特権乱用


さて、どうしたものか。

骸は口元を手で覆ったまま、上に覆いかぶさり、自分の言葉を待っている雲雀をチラリと見上げた。

彼に名前を呼んでみるように言われ、そんなもの簡単だと思い口にしようとしたものの、妙な羞恥心にかられて中々口に出すことが出来ない…。
たった一言、彼の名前を呼べばいいだけの事なのに。

「…」

上から"早く呼べ"というような圧をひしひしと感じる。

…千種や犬の事は、すんなり呼べるんですがね…。
たった一言、呼ぶだけなのに…我ながら情けない。

「ねぇ、まだ?」

スッと顔を近付けてジッと見つめながら雲雀は問いかけてきた。

「…あと少しだけ待ってください」

「もう結構待ったけど
これ以上待たせる気なのかい?」

骸からの返答に雲雀はピクリと反応を見せ、ムッとした表情へと変える。

「まだ5分も経っていないでしょう?
こちらも心の準備というものが必要なので」

「時間の問題じゃないよ
僕は、君のこの口から、僕の名前を呼んでほしいんだから」

「ッ」

雲雀の顔がお互いの鼻が触れ合う距離まで近付くと、骸の唇に人差し指を当てながら真剣な眼差しで見つめだす。
それに骸は微かに瞳を見開き、思わず見つめ返してしまう。










「今すぐに」










低い声で囁くような言い方。

その声が、耳の中に残る。

「…あ…」

これは、なんとも恐ろしい。

骸はハッとして微かに開いてしまった自分の口を固く閉じ、雲雀の手から逃げるように顔を横に向けた。

「…」

顔をそらされたのがよほど気に触ったのか、雲雀は眉間に皺を寄せて険しい表情をする。

…術士であるこの僕の脳が、揺らいでしまった。

彼の言葉に、行動に、姿に…それほどまでに僕は…。

「ッん」

考え込んでいると不意に自分の腹部に指が這う感覚があり、くすぐったさから小さく声を漏らしそこに目をやると、大人しくしていた雲雀の指が自分の服の裾から入り込んでいることに気付いた。

「なに、してるんですか?」

「僕言ったよね、"名前呼んだらやめてあげる"って
でも君、呼ぶつもりないみたいだから」

「そういうわけでは…だから少し時間を」

「やだ、待たない」

「ッ…ちょっと…」

顔が更に近付き、お互いの唇が触れるだけのキスをされ、すぐに離されると熱のこもった瞳を向けられて目が話せなくなり思わず息を呑む。






 


「さぁ…名前を呼ぶか、それともこのまま僕に咬み殺されるか…」










「どっちにするの?」










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