SHORT OMI FUSHIMI
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「具合悪いのか」
「ちょっと、熱っぽくて」
教室で突っ伏していた彼女にに声をかければ、顔を上げずにそう返事が来た。広い教室の片隅、この時間だけひとりで授業を受けている彼女は深い深いため息をついた。
「隣、いいか」
「へ」
「ノート取っといてやるから。寝てろよ」
前に友達と離れてまでなんでこの授業を取っているのかと聞いたら「だって面白そうだから」と返ってきたことを思い出した。具合が悪いのにわざわざ大学に来ているのも、きっとそういうことなんだろう。
「ごめん、助かる」
「今日このあとは? ついでだから送るよ」
「これで終わり。伏見は?」
「俺も。家、隣の駅だって言ってたよな」
「覚えてたんだ。あ、これ、あげる。ノート代」
チャイムが鳴って、授業が始まる。いつも背筋を伸ばしてノートを取っている背中が丸まって、少しだけ荒い寝息を立てている。俺は着ていた上着をその背中にかけて、いつもよりいくらか真面目に授業を受けた。
とどのつまり、俺は彼女のことが好きだった。一年の頃から何となく知っていて、何となく一緒に飲む仲間だった。友達より自分の興味を優先する潔さを、カッコいいと思っていた。
自分が荒れていたことを知らない友達というのは居心地が良くて、何となく居心地が悪い。被せた上着がぶかぶかなことに気づいて女の子ってこんなに小さいのかなんて当たり前のことを思った。
*
「起きれるか」
「……終わった?」
「爆睡だったな」
結局、彼女は授業の間一度も目を覚ますことなく眠り続けていた。ノートの写真を撮って、二枚取っておいたレジュメを渡して。
「俺、バイクだから。悪いけど駐輪場まで付き合ってくれないか」
「送ってくれなくても大丈夫だよ」
「それは俺が心配だから。乗ったことあるか」
「ない、けど」
目をぱちくりと瞬かせる彼女の荷物も持って歩き出す。伏見、と呼ばれる名前がなんとなくくすぐったい。
「ここ、足掛けて」
「う、わ」
ヘルメットを被せてバイクに跨がらせる。別にバイクを置いて一緒に駅まで歩いても良かったななんて今更なことを思う。
「……怖い?」
「怖くはないと思うけど。風があるからこれ羽織っとけ」
「伏見、でか」
「見たまんまだろ」
リュックを背負ったまま上着を羽織ってもまだ大きいくらいだった。彼女の行き場のない手が俺の服の裾をそっと掴んだ。出すぞ、と一言声をかけてゆっくりと走り出した。
*
「怖かったか?」
「少し。でも面白かった」
大学の隣駅に一人暮らしをする彼女を降ろしてやりながら、俺は安堵の息を吐いた。バイクに乗って面白いと言ってきた奴ははじめてだ。
「送ってくれてありがと。今度お礼するね」
「いいって。早く帰って早く寝ろよ」
「スーパー寄ってからね」
ありがと、と手を振って去っていく後ろ姿を見送りながらふとノート代だと言われて渡されたものを思い出した。慌てて鞄から取り出してみれば、それは写真展のチケットで。本券一枚で、お二人までご入場いただけます。
「なあ!」
早く帰れと言った俺が呼び止めるのも変な話だ。彼女もそう思ったのか、振り向いて首を傾げる。俺は鞄から取り出したチケットをひらひらと振りながら大きな声を出した。
「風邪治ったら、これ、一緒に行かないか」
彼女がふわりと笑った。大きな声を出すのは憚れたのか、両腕で大きな丸を作ってくれる。親指を立てて答えると、今度こそ背中を向けて歩いていった。俺もバイクのアクセルを踏む。大学の前を通って、寮へと方向を向けた。
きっと次に彼女が大学に来るとき、確実に会える。
*
「お帰り、臣クン」
「ただいま。太一、暇か? 買い物行かないか」
「行くッス! 待ってて、上着取ってくるから」
談話室で会った太一が部屋へと駆け出していくのを見送りながら、さっきから何回か震えているスマホを取り出した。彼女からだ。
「お待たせ! あれ、臣クン。今朝上着着てなかったっけ?」
