筋トレ中の不慮の事故
「…なんで僕がこんな事を」
仕方なく手と膝を地面につけながら、月島は目の前に座ってにやにやとしている黒尾を見た。
「なにを言ってんのよ
おちびちゃんよりも強くなりたいならこういうことも必要だって事、教えてあげてるんじゃない
善意よ、ぜ·ん·い」
「いらない善意過ぎるんですけど」
「なら、もしノンストップで10回出来たら今度の合宿の時になにか奢ったげる」
「はぁ?」
あまりにも少ない回数。
明らかに"それも出来ないだろう?"と言いたげなにやつき顔。
めちゃくちゃ腹が立つ。
「…新作のヘッドホン」
「ん?」
「2万近くする、性能がいいやつ買わせてやる…」
「容赦なく高校生だと高額なもの要求するじゃない」
膝を地面から離して言う月島を見て、黒尾は口角を上げた。
「んじゃ、今からな
頑張ってやってね、"けいちゃん"?」
「下の名前で呼」
「はい、スタート~」
「…ッ…はぁ」
黒尾の飄々とした態度にため息をついた後、ゆっくりと肘を曲げ、体を下げていく。
地面につかない程度まで下げたら上げて、1回目をクリアした。
「はいあと9回~」
「わかって、ますけど…ッ」
わざわざカウントをする事に若干苛つきながらも着々と数をこなしていく。
案外腕立て伏せ位なら出来るんだな。
それか、ただ単にヘッドホン欲しさに頑張ってるだけかもしれないけど。
座った状態で月島がする姿を黒尾はジッと眺める。
「ほらほら、あと5回だよけいちゃん
頑張れけいちゃん」
「うっざい、話、かけないで」
「俺一応、他校のキャプテンなんですが?
そういう態度、改めたほう…が…」
そう言いながら視線を少し下へとずらし、襟元からチラリと胸板あたりまで見えていることがわかり見てしまう。
ツッキー。
胸。
ちく…。
ピンク…。
…。
「ッはぁ…終わった…
約束通り、ヘッドホン…え、なにその顔気持ち悪い」
「え、あぁ、うん
ヘッドホンね、ピンクのヘッドホン」
「いや、黒か白がいいんだけど」
ヘッドホンは高いので、ケーキ奢ることにした。
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