恋人ゆえの特権なので


「…さっきから思ってたんだけど、君って動物あまり寄ってこないよね」

骸の頭を撫でるのを満足したのか、雲雀は手を離して自分とは違い猫が近付かない事を不思議そうに首を傾げた。
その言葉に骸は、ずっと自分の太ももの上に丸くなっている猫を見る。
全身真っ黒の黒猫。その猫は瞳を閉じて気持ちよさそうに眠っていた。

「貴方が猫ホイホイなだけです
まぁ、確かに先ほどからこの子しか僕のところに来ませんが…」

…この猫…何処となく誰かに似てるような。

ふと、既視感を覚えた骸は思い出すように思考を巡らせる。

周りに流されず、自由気ままなこの姿…。
一匹狼…。

考えながら雲雀に目をやる。
何処となく、猫と同じような雰囲気を感じて骸は"あぁ"と納得したように声を漏らした。

なにか見たような気がしたと思えば…雲雀恭弥に似ている。
通りで見たことがあるはずだ。
周りに流されることのない、自由気ままな雲のよう。

「…」

そんな彼同様、僕の事を好いてくれているんですかね。

「クフフ、そう思うと少しは愛らしく見えてくる」

猫の頭に手をのせると、猫は片目を開け少し骸を見つめた後に手にぐりぐりと頭を押しつける。
その様子に笑みが溢れてしまい、雲雀にススッと視線を向けた。

「…一つ聞きますが」

「なに?」

「お持ち帰りとかは出来ますか」

「できるわけない」

「ですよね…」

ピシャリと即答をされ、骸は少し寂しそうに瞳を細めて猫から手を離した。

「君のところには犬もりんごも、他にも煩わしい奴がいるから
猫の世話してる暇なんてないんじゃない?」

「…それとこれとは話が別と言いますか…
こんなに僕に懐いてくれる動物はいないので」

「僕からの愛じゃ不満ってこと?」

「クハッ!」

口角を上げ、悪戯気な笑みを浮かべて雲雀は問いかける。
その発言に骸は思わず吹き出してしまい、クスクスと微笑んだ。

「クフフ…なにを言い出すのかと思えば…妬いてます?
このようにか弱い小動物に、貴方が?」

「そうだよ、妬いてる
君、僕の事なんてそんな顔で見ないくせに」

からかう口振りで言うも、雲雀は本気なのか拗ねたように頬を膨らませ骸が撫でていた黒猫の鼻先に軽く触れる。
黒猫は少し驚くと、スッと骸の上から離れて行ってしまい、その背中を骸はジッと見つめた後に雲雀に向き直った。

「せっかく僕のもとに来てくれた猫を追い払うのはやめてください」

「追い払ってないよ
ただ勝手にあっちが離れただけ」

「しかしまぁ、貴方が猫に妬く姿を見れたのは中々滑稽でした」

「悪い?」

「そんな事は言ってませんよ
ただ、まぁ…」

骸は空いている雲雀の片手に自分の手を重ねる。
雲雀は驚いたように目を見開いてその手を見た。










「妬かせてしまった詫び、とは言いませんが…これくらいはして差し上げます」

「…この程度で喜ぶのは、中学生くらいじゃない?」

「貴方、中学生では?」










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