勘違いから始まる関係
「ししょー、まだ寝ないんですかー?」
23時半、暗い部屋の中。
ソファーに座りながら天井を見上げていた骸。
部屋の扉がキィッと微かに開く音で顔を向けるとそこには眠たげな瞳で見つめるフランの姿があった。
「おやおや、こんな時間まで起きているとは…悪い子ですねぇ
よく起きているのがわかりましたね」
「んー…なんとなく、ですかねー…」
ふらりと少しふらつきながらフランは骸へと近付いていき、ぽふりと骸の空いている隣に倒れるように座る。
今にも電池が切れそうなフランの頭に手を伸ばして優しく撫でてやるとスッと瞳が閉じてしまった。
「ベッドで眠りなさい、風邪引きますよ」
「んー…ししょー…」
「なんですか?」
小さな声で途切れ途切れに骸を呼び、聞こえるようにと骸はフランの口元へと耳を近づけた。
「何処にも…いかないでくださいねー…」
「…」
フランの言葉に驚き瞳を丸くしてしまう。
すると、すぐさま"すー…"と寝息が聞こえてきてフランの顔を覗き込むと気持ちよさそうに眠ってしまっていた。
それを見た骸は静かに立ち上がり、フランをソッと抱き抱えると隣の部屋へと移動をした。
そこには犬と千種の姿があり、ソファーに近付くとそこにフランを置いて近くにある毛布をかける。
フランは起きることはなくそのまま毛布へと包まり、確認した骸は頭をひと撫ですると建物の外へと出ていった。
少し、夜風に当たってから眠りましょうか。
外へと出てると心地よい風がふいており、骸は近くにあったベンチへと腰掛けた。
ふと見上げると、月が出ていて星も輝いている。その光景に魅了されたかのようにぼぅっと眺めてしまう。
今日は疲れましたね…いつもの事なので慣れたといえば慣れてしまいましたが…。
明日は雲雀恭弥との件がありますし、そろそろ眠るとしましょうか。
寝不足で負ける、なんてことはあってはなりませんし。
そもそも、一度負けただけでこんなに執拗に来られるとは思いませんでした。
負けず嫌い、というわけで片付けられない…執着、という言葉のほうが合っている。
もういっその事、幻術で負けた僕の姿でも見せ…いや、逆効果ですね。
"僕のこと、舐めてるの?"
なんて怒り顔をする彼が容易に想像できる。
なんならそこから跳ね馬のように逃げることも出来ず互いの体力が無くなるまで付き合わされそうだ。
そう思いながら骸は立ち上がると、中へと入る扉へと近付いていき手を伸ばした。
…そういえば、何時から、って指定するの忘れてましたね。
まぁ、彼の事だ。朝一に来るでしょうしそれまで寝て…。
ゾクリ。
シュッ。
「ッ!」
不意に背筋に悪寒が走り、首元に風を感じた骸は瞬時にしゃがみ込んだ。
しゃがんだ瞬間に自分の頭上でなにかが空を切る感覚がし、そのまま足に力を込め勢いをつけてタンッと距離を取った。
敵…しかし、僕を狙う物好きなんて誰が…。
立ち上がり、先程まで自分がいた場所を確認しながら槍を生成する。
雲で月明かりが隠されてしまい、何者かがいるのは確かだが顔まではよく見えない。
「不意をついたのによく避けれたね」
「!」
聞き覚えのある声。
毎日毎日嫌と言うほど聞いた、この声。
「貴方は」
そこまで言うと目の前になにかが飛ばされてくるのに気付く。
骸はそれを避けると頬をチッと微かに掠め、痛みから表情を歪めた。
すると、いきなり目の前に人影が現れガッという音と同時に頬に鈍痛が走る。
「ぐ…ッ」
重みのある一撃に脳が揺らぐ感覚。
そのまま後ろへと倒れ込むと、首元に長く硬いものが押し付けられた。
まるで逃さないと言わんばかりに。
「君から言い出した割に、すんなりと捕まったね
少し、拍子抜け」
つまらなそうに吐き捨てながら彼は骸の上へと馬乗りになる。
骸は腹部にかかる重みに微かに表情を歪め、忌々しそうにその人物を見上げた。
月を隠していた雲がだんだんと流れていき、月明かりに照らされてその正体が露わになる。
「雲雀…ッ…恭弥…」
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