SHORT AZAMI IZUMIDA
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それは、暑い夏の日のことだった。俺がまた一つ、大人になった日。
*
本当は日焼けするから炎天下の中はあまり歩きたくない。でも、連れてきたら喜ぶだろうなとも思ったから連れてきた。万全の対策を期して日差しのもとに繰り出した俺たちは、炎天下の中とはいえまあまあテーマパークを楽しんでいた。
俺の鞄を掴む手に引っ張られて、後ろを振り向いた。隣で歩いたはずのコイツが目を閉じて立ち止まっている。俺は訳がわからずに何度か声を掛けた。……無視された。
「ごめん、もう大丈夫」
「何かあったのか」
「大丈夫、大丈夫」
何がだよ、とは言わないでおいた。女にしか分からない何かかもしれないし、言ったらデリカシーに反するかもしれないと思ったからだ。
行こう、と先を歩き出すコイツは俺をどんどん置いていく。慌てて追いかけたついで、昨日の夜からさんざんシュミレーションした通りに指先をそっと握り込んだ。まだ慣れないこれをする度に、コイツは嬉しそうな顔をする。
「そろそろどっか中入るか」
「そうだね。店空いてきたかな」
「あぁ。さすがにちょっと疲れるな」
「ふふ、連れてきてくれてありがとー」
「何回言うんだよ、それ」
もう5回は言われたことだ。昼時とおやつ時のちょうど狭間のような時間、席を見つけたカフェに荷物を下ろす。何でもいいよな、と確認を取ってアイツを残してレジに向かう。日焼け止め塗り直しとけ、と言うのを忘れずに。
冷たい飲み物と、少し軽食と。番号札を持って受け取り口の前で呼ばれるのを待つ。
テーマパークなんてそうそう来るもんでもないけれど、案外楽しいものだと思うのはアイツといるからだろうか。このあと夕方からなんかのショーのチケットを取っている。俺もアイツもよく分かってないけど、テーマパークの舞台の化粧は少し気になる。ここで少し休憩して、時間が半端なようなら土産でも見ていようか。そうしたらきっと、すぐに時間になる。
「23番でお待ちの方」
食べ物が乗ったお盆、なんだか給食みたいだ。お盆を持って席に戻った俺は荒い息を吐いているアイツを見つけて、慌てて足を動かした。
「おい、大丈夫か」
「……あ、おかえり」
「顔色わりぃ。とりあえず水飲め」
炎天下の中歩いてきたというのに、顔が真っ青だった。もしかしてさっきのも具合悪かったのか。ようやく考えが及んだ俺は、恥を偲んで隣に滑り込んだ。
「わりぃ、気づけなくて」
「……え? 気付いたから休憩しようって言ってくれたんじゃないの?」
顔を見合わせて、少しだけ笑い合った。なんつーポジティブシンキング。ぐったりしている体を預かる。肩に手を回して頭を撫でてやったら意外そうな顔をするから、水を飲めと言ってやった。
「暑いの、そんなに得意じゃないの。いいそびれてて。ごめん」
「お前」
「莇がテーマパーク連れてきてくれるって言ってくれて、嬉しかったんだあ」
辛そうな顔の中に心底嬉しそうな表情を浮かべるから、怒るに怒れなくなった。コイツはいつもそうだ。自分のことはなかなか話さないくせに、俺が喜ぶ言葉を知っている。
「……次はもっと早く言えよ。俺も気をつけるけど」
「うん。ありがと」
戻りつつある顔色を見ながら、涼しい店内でたくさん話をした。俺が知らないお前のこと、お前が知らない俺のこと。もう短い付き合いじゃないのになんでこんなに知らないことがあるんだってくらい、俺たちは会話が不足していたらしい。
日が落ちてきて、冷房が肌寒くなり始めた。それでも外に出たらたぶん蒸し暑いはずだ。俺は楽しそうに笑う顔に手を伸ばす。熱が出てるわけじゃなさそうだ。
「ショーの時間だけど、どうする。ショーの間は座ってられるんだよな?」
「うん。そうみたい」
「少し歩くのか。大丈夫か」
「……莇が手を繋いでくれたら、行けるかもなあ」
結局、買ってきた軽食は全部俺が食べた。飲み物をこれでもかと買い足した俺は、荷物を持って手を差し出した。
「…………行くん、だろ」
「うん!」
そのあとコイツが取った行動が、手を繋ぐどころじゃないことは言わないでおいた。こんな暑いのにくっついて歩くとか、正気じゃねー。だけど、それも悪くないような気がしたから言わないでおいた。今度倒れそうになったら、俺が一番に受け止めてやる為だ。
