勘違いから始まる関係


まったく、困ったものだ…。

雲雀と別れ、黒曜ランドへと帰路につく骸は道を歩きながら本日何度目か分からないため息をついた。

あまりにもしつこいのであの様な提案をしましたが、まさか受け入れられるとは思いませんでしたね。
あの後も、"わかった"とだけ言い残してさっさと帰っていきましたし。
なにか裏でも?しかし、彼がそこまで考えるとは思いませんし、ただ単に僕を捕まえられる自信があるからでしょう。
 
「まぁ、それはこちらとて同じこと」

術士である僕の方が明らかに優勢なのは間違いない。
彼の敗北し悔しがる顔が目に浮かぶようだ。

「…クフフ」

雲雀の悔しがる表情を思い浮かべ、少し機嫌がよくなった骸は黒曜ランドへと辿り着き扉を開けて中へと入る。
薄暗い廊下を歩いていき、一番奥の扉に手をかけて入っていくと、廊下とは違い明るい室内に少し瞳を細めた。

「あ、骸さんおかえりぴょん!」

「骸ちゃんおかえりぃ」

ソファーに座ってテレビを見ていた犬とМ·Мが扉の開く音で気付いたのか骸に体を向けて声をかけてくる。
パタンと扉を閉め、骸は"ただいま帰りました"と返事をしながら室内を見渡す。

「千種とフランは?」

「あっちでやってるぴょん」

千種とフランの姿が見えず聞いてみると、犬がお菓子を口に頬張りながらテレビの奥にある部屋を指差した。

「そうですか、では見てくるとしましょうか」

「骸ちゃん、今日も遅かったけどまた雲雀恭弥とデート?」

М·Мがにやにやとにやつきながら言う言葉に骸はピタリと歩みを止めて眉間に皺を寄せた。

「…そんなわけないでしょう、今日もいつも通り喧嘩を売られただけです」

「なぁんだ、違うの?
いつもいつも遅くまで飽きもせずに大変よねぇ」

つまらなそうに唇を尖らせたМ·Мは興味がなくなったのか犬と再びテレビを見始める。
その光景に骸は少し呆れたようにため息をつくと、犬が指した部屋へと歩いていき小さくコンコンッとノックをした。
すると、すぐに扉が開いて中へと入ると扉の直ぐ側の壁に千種が寄りかかっており開けたのは千種だということを察した。

「お帰りなさい、骸様」

「いつも遅くまでありがとうございます、千種
修行の程は?」

「…」

千種が視線を移動させ、骸はそれを追うように視線を移した。
"むむむ"と唸りながらフランは幻術で出来た桃の被り物を維持している。
しかし、集中力が切れかけているのかその被り物からは微かに霧が発生している。

「りんごだと、ずっと出来るんですけど」

「あまり桃は好みではないのかもしれませんねぇ」

「そういう問題ではないかと」

「フラン」

フランの名前を呼ぶとピクッと肩を跳ねさせフランは振り返る。
骸の姿が視界に入ると、立ち上がって"おかえりなさーい"と近寄ってきた。
それと同時に桃だった被り物は霧を纏いながら普段のりんごの被り物へと姿を変えた。

「あららら」

「ただいま、名前を呼んだだけで解けてしまうとは…まだまだ修行が足りませんね」

りんごに戻ってしまった被り物を隠すように手で覆うも、その光景に骸は苦笑交じりに告げると優しく被り物に触れる。

「そー言いますけどー、かれこれ30分やってるんですからねー?
それだけ出来れば上等じゃないですかー」

「なにを言いますか
出来ればりんご以外も1日、それ以上出来てほしいものです」

「ちぇーッ、ししょーはいいですよねー
いつもパイナップル維持してるから…ッいて」

霧で槍を作りフランのりんごへと容赦なく突き刺す。
痛がるような声を出しながら表情はいつもの無表情に等しい。

「ししょー、今のご時世こーいうのはだめですよー
一発アウトですー」

「お前に危害を加えていないのでセーフですよ」

「そーいう意味じゃねーよ」

「さて、あと30分やりますよ」

「えー、もう疲れたんですけどー
なにもご褒美ないのにやれと言われてもなー」

だらりと疲れたように床に寝転がる様を見て骸は小さく息を吐き、フランの隣に座り込んだ。

「ならばこうしましょう
あと30分維持できればデザートをつけましょう」

骸の提案にフランは反応を示し、床に片頬をつけた状態で骸をチラリと見た。

「…アイスがいいですー」

「クフフ、いいでしょう
あとで終わったら買いに行きますよ」

「言いましたからねー、約束ですよー?」

ガバッと起き上がり、フランは片手の小指を骸に差し出すと少し驚きながらも骸はその小指に自分の小指を絡める。









「えぇ、わかりました
約束です」









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