SHORT AZAMI IZUMIDA
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「……おせぇんだけど」
「拗ねんな」
「拗ねてねぇ」
6月上旬、午後八時過ぎ。
バイト先を飛び出したらしかめっ面が待っていて、私は息を吐いた。夏だからか、日焼け対策に珍しくキャップを被っている。纏わりついた暑い空気が更に重くなるような気さえした。別に笑顔で待ってろとは言わないけど、眉間にシワを寄せたような険しい顔で待っているというのはいかほどか。……あなたの保護者にそっくりですよって言ったら、怒るんだろうな。
「莇だって稽古で遅くなるじゃん」
「俺は寮だし男だからいいだろ」
莇はそう言い切ってスマホの灯りを落としてスタスタと歩き出す。いるかもしれないじゃん、179cmの男を誘拐するような物好きが。まだ見ぬ誘拐犯に同情を寄せる。いくら莇の顔が好きだろうと、莇だけはやめておいたほうがいいと思うよ。本人も周りもあまりにも強すぎる。
「おつかれ」
「あ。お疲れ様です」
「おまえ、明日は電話ミスすんなよー」
「いやそれ先週の話! もー!」
ラーメンを食べにいく男の先輩たちの脇を通り過ぎ、先を行く莇の横に並んだ。莇は先輩たちとぎゃいぎゃい話す私を見てつまらなさそうな顔をする。顔の前でぐっと手を握りしめ、緩く開いて。何してんだろう。そう思った矢先、何かが私の頭の上にぽんと置かれた。
「わ」
「被ってろ。焼ける」
もう夜だけど。そんな言葉は口の中に閉じ込めてしまう。つばを下向きに深く被せられた莇のキャップは私の視界を邪魔する。
ふふ。私はニヤニヤしたいのを堪えてわざとらしく声を出した。
「あー、キャップ被ってるから前がよく見えないなあ」
「……」
「手でも繋いでないと転んじゃうかもなあ」
「…………」
「無視すんな」
莇は何かと葛藤するような顔をしたあと、私に向かってずいと肘を突き出した。掴まれということらしい。エレガントに掴まるのもよかったけど、どうせならと思ってぎゅっと掴まってやった。真っ赤である顔は見ないでおいてあげよう。
外でこんな、とか破廉恥なとかぶつぶつ呟いている莇の前を、更にいちゃつきながら歩くカップルが通り過ぎるまであと数十秒。
「拗ねんな」
「拗ねてねぇ」
6月上旬、午後八時過ぎ。
バイト先を飛び出したらしかめっ面が待っていて、私は息を吐いた。夏だからか、日焼け対策に珍しくキャップを被っている。纏わりついた暑い空気が更に重くなるような気さえした。別に笑顔で待ってろとは言わないけど、眉間にシワを寄せたような険しい顔で待っているというのはいかほどか。……あなたの保護者にそっくりですよって言ったら、怒るんだろうな。
「莇だって稽古で遅くなるじゃん」
「俺は寮だし男だからいいだろ」
莇はそう言い切ってスマホの灯りを落としてスタスタと歩き出す。いるかもしれないじゃん、179cmの男を誘拐するような物好きが。まだ見ぬ誘拐犯に同情を寄せる。いくら莇の顔が好きだろうと、莇だけはやめておいたほうがいいと思うよ。本人も周りもあまりにも強すぎる。
「おつかれ」
「あ。お疲れ様です」
「おまえ、明日は電話ミスすんなよー」
「いやそれ先週の話! もー!」
ラーメンを食べにいく男の先輩たちの脇を通り過ぎ、先を行く莇の横に並んだ。莇は先輩たちとぎゃいぎゃい話す私を見てつまらなさそうな顔をする。顔の前でぐっと手を握りしめ、緩く開いて。何してんだろう。そう思った矢先、何かが私の頭の上にぽんと置かれた。
「わ」
「被ってろ。焼ける」
もう夜だけど。そんな言葉は口の中に閉じ込めてしまう。つばを下向きに深く被せられた莇のキャップは私の視界を邪魔する。
ふふ。私はニヤニヤしたいのを堪えてわざとらしく声を出した。
「あー、キャップ被ってるから前がよく見えないなあ」
「……」
「手でも繋いでないと転んじゃうかもなあ」
「…………」
「無視すんな」
莇は何かと葛藤するような顔をしたあと、私に向かってずいと肘を突き出した。掴まれということらしい。エレガントに掴まるのもよかったけど、どうせならと思ってぎゅっと掴まってやった。真っ赤である顔は見ないでおいてあげよう。
外でこんな、とか破廉恥なとかぶつぶつ呟いている莇の前を、更にいちゃつきながら歩くカップルが通り過ぎるまであと数十秒。
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