それは、暑い夏の日のことだった。俺たちがまた一つ、関係を深めた日。
*
本当は日焼けするから炎天下の中はあまり歩きたくない。でも、連れてきたら喜ぶだろうなとも思ったから連れてきた。万全の対策を期して日差しのもとに繰り出した俺たちは、炎天下の中とはいえまあまあテーマパークを楽しんでいた。
俺の鞄を掴む手に引っ張られて、後ろを振り向いた。隣で歩いたはずのコイツが目を閉じて立ち止まっている。俺は訳がわからずに何度か声を掛けた。……無視された。
「ごめん、もう大丈夫」
「何かあったのか」
「大丈夫、大丈夫」
何がだよ、とは言わないでおいた。女にしか分からない何かかもしれないし、言ったらデリカシーに反するかもしれないと思ったからだ。
行こう、と先を歩き出すコイツは俺をどんどん置いていく。慌てて追いかけたついで、昨日の夜からさんざんシュミレーションした通りに指先をそっと握り込んだ。まだ慣れないこれをする度に、コイツは嬉しそうな顔をする。
「そろそろどっか中入るか」
「そうだね。店空いてきたかな」
「あぁ。さすがにちょっと疲れるな」
「ふふ、連れてきてくれてありがとー」
「何回言うんだよ、それ」
もう5回は言われたことだ。昼時とおやつ時のちょうど狭間のような時間、席を見つけたカフェに荷物を下ろす。何でもいいよな、と確認を取ってアイツを残してレジに向かう。日焼け止め塗り直しとけ、と言うのを忘れずに。
冷たい飲み物と、少し軽食と。番号札を持って受け取り口の前で呼ばれるのを待つ。
テーマパークなんてそうそう来るもんでもないけれど、案外楽しいものだと思うのはアイツといるからだろうか。このあと夕方からなんかのショーのチケットを取っている。俺もアイツもよく分かってないけど、テーマパークの舞台の化粧は少し気になる。ここで少し休憩して、時間が半端なようなら土産でも見ていようか。そうしたらきっと、すぐに時間になる。
「23番でお待ちの方」
食べ物が乗ったお盆、なんだか給食みたいだ。お盆を持って席に戻った俺は荒い息を吐いているアイツを見つけて、慌てて足を動かした。
「おい、大丈夫か」
「……あ、おかえり」
「顔色わりぃ。とりあえず水飲め」
炎天下の中歩いてきたというのに、顔が真っ青だった。もしかしてさっきのも具合悪かったのか。ようやく考えが及んだ俺は、恥を偲んで隣に滑り込んだ。
「わりぃ、気づけなくて」
「……え? 気付いたから休憩しようって言ってくれたんじゃないの?」
顔を見合わせて、少しだけ笑い合った。なんつーポジティブシンキング。ぐったりしている体を預かる。肩に手を回して頭を撫でてやったら意外そうな顔をするから、水を飲めと言ってやった。
「暑いの、そんなに得意じゃないの。いいそびれてて。ごめん」
「お前」
「莇がテーマパーク連れてきてくれるって言ってくれて、嬉しかったんだあ」
辛そうな顔の中に心底嬉しそうな表情を浮かべるから、怒るに怒れなくなった。コイツはいつもそうだ。自分のことはなかなか話さないくせに、俺が喜ぶ言葉を知っている。
「……次はもっと早く言えよ。俺も気をつけるけど」
「うん。ありがと」
戻りつつある顔色を見ながら、涼しい店内でたくさん話をした。俺が知らないお前のこと、お前が知らない俺のこと。もう短い付き合いじゃないのになんでこんなに知らないことがあるんだってくらい、俺たちは会話が不足していたらしい。
日が落ちてきて、冷房が肌寒くなり始めた。それでも外に出たらたぶん蒸し暑いはずだ。俺は楽しそうに笑う顔に手を伸ばす。熱が出てるわけじゃなさそうだ。
「ショーの時間だけど、どうする。ショーの間は座ってられるんだよな?」
「うん。そうみたい」
「少し歩くのか。大丈夫か」
「……莇が手を繋いでくれたら、行けるかもなあ」
結局、買ってきた軽食は全部俺が食べた。飲み物をこれでもかと買い足した俺は、荷物を持って手を差し出した。
「…………行くん、だろ」
「うん!」
そのあとコイツが取った行動が、手を繋ぐどころじゃないことは言わないでおいた。こんな暑いのにくっついて歩くとか、正気じゃねー。だけど、それも悪くないような気がしたから言わないでおいた。今度倒れそうになったら、俺が一番に受け止めてやる為だ。
それは、暑い夏の日のことだった。俺たちがまた一つ、関係を深めた日。