忘れた頃に


「…恭弥…」

スマホ越しに聞こえてくる雲雀の声に、画面に表示されていた名前を見てわかっていたが驚きが隠せない。

「なぜ、僕のスマホの番号を知ってるのですか?
教えたつもりはありませんし、僕自身も登録した覚えがないのですが…」

自分のスマホに登録されていた名前と番号。
自分で登録をした覚えが全くなく、骸は雲雀に問いかけた。

『僕が勝手に登録したから』

「…スマホ、ロックがかかっていたはずですよ?」

『自分の誕生日にするの、やめたほうがいい
不用心過ぎるからね』

「…ご忠告どうも
しかし、いつの間に登録を…」

『3日前に君が風邪で寝込んでる時、君が眠った後に勝手に開いて勝手に登録して、GPSもつけといた』

「あぁ、なるほ…」

今、GPSって言いました?

雲雀の口から明かされる現状に骸は額に手を当てて瞳を閉じる。

「僕にもプライバシーというものがあるのですが?」

『君、ふらふらと勝手に何処か行くからね
このくらいしないと』

「そんなにふらふらなどしていませんよ、最近は
…それで、どうしたんです?電話なんて」

『別に、GPS見ていたら並盛中付近まで来ていたのに今は町中にいるようだから
僕に会いに来たのかと思ったんだけど』

やはりGPSは聞き間違いではなかったようだ。

「いえ、本当は恭弥に会いに行くつもりだったんです
この前看病してもらったので、その礼をと思いまして」

『ならなんで来ないの?』

「行こうとしたのですが…厄介な人に捕まりまして…」

『…厄介?いったい誰?』











「…白蘭です」











『…』

白蘭の名前を出すと、スマホ越しに聞こえていた雲雀の声が聞こえなくなる。

「様子からしてみるに、観光かなにかをしていたのでしょう
僕に会ったのは偶然のようです」

『…なにかされてないかい?』

「今のところは」

『そもそも、なんで彼について行ってるの?』

「ついて行こうとしていたわけではありません
ただ、彼に会った瞬間に少し目眩がしてしまいまして…まだ風邪が完全に治りきっていなかったようです
それで、彼に連れてかれるがまま喫茶店に」

『…今から行くから、そこで待ってて』

「え?いえ、流石に大丈夫ですよ
恭弥の電話のおかげで彼から離れられたのでこのまま」

『いいから、待ってて』

「ちょ…」

そういうとなにやら雲雀の声とその他の風紀委員の声だろうか、なにか話をしているのが聞こえてきてそのまま通話が切られてしまった。

…切れてしまった。
しかし、別に僕一人でもどうとでも対処は出来るというのに。

通話が切られたスマホをしばらく見つめた後にポケットへとしまうと、骸は喫茶店の中へと戻っていく。

「あ、電話終わった?」

「すいません、少し急用がありまして…」

白蘭の元へと戻り声をかけながらテーブルを視界に入れると、先ほど大量に注文していたパフェやパンケーキなどはもうなくなっており、空になった皿と先ほど骸に食べさせようとしていたプリンアラモードのみが残っていた。

「…食べるの早すぎでは?」

「こんなもんじゃない?」

「…まぁ、いいです
僕はこれから用事がありますので、失礼しますよ」

「えぇ、もう?
せっかくこれ、残しておいたのに」

残念そうな声色で白蘭は骸のために取っておいたであろうプリンアラモードを指差し、それにつられて骸も視線をそちらに移した。
先ほど白蘭がスプーンですくったのもそのまま皿に載せてあり、白蘭は一口も食べていない様子。

「元々貴方のものでしょう?」

「骸クンの為に頼んだんだから、骸クンのだよ?
それに、お腹の中になにか入れないとまたふらふらしちゃうよ?」

「…」

白蘭はスプーンを手にして"はい"と骸へと差し出し、それをジッと骸は見つめる。

…どうせまた、食べなければ堂々巡りになるだけ。
時間が勿体ないし、いつ恭弥が来るか分からない…さっさと済ませてしまおう。

「…急いでるので、本当に一口だけですからね」

そう言いながら骸はスプーンを持っている白蘭の手に自分の手を添え、スプーンに乗っているプリンを口に含んだ。

…あ、美味しい。

程よい硬さと甘さが骸好みだったのか、軽く目を見開きながら堪能する様に咀嚼をする。

「どう?美味しい?」

「…えぇ、まぁ…」

「ならこれ全部食べなよ
僕はもうお腹いっぱいだからさ」

骸の反応に上機嫌な様子で白蘭は持っていたスプーンを"はい"と骸に差し出した。

「いえ、しかし…」

「そんなに大した量じゃないしさ、それに残すの勿体ないし」

白蘭と残されたプリンアラモードを交互に見て、骸は眉間に皺を寄せて悩み始める。

確かに、残すのはもったいないほどのおいしさ…しかし…。












"骸"












「…申し訳ありませんが、残りは貴方が食べてください」

「ありゃ?」

しばらく黙り込んでいた骸だったが、白蘭へとそう告げるとスッと席から少し離れた。

「食べないの?」

「元は貴方のものですからね
それに、言ったはずです」

背中越しにかけられる声に骸は歩みを止めて軽く振り返りながら口元に笑みを浮かべる。












「"貴方からの施しはいりません"と」












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