その指先まで汚したくなくて
「…」
緑間は壁に寄りかかり、水道で口をすすぐ高尾をジッと見つめた。
…顔色、さっきよりはだいぶマシになったな。
吐く前よりも顔色が改善されており、安堵の息が漏れる。
朝あった時にも少し違和感があったが、いつも通り練習していたので特に気にはしていなかった。
とりあえず、顔色も戻り、調子も大丈夫そうだ。
この分なら迎えの心配もいらず、俺が送ればいいだろう。
…しかし…もしも、俺が無理に付き合わせて体調が悪くなった、というのであれば…。
「わり、お待たせ真ちゃん」
「!」
"ぷはッ"と顔を洗い、首にかけていたタオルで顔を拭きながら声をかけてくる高尾に気付き、視線を向ける。
高尾は申し訳なさそうに眉を下げてへらりと笑った。
「もう調子は大丈夫か?」
「んー、まぁまぁ、大丈夫そ
ちょいとだけ部室で休んでからなら普通に帰れんじゃん?」
「…そうか」
「…おぉーん?」
無意識に安堵の息が漏れ出てしまい、高尾がそれに気付いたのかにまにまと笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる。
「…なんだ」
「いんやー、真ちゃん、ほんっと俺の事好きよねーっと思って」
「…顔を近づけるな、ゲロが移る」
「ゲロが移るってなに?」
「そもそも、食事も取れていなかったみたいだが、もしや朝から体調が悪かったのか?
それならば、無理に練習は」
「あー、いやまぁ、そうなんだけどさ」
深くため息をつきながら部室へと戻るために歩みを進めると、少し遅れて高尾が隣へと並び、頭の後ろで手を組みながらそれを見上げだす。
「別に体調が悪いってわけではなかったっつーか…」
"うーん"と唸り声を混ぜながら、少し言いづらそうに口をつぐんでしまう。
「…ずいぶんと言い淀むな」
「いやー、なんか言ったら真ちゃん怒りそーだなーって」
「別に怒らん、呆れるだけなのだよ」
「んっは、ならいいわ
昨日の夜さ、なーんか寝れなくて夜更かししちゃって睡眠不足でさ
ほぼほぼ寝ないまま朝になって気づいた時には遅刻寸前で朝飯食えなくてー…今に至ると」
「…どうせ高尾のことだ、やれゲームだ漫画だとそういうのをしていたんだろう?」
だいたい高尾の普段の様子から想像ができ、ジトリとした目つきで問いかけるも、高尾は"うーん"と首を傾げた。
「いつもならそうだけどよ、昨日は違うんだよな
特に何もしてねぇのに眠れなくて」
「…昨日、授業中に寝ていたな?」
「いやいや、してねぇよ
あーでも、昨日部活なかったから、その後真ちゃんちで…」
「?」
そこまで高尾が言いかけると、顔をカァァと赤く染めていき黙り込んでしまった。
それを訝しげな表情で緑間は顔を覗き込む。
「おい、どうしたのだよ」
「いや…んっと…ははッ」
「…」
ぽりぽりと照れくさそうに頬をかきながら、緑間から視線をそらす高尾。
…なんなのだよ、この態度。
昨日、部活が元々なく、俺の家で試験が近いから勉強をすることになって…。
…する…ことに…。
"ッは…真…ちゃん…ッ…ぁ"
「…」
昨日の2人の情事を思い出し、緑間も発しようとしていた言葉を止めてジッと高尾を見つめる。
「…たーぶん…その…それが原因で…目…冴えちまったのかも…なぁんて」
「…高尾…」
「あーもー、やめてやめて
今の状態の高尾ちゃんをいじろうとするのはやめ」
「…つわりか?」
「んぶッは!!」
「冗談なのだよ」
「んぉッ」
吹き出してヒーヒー笑っている高尾を横目で見、そう言いながら高尾の頭へと手を伸ばして軽く撫でると、驚きながらも嬉しそうな高尾の表情が目に入る。
「冗談じゃなかったらめちゃビビるんだけど」
「今日はおとなしく帰って寝ろ
家までは送っていってやる」
「えー?家送るだけでいいの?」
「ゲロ吐いた奴とはなにもしないのだよ」
「へーへー、それなら今日はおとなしくしときますよ」
「今日、おとなしくして体調が万全になったら考えてやらんこともない」
「んっふふ」
「真ちゃん、ほんっと俺のこと好きねー?」
「自惚れるな、ばかお」
「はいはい、照れ隠し照れ隠し」
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