「……あぁ、大学に忘れてきたのかもしれないな」
「ちょっと、熱っぽくて」
教室で突っ伏していた彼女にに声をかければ、顔を上げずにそう返事が来た。広い教室の片隅、この時間だけひとりで授業を受けている彼女は深い深いため息をついた。
「隣、いいか」
「へ」
「ノート取っといてやるから。寝てろよ」
前に友達と離れてまでなんでこの授業を取っているのかと聞いたら「だって面白そうだから」と返ってきたことを思い出した。具合が悪いのにわざわざ大学に来ているのも、きっとそういうことなんだろう。
「ごめん、助かる」
「今日このあとは? ついでだから送るよ」
「これで終わり。伏見は?」
「俺も。家、隣の駅だって言ってたよな」
「覚えてたんだ。あ、これ、あげる。ノート代」
チャイムが鳴って、授業が始まる。いつも背筋を伸ばしてノートを取っている背中が丸まって、少しだけ荒い寝息を立てている。俺は着ていた上着をその背中にかけて、いつもよりいくらか真面目に授業を受けた。
とどのつまり、俺は彼女のことが好きだった。一年の頃から何となく知っていて、何となく一緒に飲む仲間だった。友達より自分の興味を優先する潔さを、カッコいいと思っていた。
自分が荒れていたことを知らない友達というのは居心地が良くて、何となく居心地が悪い。被せた上着がぶかぶかなことに気づいて女の子ってこんなに小さいのかなんて当たり前のことを思った。
*
「起きれるか」
「……終わった?」
「爆睡だったな」
結局、彼女は授業の間一度も目を覚ますことなく眠り続けていた。ノートの写真を撮って、二枚取っておいたレジュメを渡して。
「俺、バイクだから。悪いけど駐輪場まで付き合ってくれないか」
「送ってくれなくても大丈夫だよ」
「それは俺が心配だから。乗ったことあるか」
「ない、けど」
目をぱちくりと瞬かせる彼女の荷物も持って歩き出す。伏見、と呼ばれる名前がなんとなくくすぐったい。
「ここ、足掛けて」
「う、わ」
ヘルメットを被せてバイクに跨がらせる。別にバイクを置いて一緒に駅まで歩いても良かったななんて今更なことを思う。
「……怖い?」
「怖くはないと思うけど。風があるからこれ羽織っとけ」
「伏見、でか」
「見たまんまだろ」
リュックを背負ったまま上着を羽織ってもまだ大きいくらいだった。彼女の行き場のない手が俺の服の裾をそっと掴んだ。出すぞ、と一言声をかけてゆっくりと走り出した。
*
「怖かったか?」
「少し。でも面白かった」
大学の隣駅に一人暮らしをする彼女を降ろしてやりながら、俺は安堵の息を吐いた。バイクに乗って面白いと言ってきた奴ははじめてだ。
「送ってくれてありがと。今度お礼するね」
「いいって。早く帰って早く寝ろよ」
「スーパー寄ってからね」
ありがと、と手を振って去っていく後ろ姿を見送りながらふとノート代だと言われて渡されたものを思い出した。慌てて鞄から取り出してみれば、それは写真展のチケットで。本券一枚で、お二人までご入場いただけます。
「なあ!」
早く帰れと言った俺が呼び止めるのも変な話だ。彼女もそう思ったのか、振り向いて首を傾げる。俺は鞄から取り出したチケットをひらひらと振りながら大きな声を出した。
「風邪治ったら、これ、一緒に行かないか」
彼女がふわりと笑った。大きな声を出すのは憚れたのか、両腕で大きな丸を作ってくれる。親指を立てて答えると、今度こそ背中を向けて歩いていった。俺もバイクのアクセルを踏む。大学の前を通って、寮へと方向を向けた。
きっと次に彼女が大学に来るとき、確実に会える。
*
「お帰り、臣クン」
「ただいま。太一、暇か? 買い物行かないか」
「行くッス! 待ってて、上着取ってくるから」
談話室で会った太一が部屋へと駆け出していくのを見送りながら、さっきから何回か震えているスマホを取り出した。彼女からだ。
「お待たせ! あれ、臣クン。今朝上着着てなかったっけ?」
「……あぁ、大学に忘れてきたのかもしれないな」
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