忘れた頃に
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…結局、並盛町の町中にある喫茶店まで連れてこられて現在に至るわけですが…。
「骸クン」
「…なんです?」
ふと名前を呼ばれ顔を向けると、白蘭はメニューを骸へと差し出しながらにこりと微笑む。
「骸クンはなにがいい?」
「いえ、僕は別にいりません」
「またまたぁ、骸クン甘い物好きじゃない
今日は僕の奢りだから遠慮なく食べてよ」
「いりませんよ、お腹も空いていませんし
それになにより、貴方からの施しはいりません」
「つれないなぁ
それじゃ、適当に頼んじゃおうかな」
眉を下げながら笑い、白蘭はテーブルに併設されたボタンを押し、それを見た後に骸は視線を窓越しから見える外の景色へと移した。
平日ということもあり、人通りは少なく、店内も自分と白蘭しか客がいない。
「はい、骸クン」
「?!」
目の前に飲み物の入ったグラスを差し出され、骸は瞳を丸くしながら白蘭へと顔を向ける。
「アイスティーだったら飲めるかな?」
「…ですから僕は」
「喫茶店に着いて座ったら少しは顔色マシになったけど、まださっきよりはマシなだけだから
まだまだ顔色も悪いし水分補給と、あとなにかお腹に入れたほうがいいんじゃない?」
「だから…」
「ん?」
「…」
これは…僕が折れるまで続きそうだ。
笑顔を向けながら小首を傾げ、引く気のないような白蘭に骸はグラスへと手を伸ばして受け取った。
「…いただきます」
手にしたグラスを目の前に置き、瞳を細めながら見つめる。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
骸の考えを見透かしているのか、自分が頼んだであろうメロンフロートを一口飲み、白蘭は声を掛けた。
「さっき注文して届いたばかりだし、変なものは入れてないから」
そう言われて数秒後、骸はグラスにさしてあるストローに口を付けて一口飲む。
特に味に異常はなく香りも違和感はない、普通のアイスティー。
「…そのようですね、安心しました」
「骸クン、相当体調が悪そうだったけど大丈夫かい?」
「まぁ、そうですね
つい先日まで風邪を引いていたので、それが尾を引いているのでしょう」
実際問題、先程は寒気がしましたし…ぶり返したのかもしれない。
しかし、自分の首筋に触れてみてもそこまで高いとは感じない…。
「あらら、それは大変だね
ただでさえ万全な体調じゃないのに、なんで黒曜じゃなくて並盛まで?」
「そこまで貴方に教える筋合いはありませんよ」
「あは、ずいぶんと僕は嫌われてるみたいだね
そんなに僕のこと嫌い?」
メロンフロートのアイスをスプーンですくい上げ、困ったように眉を下げて笑う白蘭を骸は一瞥するとすぐに視線をそらした。
「何度も言いますが、貴方が未来で起こした事を思い出してからそういう発言をした方がいいかと」
「あの時は僕も若かったから、若気の至りってやつ?」
「未来の自分に若いだのなんだのと言わないでください
ややこしいですので」
「だけど、そういうことを言うってことはさ
骸クン、やっぱり思い出したの?」
「…」
白蘭の言葉に骸は手にしていたグラスをテーブルの上へと静かに置いた。
「…以前も言ったはずです
牢獄に閉じ込められており、時折貴方の下へと送り込んだグイド·グレコと意識共有をすることはしていましたがすべてを見ていたわけではない
牢獄から出た後、自分の体で見聞きしたことはすべて覚えている、とね」
「僕が、ミルフィオーレのアジトで君に勝った時のことは」
「不本意ながら覚えていますよ」
「ふぅん…そこまで覚えてるんだ…」
意味深な反応を示しながらクルクルとグラスに入ったストローを回す白蘭。
「それで、貴方は何が言いたいんです?
そろそろ」
そこまで言いかけた骸だったが、店員が白蘭が注文していたものを数点持ってきて、それを見た骸は眉間に皺を寄せた。
パフェにパンケーキ…チョコレートケーキ…プリンアラモード…。
「…貴方、どれだけ食べるつもりですか?」
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