SHORT BANRI SETTSU
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わがはいはねこである。名前は名前。
お腹が空いて、暑くて、行き倒れていたところを心優しいご主人に拾われたいわゆる元野良である。元野良と言っても今は立派な室内飼いのねこなので、出世したと言っても……か、か? そう、過言! 過言ではないのだ。もったいなさすぎるほど素敵な名前をもらい、温かい寝床とごはん、そして少しの遊び道具。ご主人にはとてもよくしてもらっているので、わがはいもご主人に出来ることは何でもしなくてはならない。
ご主人は時折、わがはいの頭を撫でながらひとりでに喋る。2、3日様子を見てると、どうやらだれかと会話をしていること、その相手は「ばんり」ということがわがはいにも何となく理解出来た。……「ばんり」はご主人のご主人だろうか? 一体、何者?
*
それは、少し肌寒い秋の日のことだった。と言っても、わがはいが外の空気を感じるのは朝ご主人が洗濯物を慌ただしく干していくときだけだ。毎朝そこで季節を感じる。みやびな趣味である。
今日のご主人は、様子がおかしい日だった。出掛ける日ではないみたいなのにひっきりなしに部屋を掃除する。あとは、わがはいに向かって落ち着かない様子でひっきりなしに話しかけるのだ。わがはいは悟った。今日はあの日だ。「ばんり」が我が家にやってくるのだ。
ご主人はわがはいの水を補充するのを失念している。鳴いて知らせると、慌てた様子のご主人は「あとでね」とわがはいの頭を撫でて出掛けていった。ふむ。ご主人が帰ってくる頃には「ばんり」も一緒なのだろう。そこまで分かるだなんて、優秀な室内飼いのねこはちがうのだ。
「名前、ただいま」
「おー、名前。元気だったか?」
ご主人より幾分か大きな手のひらがわがはいに向かってきて、スマートな身のこなしで躱した。ご主人はクスクスと笑い、「ばんり」は悔しそうに何かを呟いた。
「まだ懐かねー」
「毎日いるわけじゃないから、忘れちゃってるのかも」
「あーかもな。ところでお前、風邪引いてないか?」
「大丈夫だよー。もしかしたら今回は平気かもしれないよ」
「なわけねーだろ。ったく、人の気も知らないで」
ご主人! わがはいは「ばんり」のことを忘れたことなんてありませんよ!
みゃうと鳴いてみたけれど、ご主人は「ばんり」との会話に夢中だ。……むぅ。
「ばんり」が来ると、ご主人はわがはいに構ってくれないから嫌なのだ。何故あやつは時々我が家にやって来る? は! さてはご主人のことを……。
*
最後に「ばんり」が来てから、2、3日が経った頃。
ご主人は盛大に風邪を引いた。
はるがなつになるとき、なつがあきになるとき。一年に四回、ご主人は風邪を引く。これを風邪だと教えてくれた隣の家のベテラン室内飼いであるラブラドールレトリーバーは、これはいぬやねこにはどうすることもできないのだと言う。どうしてだ、わがはいがお腹を壊したとき、ご主人は慌てふためいてニンゲンのところに連れて行ったのに。全くもって、この世とは謎が多い。
みゃ、と短く鳴いてみた。ご主人は横たわったままひゅう、と喉を鳴らした。ニンゲンはニンゲンにしか治せないのだというのだとしたら、わがはいはいったいどうしろというのだろうか。なあ、ラブラドール、そなたはいつもどうしているのかと聞いておくべきだった。
ううむ。ニンゲン、ニンゲン……一匹思い浮かぶが、あやつに頼るのは少し躊躇するような……。いやいや、ここはご主人に忠誠を誓った気高く毛並みの良いねことしてそのようなちっぽけなプライドに囚われていてなるものか。……そうと決まれば、話は早い。
「ばんり」を呼びつける方法は簡単だ。あの光る板を使えばいいのだ。わがはいは軽やかにベッドの上に上がり、光る板を探した。……む? 光る板はどこだ?
わがはいは慌ててベッドの上を駆けた。いつもご主人が握りしめている光る板、あれがないと「ばんり」は呼べない仕組みのはずだ。わがはいが知っているのはそこまでなので、それがないとなるとわがはいはどうすることも出来ないのだ。
〜♪
なにやつ!
