何もないけど掃除は行き届いていた。

ベックマンは窓を開けた。

「この街に家はあるんだろう？」

「ええ、借家ですが・・・」

「仲間達に家具を運ばせよう」

「・・・ただ・・・そんなに運ぶ物はないです。家具など、あれもこれも借金の足しにして売りました。少し小さめのタンスや冷蔵庫はありますが・・・」

すごく言いづらかった。

ここまでお金のない女だと思われたくなかった。

「そうか。丁度良い。その物は運ばせる。見られたくない物もあるだろう。それはアイカがまとめろ。今夜、船を出す。急だが頼む」

そう言い仲間数人とベックマンとアイカは借家に行く事にした。

時間もかかるため今回は車椅子を使った。

鍵を開け入った仲間は驚いた。

本当に言った物しかなかった。

後は、服や靴や小物は段ボールに詰めていた。

「これで全部か？」

１度部屋を見渡した。

部屋は空っぽ。

「はい、全部です」

「じゃ行くぞ」

大家さんに挨拶をして鍵を返し船へと向かった。

船に着く頃には夕方になっていた。

アイカの家から持って来た荷物を部屋に置いた。

「あと、必要な物はそろえる」

「だいたいあるので大丈夫です」

「そうか。疲れてるところ悪いが、あの人のところに行くぞ」

「・・・あの人？」

「お頭だ」

そうだ。

後で来いと言われてたんだ。

遅くなったけど良いのかな？

「はい」

そう言うと松葉づえを突きながらベックマンの後を歩いた。


コンコン。


船長室の扉をノックした。

「俺だ、開けるぞ」

ベックマンはそう言い扉を開けた。

初めてに見たもの。

赤い髪の後ろ姿だった。

振り向いた。

「・・・おお、お前らか。まぁ座れ」

アイカをソファに座らせ、シャンクスはそのまま座っていた椅子に座りベックマンは壁に寄りかかり立ったままだ。

「怪我が治るまでゆっくりしろ。それにベックに借金があるんだろ？」

「・・・はい」

「まァ、返さなくても良いと思うが・・・」

「え・・・？」

小さい声で独り言のような感じだったが聞き取れた。

今返さなくても良いと言った・・・？

「船での生活は何かと大変だろ？困ったらベックに言え。言いにくかったら誰でも良い。誰かに言えば俺らの耳に入る」

「・・・はい、ありがとうございます」

「リハビリもベックやホンゴウが付き合ってくれるはずだ。だが、あまり無理はするな。ゆっくりでも良い」

さっきの返さなくて良いと言う話を詳しく聞きたかったがもう話は先に進んでいた。

もちろん返すつもりだったが、返さなくて良いのならそれはそれで良い。

「・・・ご迷惑おかけします」

「迷惑？迷惑してるのはアイカなんじゃねェの？いきなりこんな所に連れて来られて」

ごもっともだった。

だけど・・・。

「まァ、お互い気楽に行こうぜ」

そう言われベックマンと船長室を後にした。

また２人でアイカの部屋に戻り話し出した。

「あと、数日で街に着く。小さな街だが必要な物があったら言ってくれ」　

「・・・はい」

・・・ん？

・・・もしかして私のために寄ってくれるの？

私のいた街に停泊していたのなら数日で必要な物などないと思うけど・・・。

それでも１つ気になった事を聞いてみた。

「あの・・・」

「ん？」

「どうして・・・どうしてそんなに優しいんですか？」

「・・・！・・・アイカの意見は聞かずに勝手に連れて来たのは俺だ。その俺が責任を持たないでどうする？それに怪我人だ。優しくするのは当然だ」

本当にそんな事だけなのか？

海賊だが悪い人には見えない。

シャンクスさんも船医さんも良い人だし、船員さんも良い人。

・・・油断させて何かするつもり・・・？

・・・考えすぎなのだろうか。