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大学の階段をえっちらおっちら昇る。エレベーターの点検を昼間にやるとか、マジありえない。10階の座学の教室まで階段で昇るとか無理ゲー。そうじゃなくてもこっちは駅から炎天下の中歩いてきたんだ。
4階の踊り場でひとつ息をつく。ギリギリに来た私も悪いけど、これは間に合わないかもしれない。いやいやそれでも数分の差だし、あってないようなものだ。たぶん。
下から昇ってくる人たちに次々に追い抜かされていく。みんな体力あるなあ。暑いの苦手なんだ。
また一階分階段を昇ったところで息が切れた。あと五分。もうこれ間に合わないな。
「おい、遅刻すんぞ」
「万里」
声を掛けてきたのは、同期の万里だった。イケメン、高身長、舞台のセンスあり。舞台芸術学科の"優良物件"だ。誰にでも優しくて、私もよく殺陣の居残りに付き合わせている。その長すぎる足で一段飛ばしで階段を駆け上がってくる。荷物を持ってないから、もう一度教室に行ったんだろう。握られた缶コーヒーを見て勝手に納得した。
「向かってるって先生に言っといてー」
「は?」
「しんどいからちょっと休憩してから行く」
汗だくの私を見て、万里も「エレベーターか」と笑いながら言った。わかってくれたなら話は早い。
「無理すんなよ」
「おー」
万里が階段を駆け上がってくのを見ながら、人もまばらになってきた階段に荷物を下ろす。階段に腰を下ろして、カバンの中のペットボトルを飲み干した。あー、こんなんで四年間やっていけるんだろうか。
*
「あ、いたいた」
「万里」
「お前が階段で行き倒れてるってセンセーに言ったら、連れてこいって」
行き倒れてるって。ねぇそれ、クラスのみんなの前で言ってないよね?
「もっと体力つけろよ。舞台やってけねぇぞ」
「じゃあ、筋トレの手始めに階段を登ります」
「荷物貸せ。教室に辿り着く前に授業終わんぞ」
リュックを預け、手すりを握る。なんだこれ、介護されてるおばあちゃんみたいだ。
ふと万里の顔を見上げたら、「んだよ」と眉をひそめられた。
「万里は優しいね」
一段目を踏み出す。立ちくらみはない。そして、万里からの返事もない。
「万里?」
「……別に? 誰にでもそうするわけじゃねーし」
「そう?」
そういえば、殺陣の居残りに付き合わせているときも、万里が教えてほしいと言ってくるタップの居残りもいつも二人だ。その方がやりやすいからいいけど。
「ほら行くぞ、ほんとに授業終わる」
万里の声に、慌てて手すりを握り直す。その背中を追いかけて、そういえば万里が他の子に殺陣を教えてる話は聞かないななんてことを考えた。……あれ?
**
マジで気づいてねーの?
俺はふうふうと息を吐きながら階段を昇ってくるアイツを待ちながら焦っていた。いつもマンツーマンで殺陣教えてるのも、お前にマンツーマンでタップの居残りに付き合わせてるのも「万里は優しい」で片付けて立ってことか。マジか。
「なあ」
「へ?」
九階の踊り場、俺はとりあえず今から「優しい万里」に戻っけど。もっとドスレートに行かないと四年間が終わりそうだ。
「今日レッスン室予約してあっけど、来るか?」
「タップのテスト先週だったけど」
「殺陣のテスト再来週だろーが」
残りの数段を腕を掴んで引っ張り上げる。たった数分の道のりなのに、なんかどっと疲れた。鈍感すぎる。
こうしてわざわざ迎えに来てんのも、荷物を持ってやるのも。全部お前が他の奴とは違うからだよ。
4階の踊り場でひとつ息をつく。ギリギリに来た私も悪いけど、これは間に合わないかもしれない。いやいやそれでも数分の差だし、あってないようなものだ。たぶん。
下から昇ってくる人たちに次々に追い抜かされていく。みんな体力あるなあ。暑いの苦手なんだ。
また一階分階段を昇ったところで息が切れた。あと五分。もうこれ間に合わないな。
「おい、遅刻すんぞ」
「万里」
声を掛けてきたのは、同期の万里だった。イケメン、高身長、舞台のセンスあり。舞台芸術学科の"優良物件"だ。誰にでも優しくて、私もよく殺陣の居残りに付き合わせている。その長すぎる足で一段飛ばしで階段を駆け上がってくる。荷物を持ってないから、もう一度教室に行ったんだろう。握られた缶コーヒーを見て勝手に納得した。
「向かってるって先生に言っといてー」
「は?」
「しんどいからちょっと休憩してから行く」
汗だくの私を見て、万里も「エレベーターか」と笑いながら言った。わかってくれたなら話は早い。
「無理すんなよ」
「おー」
万里が階段を駆け上がってくのを見ながら、人もまばらになってきた階段に荷物を下ろす。階段に腰を下ろして、カバンの中のペットボトルを飲み干した。あー、こんなんで四年間やっていけるんだろうか。
*
「あ、いたいた」
「万里」
「お前が階段で行き倒れてるってセンセーに言ったら、連れてこいって」
行き倒れてるって。ねぇそれ、クラスのみんなの前で言ってないよね?
「もっと体力つけろよ。舞台やってけねぇぞ」
「じゃあ、筋トレの手始めに階段を登ります」
「荷物貸せ。教室に辿り着く前に授業終わんぞ」
リュックを預け、手すりを握る。なんだこれ、介護されてるおばあちゃんみたいだ。
ふと万里の顔を見上げたら、「んだよ」と眉をひそめられた。
「万里は優しいね」
一段目を踏み出す。立ちくらみはない。そして、万里からの返事もない。
「万里?」
「……別に? 誰にでもそうするわけじゃねーし」
「そう?」
そういえば、殺陣の居残りに付き合わせているときも、万里が教えてほしいと言ってくるタップの居残りもいつも二人だ。その方がやりやすいからいいけど。
「ほら行くぞ、ほんとに授業終わる」
万里の声に、慌てて手すりを握り直す。その背中を追いかけて、そういえば万里が他の子に殺陣を教えてる話は聞かないななんてことを考えた。……あれ?
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マジで気づいてねーの?
俺はふうふうと息を吐きながら階段を昇ってくるアイツを待ちながら焦っていた。いつもマンツーマンで殺陣教えてるのも、お前にマンツーマンでタップの居残りに付き合わせてるのも「万里は優しい」で片付けて立ってことか。マジか。
「なあ」
「へ?」
九階の踊り場、俺はとりあえず今から「優しい万里」に戻っけど。もっとドスレートに行かないと四年間が終わりそうだ。
「今日レッスン室予約してあっけど、来るか?」
「タップのテスト先週だったけど」
「殺陣のテスト再来週だろーが」
残りの数段を腕を掴んで引っ張り上げる。たった数分の道のりなのに、なんかどっと疲れた。鈍感すぎる。
こうしてわざわざ迎えに来てんのも、荷物を持ってやるのも。全部お前が他の奴とは違うからだよ。