ってくれるひとじゃないと付き合えないかなあ」
ヘッドライトがぴかり光って、狭い道に車が停まった。すすすと窓が降りて、中から眉間に皺を寄せた万里が「早く来い」と口パクしてるのが見えた。
「……というわけなので」
なるべく波を立てないような動きでその場を離れる。もう眠いので私は寝ます。おやすみなさい。
「口説かれてんじゃねぇよ」
「ちゃんと断ったでしょーが」
「煙草くせぇ」
「禁煙しろって言っといて」
万里は少しだけ車を前に出すと、煙草の火を消している彼に向かって
「……世話になったな」
「はあ」
「じゃ」
と左手をひらりと振った。何でわざわざ左手?
*
「俺、お前に卵焼きなんか作ったことあったっけ」
「ないから明日作って」
「んだよ、それ」
「だし巻き卵がいいなー」
夜の道を走らせながら、私はふわあと欠伸をした。化粧落とさないとナントカって万里が言う。私はハンドルを握る左手に指輪が嵌っていることに気づいてぎょっと目を見開いた。
「万里」
「なに?」
「……その指輪、そこにつけるために買ったんじゃないんだけど」
この間の周年記念日にと二人で選んだ指輪が、左手の薬指に嵌っている。赤信号でブレーキを踏んだ万里は、左手から指輪を外して右手に付け替えた。
「まー、少し早いくらいいだろ」
「へ」
「卵焼きくらい、いつでも作ってやるよ」
「あり、がと」
信号が青になる。自分の右手に嵌ったリングを指でなぞった。はっ、さっきの彼から変な噂が広がったりしていないだろうか。
万里の顔をちらりと見ると、さっきの不機嫌そうな顔をどこへやら。満足そうに口の端を上げて、ハンドルをぐるりと回した。