恋人ゆえの特権なので
「…あの」
「ん?」
骸は自分の隣に座る雲雀に顔だけ向けながら声を掛ける。
本当は体も動かしたい…が、動かすことが出来ない。
なぜなら、自分の太ももの上に我が物顔のように丸まっている猫がいるからだ。
雲雀は骸同様に太ももの上に座っている猫を背中から尻尾にかけてゆっくりと撫でながら返事をした。
「…これ、触ってもいいんですか?」
「触らなかったら、ここに来た意味無いんだけど」
「…それはそうですが」
骸は少し戸惑いながら再度自分の太ももに丸まっている猫を見下ろす。
…結局、猫カフェがなにか分からないまま彼に連れられてここまで来てしまった。
こういうものにはあまり興味が無いですし。
カフェ、とついているので軽食や飲み物があるのだれうと思っていたが。
「…まさか、猫がいるとは」
「猫カフェだからね、当たり前」
猫の背中にそっと触れてみると温かさが伝わってくる。
そのまま横に滑らせてゆっくりと撫でてみると、猫が"にゃあ"と気持ちよさそうに瞳を細めながら鳴いた。
その光景に思わず表情が緩んでしまう。
「…クフフ」
思ったよりも、これはこれでいいかもしれない。
「満足そうでなにより」
「えぇ、たまにはこういうのも…」
ふと雲雀に顔を向けると骸は言葉を失ってしまった。
「なに?」
「…いえ…貴方、猫が近寄ってき過ぎでは?」
少し目を離した隙に雲雀の足元や太ももの上には数匹の猫が群がっており、雲雀は両手で優しく猫を撫でている。
「またたびでもつけてます?」
「つけてないよ、それはマナー違反」
「マナー違反って…しかし、本当に好かれていますね」
「ただ近くに僕がいた、それだけじゃない?」
そんなことあるわけないでしょう。
そう言いかけたが骸はグッと堪え、言いながらも嬉しそうに頬を緩めている雲雀を見て撫でられている猫へと視線を落とす。
猫は雲雀の手に擦り寄り、もっと撫でろと言わんばかりにアピールを続けている。
そういえば…匣のハリネズミ然りヒバード然り…小動物率が高い。
代理戦終了して入院していた時もヒバードがぞうしょくしたりしていましたし…彼は小動物がお好みのようだ。
彼の性格や見た目的に、黒豹やタスマニアデビルを従えそうなのに…もしや、もう従え済みか?
「ねぇ、なんでそんなに見てるの?」
「…あぁ、すいません
少し考え事をしていまして」
雲雀のことを見続けていたのか、ふと声をかけられ苦笑を漏らしていると今度は雲雀がジィィと穴が開きそうなほど視線を向けてくる。
「…なんでしょう?」
見られることに耐えきれずに骸が問いかけると、雲雀はスッと手を伸ばして骸の頭に触れ、優しく撫で始めた。
頭から伝わる手の温かさに驚き、目を見開いて雲雀を見ると雲雀は無表情のまま撫で続けている。
「あの、これは」
「羨ましそうに猫、見てたから撫でて欲しいのかなって」
「そんなわけないでしょう!」
「声大きいから静かにして」
「ッ…すいません…」
思った以上に声が張ってしまい、周りにいた猫達がビクッと身体を跳ねさせるのを見て雲雀が小さく制すると、骸はハッとして声を押さえた。
「ですが、ここでそんなことをしないでください
他の方の目もあるんですから」
「それって、ここじゃなければいいってこと?」
「なぜそういう考えに至るのか理解に苦しむのですが」
「なら、撫でられるのは嫌?」
「嫌に決まって…」
なでなで。
「…あの」
なでなで。
「…ん」
…しかし…なかなかこれは…。
延々と撫で続ける雲雀の手。
その慣れた手つきに少し安堵感と気持ちよさを覚え、骸は瞳を細めて声を漏らす。
たまにはこういうのも良…。
そこでふと雲雀に視線を移すと口角を上げて骸の顔を見つめていた。
「…お気に召してるようで」
「…黙りなさい」
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