わがはいは背後から聞こえた大きな音にしゃあと威嚇した。お? なんだか良き音だが、なんだ、大きな音で鳴いているのは光る板ではないか!
なるほど、光る板は時折黒くなると見える。それは失敬した。
わがはいは光る板の目の前に降り立つと、とりあえず自慢の肉球で触れてみた。すると光る板はたちまち鳴くのをやめて、大人しくなったのだ! なかなか可愛いところのある奴だ。
『あー! やっと出た! おい、大丈夫か?』
「みゃう」
『……は?』
板から「ばんり」の声がして、わがはいは少しだけ毛並みを逆立てた。しかし「ばんり」が焦ったように板の中で何かを捲し立てるのを聞いて、少しだけ認識を改める。
「ばんり」はご主人の名前を何度も呼んだ。ご主人は眠っているために気付かない。わがはいはもう一度「ばんり」と呼びかけた。……さっきも呼びかけたはずなのだが、ニンゲンに猫の言葉は通じないらしい。
『名前』
「みゃあ」
『すぐ行くから、主人のことを見ててくれ』
そう言い残して、「ばんり」は板の中から喋らなくなった。光る板の中でご主人と「ばんり」が微動だにせずにいるのを見て、わがはいは首を傾げた。おや、ご主人は元気そうにここにいるのに。
*
「ばんり」はすぐにやってきた。がさがさと音の鳴るわがはいのおもちゃを持って、だ! さすがご主人に共に仕える者だ。先輩ねこへの土産を忘れない辺り、出来る奴と見える。がさがさするおもちゃの中から何かを取り出して、「ばんり」はご主人に覆いかぶさった。む、ご主人に対して如何わしいことをしないか、先輩としてしっかり見ててやらねば。
「具合どうだ」
「……バレた」
「おまえ、なんでバレないと思ったんだ」
「……名前に、餌だけやってくれる?」
わがはいの頭をいつもより乱雑に撫でたご主人は、「ばんり」の持ってきた何かを口にしてすぐにまた眠りについた。ご主人はこんなときまでわがはいのことを気にしてくださる。何と良き主なのだろう。
「ばんり」はため息を吐きながらわがはいに向き直り、水と餌を用意する。うむうむ、後輩が先輩の世話をするのは、野良でも室内飼いでも同じなのだ。
「おまえ、これ食う?」
「ばんり」が取り出したそ、それは!
室内飼いのねこの世界で有名なえさだった。一口食べればたちまち止まらなくなるという幻の!
「ばんり」は細長いものから幻を少しだけ出すと、わがはいに食べるようにと口元に近づけた。おお、これは美味い!
「気に入ったか。おまえ、今回はお手柄だったからな」
「ばんり」はそこから夜になっても帰らなかった。ご主人の顔を覗き込み、ため息を吐き、わがはいと遊ぶ。後輩のくせに、やけに仕事熱心な奴だ。わがはいもご主人の横にぴったりくっついて昼寝をする。ねこは寝るのが仕事だからだ。……わがはいがいつ目を覚ましても、「ばんり」はご主人の側から離れなかった。
やるではないか、後輩。わがはいは「ばんり」の手をぺろりと舐めた。これからも、共にご主人に仕える者同士、忠義をつくそうではないか。
*
「おい、名前。今日はねぇからな」
……万里が名前にち○~るを与えたせいで、[FN:名前]がやけに餌に文句を言うようになった。ちゅ○るって、そんなに美味しいんだろうか。
風邪を引いた日、適当に治ると思って万里からの電話を無視していたら、まさか飼い猫が電話を取るとは思わなかった。鬼の形相でやってきた万里にはしこたま怒られて、猫と万里が仲良くなっていた。……名前、アンタのご主人はわたしなんだからね?
あのときの餌はないのかと万里にじゃれつく[FN:名前]は、万里のことを部下が何かだと思っているらしい。万里のあとに[FN:名前]を構うと、なぜだか怒るのだ。猫の世界にも、年功序列は存在するのだろうか。
「ちょっとバンビ、名前はわたしの猫なんだからね」
「おまえまでそれ引っ張るのかよ!」
おいで、と手を差し伸べればちゅ~○のない奴はいらぬ、とでも言いたげに無視された。それを見て万里が爆笑する。……むぅ、ねこと彼氏が仲いいの、めちゃくちゃ複雑なんですけど!
