小さな弟子の嫉妬心


「僕に対して、怒ってたんじゃないんですか?」

「怒る?」

"いててー"と頭を手で押さえているフランを横目にため息混じりに聞く骸の言葉に、フランは首を傾げながら骸の隣に腰掛けた。

「ししょーの何に対してですー?」

「いえ、それを今聞いているんですよ」

「そりゃまぁ、ししょーに対して恨み辛みはたくさんありますが、ししょーに対して怒ったりとかはしてないですー」

「恨み辛みの内容が気になりますが…まぁ、今回は見逃しましょう」

「あ、聞きますかー?
ちょっとたくさんあり過ぎてどのくらい時間がかかることかー」

「言わなくて結構…それで、なぜ先程はあのような態度を?
今朝も僕のベッドにいつの間にか潜り込んで眠っていましたし…」

指折り数えながら語りだそうとするフランを手で制し、本題に入ろうと骸はフランに促した。

「いつもなら千種達と雑魚寝でしょうに」

「そりゃー…まぁー…ししょーと一緒にいたかったから?」

「いたかったから?って…なぜ疑問形を…っと」

"うーん"と首を傾げながら言うフランに少し呆れた表情を浮かべていると、隣から骸の太腿の上へとフランは向かい合うように座りだしてジッと顔を見つめ始めた。

「こら、降りなさい」

「嫌ですよ、ししょーこの前ずーっといなかったんで罰ゲームですー」

「罰ゲームって…なぜ僕が受けないといけないんですか」

「だーから、勝手にいなくなっちゃったからですよ」

「ッ」

ズイッと顔を近づけられあまりの近さに思わず骸は後ずさってしまう。

「…僕に対して恨み辛みがあるのならば、いなくなってもどうということはないでしょう?
むしろ、いなくなってせいせいしたのでは?」

「むむむー、それとこれとは話が違いますー
人の事、日本にまで連れてきて術士として修行させといて勝手にいなくなるなって話ですよ
最後までちゃんと、みーのお世話をして欲しいものですー」

「なんでそんなに偉そうなんですかね」

「今のみーには、ここにしか居場所がないんです
あんたがいなくなったら、その居場所がなくなることおわかりですかー?」

随分と口の達者な子だ…。
いつもの真顔で、あまり非表情からは考えが読めない。
しかし、どこか真面目な口ぶりで話すフランを骸は瞳を細めながら見つめた。

「…僕が居なくなったところで、千種や犬がいるでしょう?」

「千種さんや犬さんは確かにいますよー
ですが、ししょーがいないじゃないですかー」










「みーは、ししょーと一緒にいたくてあんた達についてきたんですからー」











「…」

これは驚いた。

フランの言葉に骸は瞳を丸くしながらフランを見た。
恥ずかしがる様子もなく、さも当然かのような態度。

「…なぜ、僕と?」

「え、そりゃー…もう片方の方は虫歯菌にしか見えない不審な集団でしたしー
それなら、パイナップルと愉快な仲間達のほうがましかなーと」

「そうだと思いましたよ」

「いでッ」

フランの発言を聞き、イラッとしながらペシッと軽く骸はフランの被り物を叩いた。
フランは痛がる様子を見せた後、ジトリとした目つきで骸を見上げる。

「暴力反対ですー、訴えてやりますー」

「黙りなさい
全く、聞いて損しましたよ」

「なんですかー?ししょーが居なくて寂しいとか言って欲しかったんですかー?」

「…お前、千種との会話を聞いていましたね?」

「さぁて、何のことかー」

わざとらしく口笛を吹きながら視線を逸らす様を見て、骸はフランの脇を掴んで自分の上から退かして隣に置くと立ち上がった。

「フラン、出かけますよ」

「出かけるって何処にー?
今日まだ修行してませんけどいいんですかー?」

「昨日も遅くまでしましたし、今日はお休みです」

ソファーに掛けてあった上着を手にして袖に手を通し、チラリとフランへと目をやる。










「…犬達には内緒で、アイスでも買いに行きましょうか」

「…!おー、ししょーも悪い子ですねー」

「クフフ、僕が良い子なわけないでしょう?」










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