怪しい動きにご注意を


「…ッ……はぁ…」

白蘭が自分の部屋から出ていく姿を見送った骸は、思い出したかのように深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出し壁に瞳を閉じながら顔を天井へと向けた。

やっと…呼吸が楽に…できる気がする…。

「骸」

何度か深く、ゆっくりと落ち着くように呼吸を繰り返していると名前を呼ばれ瞳をゆっくり開けてみる。
すると、自分と目線を合わせるように雲雀がしゃがんでおり骸の顔をのぞき込んでいた。

「…なぜ、貴方がここに」

「特に深い意味はないよ
ただ、君に会いに来ただけ
裏から入ったから、他の奴らにはバレていないはず」

「…そうでしたか…」

通りで、千種が声をかけてこないはずだ。
しかし、白蘭が部屋から出ていった以上、少ししたら千種が様子を見に来るかもしれない。

「…無様な姿を、見せてしまいましたね」

「そうだね、でも君のそういう姿見たことないから新鮮でいい」

「…それはどうも…」

いつもと変わらぬ様子の雲雀に安堵を覚え、骸は立ち上がろうと床に手をついた。

「ッ…」

しかし、なぜか身体が震え、うまく力が入らない。

「…おかしいですね」

「…骸」

「すいません、少し待っててください…すぐに…」

ぎこちない笑みを雲雀へと向けながら伝えると、いきなり身体を優しく抱き締められ、骸はきょとんとした表情を浮かべてしまう。

「…あの」

「なにかされたの?」

落ち着かせるように背中を撫でながらいつもより、ほんの少し柔らかな口調で聞かれ、その声色に安心感を覚えて雲雀へと身体を預けた。


あぁ…この感じは…心地良い。


「…いえ、なにも…」

「…ふぅん、そう
でも、なにもされてないのになんでこうなってるの?」

「…わかりません」

「わからない?」

「本当に、わからないんです…」

自分自身でも、なぜこのような事態になっているのか。
白蘭と最初、会った時には普通に会話もできていた。


…しかし…。









『本当に思い出してないんだね、僕悲しいなぁ』









『それに順する行動をすれば、思い出してくれるかな?』










『また、10年後の時みたいに』










『"仲良く"、しようよ』 










「骸」

「ッ!」

白蘭の言葉が脳裏で何度も繰り返され、再び冷や汗が頬を伝うと、雲雀に名前を呼ばれてハッとする。

「…白蘭が言うには、10年後の世界で僕と彼の間になにかがあったようなんです
しかし…僕はなにも覚えていないんですよ
彼と、なにがあったのか」

頭を手で押さえながら思い出そうにも、なにも思い出せない。

「…彼の口からでまかせじゃない?」

「その可能性が高い、とは思います
しかし…そのような事をわざわざ日本に来てまで言う必要がありますか?」

「…」

ユニ達と一緒に日本から出ていったというのに、わざわざこちらまで来て、それを言うためだけに来る。

そんな手がかかる嫌がらせがあるのだろうか?

「…骸」

「…はい、なんでしょ…ん…」

少し黙り込んで考えていた雲雀に名前を呼ばれ、骸が顔を向けると目元を指で拭いその場に立ち上がった。

「場所、変えるよ
僕の家でいいかい?」

「…大丈夫ですよ、貴方も暇ではないでしょう?
仕事の合間に来たのでは?」

「まぁね、でもそれより君の方が優先」

…僕の方が優先って…なんでそう、恥ずかしげもなく言えるのか…嬉しいですが。

サラリと骸にそう告げると、雲雀はスマホを取り出して電話をし始める。
会話の中に"草壁"という単語が聞こえてきたので、おそらく風紀委員に電話をしているのだろうと察した。

「…立てるかい?」

電話を終えた雲雀が再度しゃがみこんで骸へと問いかける。
骸はグッと力を足に込めてゆっくりと立ち上がると、壁に一息つくかのように寄りかかった。

「はぁ…大丈夫そうです」

「この調子じゃ、僕の家に着くまでに日が落ちそうなんだけど」

「大丈夫ですよ…ちょっと待っててください
千種に声をかけてか」


ヒョイッ。


「…は…」

壁伝いに部屋から出ていこうとすると、不意に身体が浮かぶ感覚があり、きょとんとしていると雲雀に姫抱きされていることに気付く。

「…あの、なにを」

「眼鏡、かけてるのに声かければいいの?」

「眼鏡…えぇ、千種に…」

「そ、わかった」

「わかった…っ…て…」










「ちょ、ちょっと待ちなさい…!!」










5/9ページ
スキ