おわり
お腹が空いて、暑くて、行き倒れていたところを心優しいご主人に拾われたいわゆる元野良である。元野良と言っても今は立派な室内飼いのねこなので、出世したと言っても……か、か? そう、過言! 過言ではないのだ。もったいなさすぎるほど素敵な名前をもらい、温かい寝床とごはん、そして少しの遊び道具。ご主人にはとてもよくしてもらっているので、わがはいもご主人に出来ることは何でもしなくてはならない。
ご主人は時折、わがはいの頭を撫でながらひとりでに喋る。2、3日様子を見てると、どうやらだれかと会話をしていること、その相手は「ばんり」ということがわがはいにも何となく理解出来た。……「ばんり」はご主人のご主人だろうか? 一体、何者?
*
それは、少し肌寒い秋の日のことだった。と言っても、わがはいが外の空気を感じるのは朝ご主人が洗濯物を慌ただしく干していくときだけだ。毎朝そこで季節を感じる。みやびな趣味である。
今日のご主人は、様子がおかしい日だった。出掛ける日ではないみたいなのにひっきりなしに部屋を掃除する。あとは、わがはいに向かって落ち着かない様子でひっきりなしに話しかけるのだ。わがはいは悟った。今日はあの日だ。「ばんり」が我が家にやってくるのだ。
ご主人はわがはいの水を補充するのを失念している。鳴いて知らせると、慌てた様子のご主人は「あとでね」とわがはいの頭を撫でて出掛けていった。ふむ。ご主人が帰ってくる頃には「ばんり」も一緒なのだろう。そこまで分かるだなんて、優秀な室内飼いのねこはちがうのだ。
「名前、ただいま」
「おー、名前。元気だったか?」
ご主人より幾分か大きな手のひらがわがはいに向かってきて、スマートな身のこなしで躱した。ご主人はクスクスと笑い、「ばんり」は悔しそうに何かを呟いた。
「まだ懐かねー」
「毎日いるわけじゃないから、忘れちゃってるのかも」
「あーかもな。ところでお前、風邪引いてないか?」
「大丈夫だよー。もしかしたら今回は平気かもしれないよ」
「なわけねーだろ。ったく、人の気も知らないで」
ご主人! わがはいは「ばんり」のことを忘れたことなんてありませんよ!
みゃうと鳴いてみたけれど、ご主人は「ばんり」との会話に夢中だ。……むぅ。
「ばんり」が来ると、ご主人はわがはいに構ってくれないから嫌なのだ。何故あやつは時々我が家にやって来る? は! さてはご主人のことを……。
*
最後に「ばんり」が来てから、2、3日が経った頃。
ご主人は盛大に風邪を引いた。
はるがなつになるとき、なつがあきになるとき。一年に四回、ご主人は風邪を引く。これを風邪だと教えてくれた隣の家のベテラン室内飼いであるラブラドールレトリーバーは、これはいぬやねこにはどうすることもできないのだと言う。どうしてだ、わがはいがお腹を壊したとき、ご主人は慌てふためいてニンゲンのところに連れて行ったのに。全くもって、この世とは謎が多い。
みゃ、と短く鳴いてみた。ご主人は横たわったままひゅう、と喉を鳴らした。ニンゲンはニンゲンにしか治せないのだというのだとしたら、わがはいはいったいどうしろというのだろうか。なあ、ラブラドール、そなたはいつもどうしているのかと聞いておくべきだった。
ううむ。ニンゲン、ニンゲン……一匹思い浮かぶが、あやつに頼るのは少し躊躇するような……。いやいや、ここはご主人に忠誠を誓った気高く毛並みの良いねことしてそのようなちっぽけなプライドに囚われていてなるものか。……そうと決まれば、話は早い。
「ばんり」を呼びつける方法は簡単だ。あの光る板を使えばいいのだ。わがはいは軽やかにベッドの上に上がり、光る板を探した。……む? 光る板はどこだ?
わがはいは慌ててベッドの上を駆けた。いつもご主人が握りしめている光る板、あれがないと「ばんり」は呼べない仕組みのはずだ。わがはいが知っているのはそこまでなので、それがないとなるとわがはいはどうすることも出来ないのだ。
〜♪
なにやつ!
わがはいは背後から聞こえた大きな音にしゃあと威嚇した。お? なんだか良き音だが、なんだ、大きな音で鳴いているのは光る板ではないか!
なるほど、光る板は時折黒くなると見える。それは失敬した。
わがはいは光る板の目の前に降り立つと、とりあえず自慢の肉球で触れてみた。すると光る板はたちまち鳴くのをやめて、大人しくなったのだ! なかなか可愛いところのある奴だ。
『あー! やっと出た! おい、大丈夫か?』
「みゃう」
『……は?』
板から「ばんり」の声がして、わがはいは少しだけ毛並みを逆立てた。しかし「ばんり」が焦ったように板の中で何かを捲し立てるのを聞いて、少しだけ認識を改める。
「ばんり」はご主人の名前を何度も呼んだ。ご主人は眠っているために気付かない。わがはいはもう一度「ばんり」と呼びかけた。……さっきも呼びかけたはずなのだが、ニンゲンに猫の言葉は通じないらしい。
『名前』
「みゃあ」
『すぐ行くから、主人のことを見ててくれ』
そう言い残して、「ばんり」は板の中から喋らなくなった。光る板の中でご主人と「ばんり」が微動だにせずにいるのを見て、わがはいは首を傾げた。おや、ご主人は元気そうにここにいるのに。
*
「ばんり」はすぐにやってきた。がさがさと音の鳴るわがはいのおもちゃを持って、だ! さすがご主人に共に仕える者だ。先輩ねこへの土産を忘れない辺り、出来る奴と見える。がさがさするおもちゃの中から何かを取り出して、「ばんり」はご主人に覆いかぶさった。む、ご主人に対して如何わしいことをしないか、先輩としてしっかり見ててやらねば。
「具合どうだ」
「……バレた」
「おまえ、なんでバレないと思ったんだ」
「……名前に、餌だけやってくれる?」
わがはいの頭をいつもより乱雑に撫でたご主人は、「ばんり」の持ってきた何かを口にしてすぐにまた眠りについた。ご主人はこんなときまでわがはいのことを気にしてくださる。何と良き主なのだろう。
「ばんり」はため息を吐きながらわがはいに向き直り、水と餌を用意する。うむうむ、後輩が先輩の世話をするのは、野良でも室内飼いでも同じなのだ。
「おまえ、これ食う?」
「ばんり」が取り出したそ、それは!
室内飼いのねこの世界で有名なえさだった。一口食べればたちまち止まらなくなるという幻の!
「ばんり」は細長いものから幻を少しだけ出すと、わがはいに食べるようにと口元に近づけた。おお、これは美味い!
「気に入ったか。おまえ、今回はお手柄だったからな」
「ばんり」はそこから夜になっても帰らなかった。ご主人の顔を覗き込み、ため息を吐き、わがはいと遊ぶ。後輩のくせに、やけに仕事熱心な奴だ。わがはいもご主人の横にぴったりくっついて昼寝をする。ねこは寝るのが仕事だからだ。……わがはいがいつ目を覚ましても、「ばんり」はご主人の側から離れなかった。
やるではないか、後輩。わがはいは「ばんり」の手をぺろりと舐めた。これからも、共にご主人に仕える者同士、忠義をつくそうではないか。
*
「おい、名前。今日はねぇからな」
……万里が名前にち○~るを与えたせいで、[FN:名前]がやけに餌に文句を言うようになった。ちゅ○るって、そんなに美味しいんだろうか。
風邪を引いた日、適当に治ると思って万里からの電話を無視していたら、まさか飼い猫が電話を取るとは思わなかった。鬼の形相でやってきた万里にはしこたま怒られて、猫と万里が仲良くなっていた。……名前、アンタのご主人はわたしなんだからね?
あのときの餌はないのかと万里にじゃれつく[FN:名前]は、万里のことを部下が何かだと思っているらしい。万里のあとに[FN:名前]を構うと、なぜだか怒るのだ。猫の世界にも、年功序列は存在するのだろうか。
「ちょっとバンビ、名前はわたしの猫なんだからね」
「おまえまでそれ引っ張るのかよ!」
おいで、と手を差し伸べればちゅ~○のない奴はいらぬ、とでも言いたげに無視された。それを見て万里が爆笑する。……むぅ、ねこと彼氏が仲いいの、めちゃくちゃ複雑なんですけど!
おわり